知らぬが仏

亜紀の悲しむ姿を見ていた卑弥呼女王は、静かに話し始めた。「風来坊が、言ってることは、もっともです。人間は、生物の共生を考えるべきです。いかなる生物も、健全で平和に生きる権利があるのです。奇形の生物を作り出し、何の反省もしない人間は、生物のクズです。一刻も早く、人間を消滅させるべきです。でも、人間は、知恵があるから、手ごわいのです。人間に勝てる生物は地球上にはいないのでしょうか?」

 

うつむいて涙を流していた亜紀が、小さな声で話し始めた。「ごめんね、みんな。人間って、本当にだめね。人間は、頭がいいはずなのに、共生ができないのよ。同じ人間として、とっても悲しい。核兵器を作ったり、原発を作ったり、生物に有害なものを作り続けるなんて、人間は、地球のガンだわ。染色体を破壊して、どこが面白いの。遺伝子組換えをやって、有害植物を作ったり。どうして、自分たちがやってることが、自殺行為だとわからないのかしら。頭がいい人は、気が狂うのかしら」亜紀は、自分が人間であることが、恥ずかしくなった。

 

ピースは、亜紀に同情した。「みんな、確かに、人間は、バカで、おろかで、狂気で、救いようがないけど、亜紀ちゃんは、違うの。きっと、亜紀ちゃんは、私たちを守ってくれるわ。亜紀ちゃん、がんばって」亜紀の優しい心を知っているピースは、みんなに訴えた。卑弥呼女王は、小さくうなずいたが、風来坊は、フン、という顔で話し始めた。「人間は、みんな同じだ。いずれ、金儲けに気が狂って、戦争するに決まっている。人間なんて、信用できやしない。みんな、だまされるんじゃないぞ」風来坊は、国会議事堂まで届くような大声をだした。

亜紀の目からは、涙が滝のように流れ落ちていた。ピースは、風来坊をにらみつけ、亜紀を援護した。「みんな、亜紀ちゃんは、違う。みんな、信じて」亜紀は、涙声で話し始めた。「本当に、人間は、どうしようもないほど、バカだと思う。金儲けのために兵器を作り、テロを使って戦争を起こし、何の罪もない子供たちを殺して、本当に、気が狂っているとしか思えない」亜紀は、両手で顔を覆うと顔を左右に何度も振った。

 

スパイダーがワンとほえ、低い声で威嚇した。「亜紀ちゃんをいじめたら、承知しないぞ。みんな、食っちまうぞ」ピース、卑弥呼女王、風来坊たちは、目を吊り上げた夜叉のような形相のスパイダーを目の当たりにして、凍り付いてしまった。亜紀は、今にも飛びかかりそうなスパイダーをなだめ、しっかりと抱きしめた。「みんなは、悪くないの。悪いのは、人間のほうなの。ありがとう、スパイダー」

 

少し言い過ぎたと思ったのか、風来坊がご機嫌を取るように話し始めた。「人間は、バカだ。でも、亜紀ちゃんのような優しい人間もいるから、地球も救われるんじゃないか。みんな、亜紀ちゃんを応援しようじゃないか」ピースもうなずき、声を張り上げた。「そうよ、亜紀ちゃんは、生物の宝よ。亜紀ちゃんと一緒に、人間の下品な心を矯正しよう」卑弥呼女王が、大きくうなずいた。

うわさ

 

世界各国をまたにかけて飛び回る渡り鳥の仲間たちからいろんな情報を手に入れている地獄耳の風来坊は、大きな黒目をギョロギョロさせて、みんなに問いかけるように話し始めた。「ところで、東京オリンピックのうわさを知ってるか?東京オリンピックをボイコットする国が増えているそうだ。このままじゃ、もしかすると、東京オリンピックは、おじゃんになるかも知れんぞ」

 

亜紀もそんなうわさを耳にしたことがあった。「そうなのよ、いったいどうなるのかしら。利根川も、東京湾も、ダムも、地下水も、大気も、東京はすでに放射性物質に汚染されているみたいね。毎日、福島原発から、放射性物質が海や地下水に流れ込んでいるらしいわ。だから、これから、ますます、東京は汚染されるはずだわ。でも、政府は、そのことをニュースで報道しないのよ。なぜかしら。一刻も早く、みんなに教えてあげないと、大変なことになるのに。そんな東京でオリンピックを開催するなんて、無茶苦茶よ」

 

スパイダーも亜紀の意見に同感だった。「人間は、犬よりバカだ。犬たちも、東北、関東から逃げ出しているというのに」ピースが、不安げな顔で話し始めた。「オリンピックは、東京以外にできないのかしら?もう、ておくれかしら」亜紀が、うなずきながら同感するように話し始めた。「そうね、福岡がいいんじゃない。ヤフードームもあるし。熊本、大分、佐賀などの競技場も使えば、どうにかなるんじゃない。政府は、のんきなものね。世界各国は、日本は放射能汚染国だとはっきり公言しているのに、何にも気にならないのかしら。信じらんない」

風来坊は、ブルブルと顔を左右に激しく振り、甲高い声で話し始めた。「福岡は、ダメだ。そんなことをすれば、東京の放射能汚染が明るみに出て、東京は大パニックだ。東京に大地震が起きたときよりも、大惨事だ。東北、関東から九州への民族大移動が起きたらどうなる。こうなれば、日本の文化も産業も、崩壊だ」あまりにも大胆な発言に亜紀は、度肝を抜かれたが、近い将来、東京の放射能汚染がばれて、東京に大パニックが起きるように思えた。

 

ピースも風来坊の言っていることがなんとなく分かるような気がした。放射能汚染をくい止めることができなければ、嘘を突き通すほうが、日本のためのように思えた。「きっと、政府はあきらめているのね。世界中から集まってくる人たちに、放射性物質をたくさん吸い込んでもらって、世界中を放射能で汚染するつもりなのよ。みんなでガンになれば、怖くない、ってやつよ。人間は、やっぱ、バカってこと」

 

風来坊は翼をパタパタさせて、ピースに笑顔を向けた。「人間は、放射能で死んでしまえ。でも、九州には、放射能を持ってくるんじゃないぞ。最近、九州の人口が増えているが、困ったものだ。こうなったら、九州を日本から分離して、アメリカ合衆国の州に加えてもらわねば。アホな日本政府はほっといて、九州独立じゃ」亜紀は、風来坊の意見は、現実離れしていると思ったが、そのように思っている人間もいるんじゃないかと思った。

春日信彦
作家:春日信彦
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