知らぬが仏

突然の質問を受けたピースであったが、聡明なピースは、即座に返事した。「あれは、デモといって、政府への抗議行動です。まあ、江戸時代の百姓一揆のようなものです。すぐに、鎮圧されますよ」風来坊は、デモという言葉に頭をかしげた。おそらく宣戦布告行動と察した風来坊は、大きくうなずき、あたかも分かったかのような顔つきで話した。「なるほど、ということは、これから、戦争をするんじゃな。人間は、物騒じゃの~」ピースは、やっぱ、カラスは人間社会を知らないと思い、説明した。

 

「違います、デモは、戦争じゃありません。むしろ、戦争反対運動です。国家が戦争しないように、若者たちが大声を張り上げているのです。猫の社会と違って、人間社会は戦争が好きなのです。お分かりか?」ピースは、話し終えると卑弥呼女王に顔を向け、うなずいた。「ほ~、人間は、戦争が好きとな。戦争すると、王様がご褒美でもくれるのか?カラスは、戦争なんかしなくても、うまいものをたらふく食えるがな~。何せ、カラスは、エサがあるところに、飛んでいけるからな」風来坊は、カラスが地球上で最も温厚で賢い動物と思いこんでいる。

 

「ま~、お調子のいいこと。猫も下品な人間がするような戦争なんかいたしませんわ。聡明な卑弥呼女王がいらっしゃる限り、争いなんかありません。共生を重んじる猫の世界では、えさの取り合いなんかないのです。えさがない猫には、ちゃんとえさを与えます。猫は、地球上でもっとも上品な動物ですわよ。カラスさんたちも、猫の上品さを見習うとよろしくて」ピースは、軽蔑の眼差しで風来坊をチラッと見た。

「何をおっしゃる、カラスは、確かに下品ではあるが、心根は優しい。人間のほうが、はるかに下品じゃ。お互い殺しあったり、動物を虐待したり、海や川を汚染したり、まったく、野蛮で下品極まりない。人間に比べたら、カラスは、はるかに上品ですよ。ネコさんたちは、カラスを誤解していらっしゃる。カラスは、お互い助け合う精神を持っているんじゃ。人間こそ、カラスのつめの垢でもせんじて飲むがいい。おそらく、地球上でもっとも下品な動物は、人間だ。まったく、困ったものだ」風来坊は、カラスは人間よりは上品だと主張した。

 

小さくうなずいたピースは、話し始めた。「確かに、人間は、欲の塊のようなものです。猫の持つ上品な自制心というものがないのでしょう。とにかく、お金を奪うために、知恵を働かせて、すぐに殺し合いをするのです。猫の世界には、お金はありませんが、ちゃんと幸せに暮らせています。偉そうにしている猫はいないし、いじけている猫もいないのです。みんな、助け合うから、すべての猫は、やさしく、上品になれるのです。人間は、猫の社会を見習えばいいのです」

 

風来坊は、聡明な発言に感銘した。「さすがですね、ピースさん。人間は、やたらと、建物を作っては壊しているが、まったくわけがわからん。人間の知恵というものは、いい加減なものですな。ところで、卑弥呼様は、人間をどのように思われますか?」風来坊は、黙って聞いていた卑弥呼女王の意見を聞くことにした。卑弥呼女王は、まったく表情を変えず、静かに話し始めた。

「私は、すべての猫を幸せにするために生まれてきた女王です。知恵の多い下品な人間のことは、よく理解できませんが、おそらく、上品な心というものが、生まれたときからないのでしょう。お金を作ったのも、下品な心からに違いありません。下品な心から生まれたものは、下品な社会を作り、下品な争いを引き起こすものです。きっと、地球上に生命が誕生するときに、下品な生物と上品な生物ができたに違いありません。

 

人間は、地球上でもっとも下品な生物に違いありません。私から見ると、人間は、生命の出来損ないと言えます。下品な心をごまかそうと、人口知能ロボットを使って戦争しているみたいですが、これこそゲスの極みと言っていいでしょう。人間は、下品な生物であり続け、下品な死滅の結末を迎えることでしょう」聖母のような卑弥呼女王は、人間を諭すように、上品な声を響かせた。ピースと風来坊は、宇宙を知り尽くした卑弥呼女王のお言葉に感銘し、拍手を送った。

 

ピースが卑弥呼女王に帰宅の誘いをかけようとしたとき、南側からキョロキョロと落ち着きのないスパイダーのリールを手にした亜紀の姿が目に入り、ピースは、独り言のように声を発した。「あら、おばかなスパイダーとおしゃれな亜紀ちゃんだわ」亜紀は、笑顔でベンチに近づいてきた。亜紀は、いつもの軽やかなカワイ~声で呼びかけた。「ピース、こんなところで、遊んでいたの、あら、こちらは?」亜紀は、初めて見かける毛並みがよく気品のある黒猫と目が合った。

一度紹介したいと思っていたピースは、丁重に卑弥呼女王を紹介することにした。「あら、亜紀ちゃん、今日もかわいいわよ。ピンクのパーカージャケットにダークネイビーのデニムスカート、お似合いじゃない。そう、紹介するわね。こちらは、糸島の卑弥呼女王です。私たちの猫の女神様です。亜紀ちゃん、よろしくね。それと、こっちの変な白いカラスは、江戸からやってきた下品な風来坊。こっちも、よろしくね」ピースは、簡単に紹介した。

 

亜紀は、黒猫が、遠方からやってきた猫なのか、近所の猫なのか気にはなったが、ピースの知り合いであることで、とりあえず仲良くすることにした。上品な身のこなしと知性ある風貌から野良猫ではなさそうに思えた。一瞬、ハトと見間違えた白いカラスは、たまにゴミ袋をつつくときはあったが、人には害を加えそうにないと思い、お友達に加えることにした。

 

亜紀は、キョロキョロと落ち着きのないスパイダーを紹介することにした。「ちょと、おっちょこちょいのこの犬は、男の子でスパイダーっていうの。少しいたずらが過ぎるんだけど、悪い子じゃないの。仲良くしてあげてね。スパイダー、この方たちと仲良くするのよ」スパイダーは、猫とカラスをキョロキョロと眺めては、クンクンと鼻を鳴らし、返事した。「俺は、スパイダーっていうんだ。名前はクモだけど、血統書つきのシェルティー犬だ。いじめっ子を懲らしめる正義の味方さ。いじめられるようなことがあったら、呼んでくれ、飛んで、助けに行くから」自信過剰のスパイダーは、胸を張って、尻尾を大きく振った。

春日信彦
作家:春日信彦
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