ホワイトレディー

「みんな、食べていいわよ」カラス、ハト、猫、犬、いっせいに、イタダキマ~~スと言って、お皿に顔を突っ込んだ。さらに、亜紀は、ミネラルウォーターを三つのお皿に注ぎ、カラスとハトたちの前に一つ、ピースの前に一つ、スパイダーの前に一つ、こぼさないようにゆっくり置いた。

 

 ダイエットをしている少食のホワイトレディーは、いち早く食事を終え、ご馳走さま、と言った。風来坊とケイスケたちは、大きなくちばしで、食パンをパクパク食べていた。スパイダーは、ドッグフードがなくなっても、お皿を舐めまわしていた。ピースは、小さな口で、上品にキャットフードを少しずつ味わうように食べていた。亜紀もハムサンドを口にほう張り、もぐもぐさせて、ゆっくり食べた。

 

 風来坊とケイスケたちは、山盛りの食パンをたいらげ、満足げな笑顔でご馳走さま、と言った。スパイダーは、まだ食べたりないと言った顔つきで、ご馳走さん、と言った。ピースは、右手で口を拭きながら、かわいらしい声で、ご馳走さま、と言った。最後に、亜紀が、ジュースをゴクンと飲み下し、ご馳走さま、と言った。久しぶりのご馳走にありつけて、お腹を押さえていた風来坊は、ホワイトレディーの笑顔を見たとき、彼女たちの紹介を忘れていたことに気づき、自己紹介させることにした。

 「みんな、自己紹介をやってくれないか」風来坊がホワイトレディーにお願いすると、彼女たちは、顔を見合わせて、ミーから自己紹介することにした。「私は、ミーと言います。長崎平和公園からやってきました。いつもは、隣のケイと一緒に観光客相手にモデルをやっています。次はケイ」ケイが、少し緊張したのか甲高い声で話しはじめた。「私は、ケイです。長崎生まれの長崎育ちです。糸島に招待してくれて、ありがとう。そいじゃ、次は、ラン」

 

目を丸くしたランは、小さな声で話しはじめた。「私は、ランです。浦上天主堂からやってきました。三姉妹の長女です。次は、スーね」ぽっちゃりのスーは、落ち着いた低い声で話しはじめた。「次女のスーです。ガッツがとりえで、旅行が大好きです。はい、ミキ」ぶりっ子のミキは、首を傾げて、話しはじめた。「私は、三女のミキです。カワイ~とみんなから言われます。エヘヘ」亜紀は、遠路はるばるやってきてくれたハトたちに、拍手を送った。「皆さんは、すばらしいわ。観光客相手に、毎日、平和を訴えているんだもの。これからも頑張ってください。

 

そうだ。ピースとスパイダーも自己紹介しなくっちゃ。はい、ピースから」突然振られたピースだったが、大人の色気を出しながら、自己紹介した。「私は、ハリウッド女優のピースと申します。生まれはロサンゼルスで、かつての主人の仕事の関係で、日本につれてこられました。ところが、帰国の際、飼い主は私を日本に置いて帰国してしまいました。ニャ~ンニャ~ン泣き崩れて、途方にくれていたとき、やさしい、亜紀ちゃんに拾われました。今は、幸せな日々を送っています。はい、スパイダーどうぞ」

 

人前で話すのが苦手なスパイダーは、照れくさそうに話しはじめた。「あの~、僕は、スパイダーと言います。赤ちゃんのときから亜紀ちゃんに育ててもらいました。毎日、おいしいドッグフードを食べさせてもらい、かわいがってもらっています。得意なことは、食べることと吠えることです。よろしく」スパイダーが話し終えると、ピースがケラケラ笑った。ピースは、亜紀の自己紹介を促した。「亜紀ちゃんもどうぞ」

 

亜紀は、満面の笑顔で話しはじめた。「私は、動物とお話するのが大好きな亜紀といいます。小学校二年生です。得意な教科は、ロボ工学です。苦手な教科は、体育です。将来は、戦闘機のパイロットになりたいです。好きなゲームは、戦争ゲームです。動物と話していると、ママから、ブツブツ独り言はやめなさい、とよく言われます。でも、これからも、もっともっと、動物とお話したいと思います。よろしく」

 

亜紀の将来の夢を聞いて、ちょっと気になったランは、亜紀に質問した。「亜紀ちゃん、私たちは、平和のシンボルとして、頑張っているんだけど、いつまでたっても、戦争はなくならないのよ。人間は、戦争に勝つことによって、幸福になれると思っているみたいだけど、原子爆弾で多くの人を殺して、いったい、誰が幸せになったんだろうね。亜紀ちゃんの幸福って、やっぱり、戦争に勝つことなの?」

亜紀は、みんなを守るために戦闘機のパイロットになりたかった。でも、守ると言うことは、戦争に勝つことで、多くの人を殺すことだと気づかされた。返事に困った亜紀は、しばらく、黙り込んでしまった。亜紀を助けるようにピースが話しはじめた。「亜紀ちゃんは、純粋に幸福を望んでいると思う。子供は、みんな、戦争なんて、いらないと思っているのよ。バカなのは、大人なのよ。人間は、大人になるにしたがって、幸福と言うのが、分からなくなってしまうのよ。亜紀ちゃん、大人には、ならないよね」

 

亜紀の目からは、涙がこぼれた。子供は、いずれ、大人になる。そして、戦争をするバカになってしまう。子供が、大人にならなくてすむ方法があるのだろうかと思ったが、どんなに、抵抗しても、大人になってしまうように思えた。突然、風来坊が、大声で話しはじめた。「みんな、人間ばかりを責めてはいけない。地球に住んでいるのは、人間以外に、動物や植物もいるんだ。そうさ、俺たちがいるじゃないか。亜紀ちゃんを助ければいいじゃないか。平和のために、亜紀ちゃんと一緒に頑張ればいいじゃないか。な~、みんな」

 

亜紀の脳裏に、突如、原爆を投下している戦闘機が浮かんだ。その戦闘機のパイロットは、亜紀だった。亜紀の体は、震えだした。亜紀は、正義と思っていた自分の夢が怖くなった。そして、自分に言い聞かせた。人を殺しても、幸福にはなれない。たとえ、原爆を投下されようとも、反撃のために、武器を持ってはいけない。話し合えば、きっと分かり合える。もっと、もっと、友達を増やせばいい。世界中の人たちが、すべて友達になるまで、友達作りをしよう。動物たちの思いやりを感じたとき、亜紀の目から涙は消えた。

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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