ホワイトレディー

運転手は、即座に笑顔を作った。「もちろんです。ペットショップですね。ナビで調べれば、すぐに分かります。それでは、お乗りください」運転手は、後部のドアを開けた。秀樹は、先に、亜紀を乗せて、その横に腰掛けた。運転手が、ドアを閉めたとき、亜紀とデートしているようで、秀樹の心臓はバクバクし始め、顔が真っ赤になった。運転手が、参ります、と言うとハイブリットのベンツが静かに動き出した。

 

 亜紀は、ペットショップの場所を指示しようと思ったが、ナビにしたがって行ってもらうことにした。10分もするとペットショップに着いた。運転手は、駐車場にベンツを入れると、さっと降りて、亜紀が座っている方の後部ドアを開けた。「つきました。ここで待っていますので、ごゆっくりお買い物をなさってください」にやっとした秀樹は、先に降りるとすばやく反対側のドアに回りこみ、亜紀が降りるのを笑顔で待った。亜紀は、一人で買いものをしようと思っていたが、金魚のフンのように秀樹は後ろからついてきた。

 

 亜紀は、店内に入り、カウンター横に立っていた店員に声をかけた。「ハトのえさをください」店員は、ハトのえさを持ってくるとカウンターに置いた。「それと、ドッグフードがほしいのですが、とびきりおいしいのをください」店員は、高級な牛肉で作られたドッグフードを手に取ると、駆け足で戻ってきた。店員は、会計をした。「合計で、8580円です」亜紀は、えさがこんなに高いとは思わなかった。きっと、ドッグフードが高いのだと思った。財布の中の5000円札を見つめ、ちょっと、首をかしげた。

 そのとき、秀樹が店員に声をかけた。「ちょっと待ってください」秀樹は、店を出ると駆け足で運転手を呼びに行った。「ジー、エサの代金を払ってくれ。いいだろ」買い物を任されている運転手は、笑顔で、はい、と返事をした。小走りにカウンターにやってきた運転手は、内ポケットから財布を取り出し、秀樹専用カードでえさの代金を支払った。亜紀は、何と言っていいか分からず、とっさに、ありがとうございます、と言ってしまった。

 

 亜紀は、肩をすぼめてしまった。エサの代金で秀樹に借りを作ってしまい、なんとなく惨めになってしまった。「家に帰ったら、お返しします」亜紀は、言葉を付け加えたが、運転手は、笑顔で返事した。「気にしなくて、いいんですよ。お坊ちゃんからのプレゼントです。さあ、参りましょう」運転手は、秀樹と亜紀の背中を押して、自動ドアを出た。二人を後部座席に乗せたベンツは、亜紀の自宅に向かった。 

 

 亜紀の自宅前の道路にベンツが到着すると、聞きなれないエンジン音をキャッチしたスパイダーがワンワンと吠えた。スパイダーの声にびっくりして跳ね起きたピースが、ベランダに飛び出した。夕食の準備をしていたアンナも宅急便ではないかと思い、ベランダに出た。アンナは垣根の入り口に目をやると、入り口前にシルバーのベンツが止まっていた。入り口には、最近ちょくちょく遊びにやってくる秀樹と亜紀の姿があった。亜紀は、落ち込んだ顔で頭を下げていた。

アンナは、エプロン姿のままで駆けていき、声をかけた。「お帰り、亜紀、送っていただいたの?」亜紀に声をかけるやいなや、ベンツに目をやった。アンナの姿に気づいた初老の男性が、運転席から降りてくるとアンナに挨拶した。「こんにちは。秀樹お坊ちゃんが、お世話になっています」アンナは、送ってもらったことに恐縮し、お礼を言った。「こちらこそ、送っていただきまして、ありがとうございます。亜紀、ちゃんと、お礼を言ったの?」亜紀は、すでに、何度もお礼を言っていたので、ほんの少し、イラッとしたが、笑顔を作り、改めて、ありがとう、とお礼を言った。

 

 運転手と秀樹に頭を下げたアンナと亜紀は、ベンツが消えるまで手を振って見送った。亜紀は、ペットショップでえさ代を運転手に支払ってもらったことを話すべきだと思ったが、秀樹のプレゼントだと思った瞬間、そのことを話したくなくなった。亜紀に小さな秘密ができたとき、亜紀の顔がポッと赤くなった。うつむいた亜紀は、とっさに、アンナを置いてベランダでお座りをしているピースのもとに駆けて行った。

 

 姫島を飛び立った二羽のカラスとホワイトレディーは、二時半ごろ平原歴史公園に到着し、ヤマモモの木の下で、亜紀が帰ってくるのを待っていた。3時前に帰宅した亜紀は、ハトたちの歓迎パーティーを歴史公園ですることをピースに伝えた。ピースは、早速、公園で待っているカラスとホワイトレディーにパーティーのことを伝えに行った。亜紀は、アンナに知られないように、こっそりパーティーの準備に取り掛かった。

犬、猫、ハト、カラスのエサと飲み物と、自分が食べるサンドイッチとオレンジジュースをキャリーバッグに詰め込み、こっそり、それを玄関前に置くと、キッチンからアンナに声をかけた。「ママ、ちょっと、公園に行ってくる」夕食の準備を終え、リビングで福岡モーターショーの予告ニュースを見ていたアンナは、いつもの返事をした。「暗くならないうちに帰ってくるのよ。分かった」亜紀は、大きな声で、ハ~~イと返事すると、スパイダーを連れて公園に向かった。

 

 ポッポッポ~、ハトポッポ~、豆がほしいか、そらやるぞ、みんなでいっしょに、食べに来い。ポッポッポ~、ハトポッポ~、豆はうまいか、食べたなら、みんなでなかよく、遊ぼうよ。亜紀のカワイ~声が、公園まで流れた。イエローのキャリーバッグを引いてくる亜紀を確認した風来坊は、ホワイトレディーに声をかけた。「みんな、お友達の亜紀ちゃんだ。ベンチのところに行こう」カラスとホワイトレディーは、小さく羽ばたき、ベンチの前に集合した。

 

白いハトたちに気づいた亜紀は、右手を大きく振りながら、笑顔で声をかけた。「ヤッホ~、お待たせ~」ベンチに到着した亜紀は、キャリーバッグをベンチの前に立て、詰め込んでいたご馳走を取り出し、ベンチの座席に並べた「みんな、お腹すいたでしょう。今から、パーティーよ」亜紀は、五羽の白いハトには、ペットショップで買ったハトのエサ、カラスにはポップコーンと食パン、ピースにはキャットフード、スパイダーにはスペシャルドッグフードをお皿に盛り付けると、それぞれをベンチの前に並べた。

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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