知らぬが仏

即座に、ピースはお上手を言った。「あら、スパイダーったら、大人になったのね。頼もしいわ、こちらの卑弥呼女王をお守りしてあげてちょうだい。こんなに頼もしい仲間がいて、とってもうれしいわ」能天気のスパイダーは、お世辞を言われて、尻尾を何度も振って笑顔を作った。スパイダーの上機嫌を察した風来坊は、ゴミあさりの誤解を解くためにスパイダーに話しかけた。

 

「わしら、カラスは、どうも誤解されている。確かに、ゴミをあさることはあるが、悪気はないんじゃ。腹が減って、どうにもならんときに、ゴミ袋をつついてしまうんじゃ。この場を借りて、深くお詫びする。仲間にも、袋をつつかないように言っとくから、許してくれ」風来坊には、かつて、ゴミ袋をつついているときに、スパイダーに追いかけられ、一目散に逃げた苦い経験があった。

 

スパイダーは、あのときのことを思い出しドヤ顔で話し始めた。「おしかったな~、もう少しで食えたのに。悪さするやつは、容赦なく食ってやる。世の中には、懲りずに悪さするやつが多いからな~。そういえば、ゴミ袋をかき破ったノラ猫がいたぞ。今度見つけたら、食ってやる」スパイダーは、チラッと黒猫を見た。びっくりしたピースは、弁解がましく口をガタガタさせながら口を動かし始めた。

「それは、よくないことだわ。その猫、きっとお腹がすいていたのね。でも、ノラ猫にしているのは、人間じゃない?責任を持って、エサをやるべきなのよ。悪の根源は、人間にあるのよ。確かに、ノラ猫はよくないけど、ノラ犬は、もっと、たちが悪いんじゃないの」ピースは、スパイダーの顔色をうかがった。スパイダーは、野良犬が子供を追っかけたり、人に吠えたりして、人間に迷惑をかけていることを残念に思っていた。野良犬の悪さを考えると何も言えなかった。

 

そのとき、即座に、目を吊り上げた亜紀が口を挟んだ。「そうね、猫、犬、蛇、ワニ、亀、アライグマ、ライオン、いろんなペットを飼うのはいいと思うんだけど、責任を持って飼うべきよね。飼えなくなったからとか、嫌いになったからとか、そんないい加減な理由で、山や海に捨てるなんて、絶対許せない。本当に、人間は、身勝手。とっても、亜紀は、人間として悲しい」亜紀は、人間の醜さを指摘され、うつむいてしまった。

 

風来坊が、ここぞとばかり人間攻撃を開始した。「そうだ、そうだ。人間は、チョ~下品だ。放射性物質なんかをばら撒いたおかげで、俺みたいな変な白いカラスが生まれたし。どうしてくれるんだ。東北と関東では、奇形の鳥、犬、猫、魚、花、人間が、わんさか生まれてやがる。どうなるんだ、ニッポンは。人間の頭は、狂っちまってやがる。人間なんて、クソくらえだ」亜紀は、さらに叱責され、涙がこぼれた。

亜紀の悲しむ姿を見ていた卑弥呼女王は、静かに話し始めた。「風来坊が、言ってることは、もっともです。人間は、生物の共生を考えるべきです。いかなる生物も、健全で平和に生きる権利があるのです。奇形の生物を作り出し、何の反省もしない人間は、生物のクズです。一刻も早く、人間を消滅させるべきです。でも、人間は、知恵があるから、手ごわいのです。人間に勝てる生物は地球上にはいないのでしょうか?」

 

うつむいて涙を流していた亜紀が、小さな声で話し始めた。「ごめんね、みんな。人間って、本当にだめね。人間は、頭がいいはずなのに、共生ができないのよ。同じ人間として、とっても悲しい。核兵器を作ったり、原発を作ったり、生物に有害なものを作り続けるなんて、人間は、地球のガンだわ。染色体を破壊して、どこが面白いの。遺伝子組換えをやって、有害植物を作ったり。どうして、自分たちがやってることが、自殺行為だとわからないのかしら。頭がいい人は、気が狂うのかしら」亜紀は、自分が人間であることが、恥ずかしくなった。

 

ピースは、亜紀に同情した。「みんな、確かに、人間は、バカで、おろかで、狂気で、救いようがないけど、亜紀ちゃんは、違うの。きっと、亜紀ちゃんは、私たちを守ってくれるわ。亜紀ちゃん、がんばって」亜紀の優しい心を知っているピースは、みんなに訴えた。卑弥呼女王は、小さくうなずいたが、風来坊は、フン、という顔で話し始めた。「人間は、みんな同じだ。いずれ、金儲けに気が狂って、戦争するに決まっている。人間なんて、信用できやしない。みんな、だまされるんじゃないぞ」風来坊は、国会議事堂まで届くような大声をだした。

亜紀の目からは、涙が滝のように流れ落ちていた。ピースは、風来坊をにらみつけ、亜紀を援護した。「みんな、亜紀ちゃんは、違う。みんな、信じて」亜紀は、涙声で話し始めた。「本当に、人間は、どうしようもないほど、バカだと思う。金儲けのために兵器を作り、テロを使って戦争を起こし、何の罪もない子供たちを殺して、本当に、気が狂っているとしか思えない」亜紀は、両手で顔を覆うと顔を左右に何度も振った。

 

スパイダーがワンとほえ、低い声で威嚇した。「亜紀ちゃんをいじめたら、承知しないぞ。みんな、食っちまうぞ」ピース、卑弥呼女王、風来坊たちは、目を吊り上げた夜叉のような形相のスパイダーを目の当たりにして、凍り付いてしまった。亜紀は、今にも飛びかかりそうなスパイダーをなだめ、しっかりと抱きしめた。「みんなは、悪くないの。悪いのは、人間のほうなの。ありがとう、スパイダー」

 

少し言い過ぎたと思ったのか、風来坊がご機嫌を取るように話し始めた。「人間は、バカだ。でも、亜紀ちゃんのような優しい人間もいるから、地球も救われるんじゃないか。みんな、亜紀ちゃんを応援しようじゃないか」ピースもうなずき、声を張り上げた。「そうよ、亜紀ちゃんは、生物の宝よ。亜紀ちゃんと一緒に、人間の下品な心を矯正しよう」卑弥呼女王が、大きくうなずいた。

春日信彦
作家:春日信彦
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