合コン殺人事件

沢富刑事は、大きく深呼吸し、ゆっくり話し始めた。「運転は大丈夫だろうな。まあ、適当に聞いてくれ。君も知っている事件さ。例の教会での事件さ。県警では、犯人は、男性じゃないかと推測している。でも、彼らには、まったく、殺人動機がないんだ。もちろん、女性たちもない。物的証拠は、まったくないんだが、俺は、親友のHがクサイと思っている。でも、まったく、手がかりがない。Hには、アリバイもある。だが、どう考えても、Hしか考えられないんだ。第一発見者と言うところが、なぜか、ひっかかる。ひろ子さんは、どう思う?」ひろ子は、笑顔で聞き流していた。

 

 「そうね、沢ちゃんの直感もまんざらじゃないと思うけど、でも、何の証拠もないんだし、憶測だけじゃ、どうにもならないでしょ」沢富刑事は、予想していた返事に肩を落とした。「そうだよな。何の証拠もないのに、逮捕令状を取ることはできない。しかも、彼女は、警官の娘ときている、一体、どうすればいいんだ」沢富刑事は、頭をかきむしりながら、激しく顔を左右に振った。ケイカン、とひろ子の耳に響いた瞬間、子宮にビリッと電気が走った。その瞬間、女神の声が脳裏に流れた。

 

「Hが第一発見者と言ったけど、発見したときって、Sの部屋のドアに鍵はかかってなかったの?」沢富刑事は、その質問にハッとした。「そうだ。ドアは、開いていたそうだ。それって、なんだかおかしいよな。男性ならともかく、女性は、鍵をかけるよな」ひろ子は、答えた。「鍵をかけずに寝る女性はいないわよ。おそらく、誰かに、鍵をかけないように言われたってことよ」沢富刑事は、即座に質問した。「誰だよ、いったい」ひろ子は、ハハハと笑い声を上げた。「だから、誰かよ」ひろ子は、沢富刑事のしかめっ面をルームミラー越しにのぞき見た。

ルームミラー越しに見ていたひろ子は、目を輝かせ澄んだ声で話しかけた。「沢ちゃん、女の直感だけど」突然、沢富刑事は、ルームミラーを覗きこんだ。「え、直感って。いったいどんな。聞かせてくれ、早く」沢富刑事は、頭を運転席に突き出した。ひろ子は、ハハハと笑い声を上げると、マックのパーキングに車を突っ込んだ。「そんなに興奮して、沢ちゃんたら。喉、渇いたわ」ひろ子が話し終えないうちに、沢富刑事は、車を飛び出し、オレンジジュースを買うと、飛んで引き返してきた。

 

「さあ、どうぞ。直感って?」オレンジジュースを一口喉に流し込み、ひろ子は、笑顔をルームミラーに向けた。「もう~、沢ちゃんたら、どうしてそんなにせっかちなの」ひろ子は、恥ずかしそうな表情を見せた。「ここじゃ、いや。あそこで話すわ」ひろ子は、エンジンをかけると、しばらく西に向かって走り続けた。沢富刑事は、がっかりして、目をつぶり、気分を落ち着けるために、今朝、ちらっと見た21手詰めを考え始めた。

 

 沢富刑事の耳に甲高い声が飛び込んできた。「ついたわよ。沢ちゃん」沢富刑事が、目を開けると、ラブホのパーキングと思われた。「え、ここって、ラブホ。どういうこと?」ひろ子は、車を降りると、手招きした。「行くわよ。早く」沢富刑事は、なにがなんだか分からなかったが、ひろ子の後を駆けて行った。ひろ子が、部屋のドアを開けると、大きく背伸びした。「ちょっと疲れたの。少し休みましょうよ」中央にある丸テーブルの椅子に腰掛け、沢富刑事のキョトンとした表情を見て、クスッと声を出した。

