合コン殺人事件

卒業後は、Sは、市会議員の秘書、Hは、テンチカのブティックに勤めている。Sは、3ヶ月で秘書を辞め、2ヵ月後に、Hと同じブティックに勤務している。二人が一緒に働くようになり、欠勤が多くなり、そのことでクビになっている。特に、男性関係でトラブルはなかったようだ。その後、Sの父親の仲介で、1年前から現在のMデパートに勤めている。まあ、こんなところだ」伊達刑事は、グラスの焼酎を一口すすった。

 

 「お話では、特に気になる点はないようですが、何か、二人には、表には現れない秘密があるんじゃないでしょうか。話がぼんやりしていますが、Sは、Hの何か、弱みを握っていたと思われます。そして、Hの結婚を邪魔していたんじゃないでしょうか?」伊達刑事も、大きく頷き、同意の返事をした。「Sは、かなりの悪女に違いない。きっと、弱みに付け込んで、恐喝していたのかもしれん。万引きの件だろうか?」

 

沢富刑事は、何か他にあるように思えた。「Hは、しゃべられると困るような、何か、弱みを握られていたんじゃないか、と思います。おそらく、Hは、合コンを利用してSを殺害する計画を入念に立てていたと思います。あれは、計画犯罪です」沢富刑事は、Hが犯人であると、改めて確信した。腕組みをしていた伊達刑事は、天井を見上げ、つぶやいた。「でもな~、証拠がないんじゃ、手も足もでらん。どうしたものか」

 

ナオ子は、そっと、夫の横に腰掛け、話に割り込んだ。「あなた、彼女は、課長のご息女でしょ。この辺にしておきましょうよ。これ以上、頭を突っ込むと、一生を棒に振ることになりませんか?」沢富刑事もそのことが気になっていた。「そうですよ。この辺でいいじゃないですか。こんなややこしい事件は、もう、こりごりです。ねえ、奥さん」沢富刑事は、ナオ子の顔をちらっと覗き、小さく頷いた。

 

 伊達刑事も、同じ考えであった。「そうだな。何の証拠もないんだ。いくら、憶測しても、逮捕はできん。もうよそう、そうだ、今日、課長から電話があって、来週の日曜日、遊びに来ないかってさ。沢富も一緒に。本部長も来るそうだ。どうだ?」沢富刑事は、ひろ子の言った言葉が、脳裏によみがえった。“もし、Hがホシなら、きっと接近してくる。”「え、私もですか?それは、ありがたい。喜んでご一緒させていただきます」

 

 ナオ子は、大きな声を張り上げ、立ち上がった。「ほんと、よかったじゃない。今日は、お祝いしましょ。そう、お寿司を取りましょう。沢富さんも、今日はゆっくりなさって」ナオ子は、有頂天になってしまった。課長と本部長に気に入られたと言うことは、出世、間違いない、と心の底で叫んだ。「ハア、お言葉に甘えて」沢富刑事は、改めて、ひろ子が言っていたことを思い出した。“本当に、接近してきたら、Sは、本ボシ。”沢富刑事は、頷いき、心でつぶやいた。ついにきたな。とうとう、Hは、動き出してきたな。今に見ていろ、必ず尻尾を掴んでやる。

 

春日信彦
作家:春日信彦
合コン殺人事件
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