ホワイトレディー

風来坊は、野村望東尼遺跡の見学を予定していたが、そのほかに、観光スポットがあるか聞いてみた。「姫島の名所と言えば、野村望東尼遺跡ですが、そのほかに何か名所はありますか?」卑弥呼女王は、名所と言われ首をかしげた。姫島は、漁業で生計を立てている漁村で、島からの眺めが絶景だと言うことぐらいしか、特に自慢できるものはなかった。確かに、海の幸は、新鮮でとても美味で自慢できることであったが、タイやサザエは、ハトたちの食事というわけには行かないと思った。

 

卑弥呼女王の脳裏に、ピンとひらめきが起きた。尻尾を左右に振り、笑顔で答えた。「この島には、これといった名所は、ありませんが、すぐそこに、数人の生徒しかいない小中学校があります。子供たちと遊んで見られてはいかがですか。きっと、子供たちにとって、白いハトを見るのは初めてではないでしょうか。きっと、子供たちは、大喜びです」防波堤の北側に位置する小さな姫島小中学校には、十人ほどの生徒が通っていた。

 

ホワイトレディーは、子供たちと聞いて、ぱっと笑顔になった。もし、島の子供たちが、長崎平和公園に行ったことがなければ、私たちのことを知らないと思った。この際、平和の大切さを知ってもらうためにも、平和のシンボルを見てもらうことは、有意義なことだと思えた。ケイが、みんなに声をかけた。「この島の子供たちに、ホワイトレディーのパフォーマンスを見せてあげましょう。子供たちは、きっと喜ぶわよ。早速、学校に行ってみましょう」

風来坊とケイスケも卑弥呼女王の提案に賛成だった。「皆さん、学校に行って、子供たちと遊んできてください。私たちは、ここで待っています」卑弥呼女王は、早速案内することにした。「皆さん、学校に案内します。私についてきてください」卑弥呼は、堤防の北側にある学校につながる小道を勢いよく駆けて行った。ホワイトレディーも舞い上がると小道の先にある茶色い屋根の学校を確認し、一気に猫を追い越し学校に飛んで行った。

 

ちょうどそのとき、小学生五人が校庭でサッカーをやっていた。ホワイトレディーは、校舎の屋根に止まり、しばらく子供たちを眺めていた。ミキが、疑問を投げかけた。「子供たちって、全部で五人なのかしら。寂しい学校ね。たった、五人じゃ、サーカーチームも、野球チームも、できないね。かわいそう。とにかく、私たちで、励ましましょう」ハトたちは、子供たちを喜ばせるパフォーマンスを考え始めた。

 

少し遅れて、黒猫が校庭の入り口にやってくると、黒猫に気づいた子供たちが、ワ~イワ~イ、と叫んで黒猫のもとに走った。ここの生徒たちにも黒猫は、人気ものだった。スーは、みんなに問いかけた。「みんなで、いつもの空中ショーをやりましょう。円を描いたり、急降下したり、旋回したり、それぞれ、得意な技を披露しましょう。どう?」全員、よっしゃ、と気合を入れるとグランドの上空に舞い上がった。

ホワイトレディーが、グランドの上空に現れると、「白いハト、白いハト、五羽もいる」と子供たちの叫び声が校庭に響き渡った。一人の男子が、叫んだ。「白いハト、俺、はじめて見た。かっけいいな~」ホワイトレディーは、早速得意の飛行を始めた。ミーは、高く舞い上がって、らせん状に急降下した。ケイは、回転しながら、急降下を始めた。ランは、大きな円を描き、グランドの中心に向かって徐々に小さな円を描いていった。スーは、グランドすれすれに低空飛行をやった。ミキは、縦の八の字を描がき、さらに、横の八の字を描いた。

 

空中飛行を窓から見ていた先生や中学生たちも大きな歓声を上げ、拍手をした。空中ショーを終えたホワイトレディーは、校舎の屋根にきれいに並んで止まり、クック、クック、とさえずりながら得意のラインダンスを披露した。子供たちの拍手は、しばらくやまなかった。子供たちは、大きく手を振り、また来てね~、といっせいに叫んだ。ホワイトレディーは、右の翼を振って、さよならを言うと、大空に舞い上がった。

 

                  歓迎パーティー

 

 小学校二年生の授業は、1時半に終了し、亜紀のクラスは、PCの電源をオフにして下校を開始した。ほとんどの生徒は、下校後、何らかのレッスンを受けていて、亜紀も水曜日には、今宿スイミングクラブで50分間のトレーニングをして帰宅していた。でも、亜紀は、昨日、風来坊のお友達の五羽の白いハトが長崎からはるばるやってくることをピースから聞かされていた。だから、白いハトを歓迎するために、今日は、ハトのえさを買ってなるべく早く帰宅することにしていた。

亜紀が、席を立って、帰りかけたとき、秀樹が声をかけてきた。「今日も、スイミング?」亜紀は、顔を左右に振って返事した。「今日は、まっすぐ帰る。長崎から、お友達が来るから」秀樹は、うらやましそうに尋ねた。「長崎から?以前、長崎に住んでいたの?」亜紀は、くすっと笑って、返事した。「そうじゃないの。友達って、人じゃないの。びっくりしないでよ。お友達って、ハトなのよ。遠路はるばる、長崎平和公園からやってくるのよ。だから、歓迎パーティーをやってあげようと思ってるの」

 

 秀樹は、ハトと聞いて、金魚のようにぽかんと口を開けた。内心からかっているのではないかと思ったが、変に疑って、嫌われてはいけないと話をあわせることにした。「へ~、亜紀は、カワイ~から、お友達が多いんだね。ハトって、あの空を飛ぶハトだよね。どうやって、友達になったんだい?」亜紀は、秀樹がこんなに気遣ってくれる男子とは思わなかった。いつも、金持ちとか、サッカーが得意だとか、カラオケが上手だとか、自慢話ばかりして、嫌な感じの男子と思っていたが、気遣う一面にふれて、ほんの少し、心を許せる気がした。

 

 「信じられないと思うけど、実は、そのハトって、カラスのお友達なのよ。カラスを通じて、ハトとお友達になったの」秀樹は、開いた口がふさがらなかった。からかうにしても、ここまで、作り話をしなくてもいいんじゃないかと思った。この話だと、亜紀ちゃんは、カラスともお友達ってことになる。いくらなんでも、カラスと友達になるなんてありえないと思った。

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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