 沢富刑事は、とにかく、直感を聞きだしたくって、椅子に腰掛け、訊ねた。「ところで、直感って、一体、何だよ。早く教えてくれ。頼む」沢富刑事は、両手を合わせ、頭を下げた。ひろ子は、うなじに手を当て、つぶやいた。「汗かいちゃった。シャワー、浴びてくるわ。次に、沢ちゃん」ひろ子は、すっと立ち上がり、シャワールームにかけて行った。10分ほどすると、ひろ子は、バスタオルを巻いて飛び出してきた。沢富刑事にちらっと目をやり、笑顔で一直線にウォーターベッドにかけていき、ジャンプして飛び乗った。「いいわよ、沢ちゃん。ゆっくり、汗流して」催眠術にかけられたように沢富刑事も、言われたとおりに、汗を流すことにした。

 

 沢富刑事が出てくると、ひろ子は、ベッドから手招きした。沢富刑事が、ベッドまでやってくると、ひろ子は、目を閉じた。沢富刑事は、覚悟を決めて、ベッドにもぐりこんだ。ひろ子は、男をゲットできた喜びにしびれていた。沢富刑事は、今後もひろ子の助けが必要と思い、彼女にすることにした。しばらく、セックスしていなかった沢富刑事は、あっという間に射精してしまった。一瞬、まさか、と思ったが、もはや手遅れだった。しめしめと思ったひろ子は、ベッドから飛び起きると、シャワールームにかけて行った。沢富刑事も、すぐ後を追って、駆けて行った。シャワールームからは、ひろ子のキャ~キャ~と言う歓喜の声と勝利の笑い声が部屋中に流れ出していた。

 

二人がテーブルに着くと、沢富刑事は、目を大きく見開き、ひろ子をグイッと睨みつけ、訊ねた。「もういいだろう。直感ってやつを、聞かせてくれ。俺の、彼女になったんだからな」ひろ子は、もったいぶった表情で、ヘヤーブラシで、黒髪をそっと梳いた。「あくまでも、直感よ。いい」沢富刑事は、待ちきれず、手が震えていた。「いいとも、さあ、早く」ひろ子は、一瞬、躊躇した表情を作り、つぶやいた。「彼女、Hだけど、もし、犯人だったら、沢ちゃんに、接近すると思う。間違いないわ。本当に、接近してきたら、Hは、本ボシ」

沢富刑事は、一瞬何のことやら分からなかったが、しばらくすると、ひろ子の言わんとすることが分かった。「そうか。そのときだな。分かった。ヤッパ、女の直感ってのは、すごいな。ありがとう」沢富刑事は、きっと、Hは、何らかの方法で接近してくると睨んだ。とにかく、じっと待つことにした。Hが接近してきたら、彼女の手に乗って、手がかりを掴むことにした。ひろ子は、さらに付け加えた。「きっと、沢ちゃんを陥落しに来るわ。そのときは、相手をしてあげるといいわ。虎穴に入らずんば、虎子を得ず、って言うじゃない」ひろ子は、彼女としての自信に満ち溢れていた。

 

                 Sの過去

 

 二人は、例の中洲新橋近くの屋台で、ちょいと焼酎を引っ掛けると、伊達刑事のマンションに向かった。伊達刑事がドアを開くと、大きな声で叫んだ。「おい、ビール。それと、焼酎」沢富刑事を席に着かせると、伊達刑事は、上着を隣の椅子にポイと置いて、さっそく話し始めた。「おい、驚くな。Sはな、あの名門の小中高一貫校の出身だが、かなりのワルだ。こっそり、教頭が話してくれたんだが、中学生のころ、万引きで捕まったことがあるそうだ。それは、父親の力でもみ消したそうだが。高校のころは、男遊びも派手だったらしく、教師とのエンコウのうわさもあったらしい」

 

沢富刑事は、頷き、Hの素性もなんとなく想像できた。「そうでしたか。と言うことは、Hも万引き仲間と言うことですね。Hは、捕まらなかったんですかね」伊達刑事は、頭をかいて答えた。「いや、Hのことは聞き出せなかった。でも、万引き仲間であったことは、間違いなかろう」沢富刑事は、頷き、話を続けた。「高校を卒業してからは、どうです」伊達刑事は、ビールで喉を鳴らし、答えた。「卒業後は、二人は同じN短大に進学し、学内での問題はなかったようだが、欠席が多く、卒業が難しかったようだ。無事卒業できたのも、Sの父親の力だそうだ。

春日信彦
作家:春日信彦
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