ホワイトレディー

ホワイトレディーが、グランドの上空に現れると、「白いハト、白いハト、五羽もいる」と子供たちの叫び声が校庭に響き渡った。一人の男子が、叫んだ。「白いハト、俺、はじめて見た。かっけいいな~」ホワイトレディーは、早速得意の飛行を始めた。ミーは、高く舞い上がって、らせん状に急降下した。ケイは、回転しながら、急降下を始めた。ランは、大きな円を描き、グランドの中心に向かって徐々に小さな円を描いていった。スーは、グランドすれすれに低空飛行をやった。ミキは、縦の八の字を描がき、さらに、横の八の字を描いた。

 

空中飛行を窓から見ていた先生や中学生たちも大きな歓声を上げ、拍手をした。空中ショーを終えたホワイトレディーは、校舎の屋根にきれいに並んで止まり、クック、クック、とさえずりながら得意のラインダンスを披露した。子供たちの拍手は、しばらくやまなかった。子供たちは、大きく手を振り、また来てね~、といっせいに叫んだ。ホワイトレディーは、右の翼を振って、さよならを言うと、大空に舞い上がった。

 

                  歓迎パーティー

 

 小学校二年生の授業は、1時半に終了し、亜紀のクラスは、PCの電源をオフにして下校を開始した。ほとんどの生徒は、下校後、何らかのレッスンを受けていて、亜紀も水曜日には、今宿スイミングクラブで50分間のトレーニングをして帰宅していた。でも、亜紀は、昨日、風来坊のお友達の五羽の白いハトが長崎からはるばるやってくることをピースから聞かされていた。だから、白いハトを歓迎するために、今日は、ハトのえさを買ってなるべく早く帰宅することにしていた。

亜紀が、席を立って、帰りかけたとき、秀樹が声をかけてきた。「今日も、スイミング?」亜紀は、顔を左右に振って返事した。「今日は、まっすぐ帰る。長崎から、お友達が来るから」秀樹は、うらやましそうに尋ねた。「長崎から?以前、長崎に住んでいたの?」亜紀は、くすっと笑って、返事した。「そうじゃないの。友達って、人じゃないの。びっくりしないでよ。お友達って、ハトなのよ。遠路はるばる、長崎平和公園からやってくるのよ。だから、歓迎パーティーをやってあげようと思ってるの」

 

 秀樹は、ハトと聞いて、金魚のようにぽかんと口を開けた。内心からかっているのではないかと思ったが、変に疑って、嫌われてはいけないと話をあわせることにした。「へ~、亜紀は、カワイ~から、お友達が多いんだね。ハトって、あの空を飛ぶハトだよね。どうやって、友達になったんだい?」亜紀は、秀樹がこんなに気遣ってくれる男子とは思わなかった。いつも、金持ちとか、サッカーが得意だとか、カラオケが上手だとか、自慢話ばかりして、嫌な感じの男子と思っていたが、気遣う一面にふれて、ほんの少し、心を許せる気がした。

 

 「信じられないと思うけど、実は、そのハトって、カラスのお友達なのよ。カラスを通じて、ハトとお友達になったの」秀樹は、開いた口がふさがらなかった。からかうにしても、ここまで、作り話をしなくてもいいんじゃないかと思った。この話だと、亜紀ちゃんは、カラスともお友達ってことになる。いくらなんでも、カラスと友達になるなんてありえないと思った。

「カラス?カラスを通じてってことは、亜紀は、カラスとも、お友達ってことになるけど、どうやって、カラスと友達になったのさ」亜紀は、クスクス笑い出した。まったく冗談のような話だから、この辺で冗談だと言おうかと思ったが、この際、怒り出すまで話すことにした。「カラスはね、家に飼っている猫の友達なの。つまり、猫とカラスと亜紀は、友達ってこと。分かった?」

 

 もはや、あきれて何もいえなかった。冗談にしても、ここまで、冷静に話されると、怒りがこみ上げてこなかった。「そうなのか。とにかく、亜紀は、カワイ~から、友達が多いってことだよね。お友達って、ハトだろ、歓迎パーティーって、どんなことやるんだよ」亜紀は、ハトのえさを買う話をすれば、怒りがおさまるんじゃないかと思った。「大それたことじゃないのよ。ハトにエサをあげるだけよ」

 

 秀樹は、やっと、気持のもやもやが、消えた気がした。ハトにエサをやるだけのことだとわかり、話を盛り上げることにした。「ハトのえさって、ポップコーンみたいなもの?」亜紀は、今からの計画を話すことにした。「ハトのエサを今から買いに行くの。ハトにおいしいエサを食べさせて、ハトさんに喜んでもらおうと思ってるの。ペットショップのおじさんに聞いて、買う事にする」

秀樹は、亜紀に気に入られる絶好のチャンスと思い、ペットショップについていくことにした。「そうか。ペットショップに行くんだったら、僕の車で行けばいいさ。僕は、亜紀のお供をするから」秀樹は、いつも、ベンツの送り迎えで、通学していた。亜紀は、ちょっと、ためらったが、西新のペットショップに行くには、地下鉄を降りて歩かなければならなかったので、この際、秀樹を利用することにした。

 

 亜紀は、上目づかいでささやいた。「それじゃ、乗せてもらおうかな~?」秀樹は、笑顔で返事した。「いいとも、車は、もう着いているはずだ。さあ、行こう」秀樹と亜紀は、送り迎え専用の駐車場に向かった。二人が駐車場に行くと、初老の運転手がベンツのボンネットを磨いていた。秀樹に気がついた運転手は、愛想のよい軽やかな声で、挨拶をした。「お坊ちゃん、お待ちしていました」運転手は、亜紀を見て首を傾げたが、笑顔を二人に向けた。

 

 「ジー、今日は、ちょっと、寄り道をして帰る。いいだろ」運転手は、女子を送るつもりだと察知した。「分かりました。お嬢さんをお送りすればいいのですね」秀樹は、了解してくれてほっとしたが、さらに、西新のペットショップの話をした。「ちょっと、ペットショップによってほしいんだ。亜紀は、ハトのえさを買いたいんだってさ。西新にあるそうなんだ。行ってくれるだろ」

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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