合コン殺人事件

日本州

 

日本州が、連邦政府に正式に承認されたことにより、日本州の政治、経済、法律は、一気にアメリカ合衆国の州として刷新された。日本国憲法は、州憲法となり、日本州法が新たに制定され、施行された。経済において、すべての関税が撤廃され、本国からの低廉な農産物、畜産物が日本州の市場に出回り、日本州の農業、畜産業は、壊滅した。また、低賃金で働く移民の増加で、日本人労働者も移民の賃金水準に引き下げられた。

 

最も、日本州の産業形態を変えたものは、移民人口の急激な増加であった。アメリカ本国からはもちろん、アジアからは、インド、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、中国、韓国、南米からは、ブラジル、コロンビア、アルゼンチン、チリ、ヨーロッパからは、ドイツ、イタリア、ポーランド、ギリシャ、フランス、ロシア、など世界各国から多くの移民が日本州に流れ込んできた。日本州の人口に占める移民の割合は、約20パーセントにも及んだ。

 

移民の増加による就職難の煽りからか、多くの男性の若者たちは軍隊に入隊したが、それでも、低賃金で働く契約社員、アルバイター、パートタイマー、その日暮らしの日雇い労働者、路上や公園で生活するホームレスの増加は、日に日に増加した。貧困層の若者は、必長時間労働に耐え、必死に働いたが、貧困から抜け出すことは不可能に近かった。国際組織のセックスビジネスマフィアは、就職難に苦しむ多くの少女たちをターゲットに、マスメディアを利用し、芸能界に安易に参入させ、表面に現れない性犯罪の温床を作り出していた。

北海道地区では、ロッキード社、ボーイング社の巨大な兵器工場が建設され、農業、畜産業地区から軍事工業地区と変貌した。東北地区では軍事基地の建設が行われ、軍人、移民、貧困層を受け入れる居住地区として、インフラ整備が推進された。アジア最大の軍事基地となった東北地区に居住する軍人の数が100万人を超え、日本州の予算において、軍事費が20パーセント強にまで膨れ上がった。軍事費縮小を図るため、移民の軍隊受け入れの制限が為されたが、貧困層の人口増加に歯止めが利かず、軍隊志願者は、毎年増加した。

 

一方、九州地区では、関東地区、関西地区の富裕層たちの移住が顕著になり、また、アメリカ本国の富裕層たちも居住するようになった。さらに、多国籍企業の日本州本社も九州地区に置かれ、合衆国においてニューヨーク、ロサンゼルスと並ぶ情報発信文化地区となった。教育制度は、本国と同じ高校までが義務教育となったが、富裕層は高額な授業料を支払い、九州地区に設立された私立学校を利用し、貧困層は、低廉な授業料の州立学校を利用するようになった。

 

産業勢力関係では、自動車産業において、燃費のいい日本州の車が、アメリカ本国市場を席巻し、消費者の需要に答えられない本国の自動車企業は、日本州企業に買収された。一方、電力業、金融業、保険業、運輸業、通信業、医療業などにおいては、アメリカ本国の多国籍企業が日本州の企業を買収した。また、公的年金、国民健康保険、社会保険は、民間の保険会社に移行され、国民皆保険は崩壊し、国民の約5割は無保険となった。

日本人の多くは、移民との文化の違い、道徳の違い、宗教の違い、言語の違い、などから一般生活においてトラブルが増大すると予想していた。ところが、移民たちの意外な一面に驚くこととなった。それは、移民たちの日本語への取り組みだった。日本人たちは、外国人とのコミュニケーションのために英語、中国語、ハングル語、フランス語、ドイツ語、などを学ぶ若者が急増したが、移民たちは、英語を習得すること以上に、日本語を熱心に学習した。全国各地に日本語学校が設立され、多くの移民が日本語を学ぶようになった。

 

 当然、予想はされていたが、諸外国の移民たちから持ち込まれた多様な結婚文化は、やはり、日本人だけでなく、移民たちにも大きな動揺をもたらした。まず、恋愛観や結婚制度が、出身地によって大きく異なっていた。特に、イスラム圏の移民たちの結婚制度は、先進国の自由恋愛による結婚とはまったく異なった。そのため、イスラム人向けの恋愛相談所、結婚相談所、などが設けられるまでになった。

 

人口の約5パーセントに当たる富裕層の結婚観においては、富裕層同士の恋愛、結婚を望み、富裕層向けのネット結婚相談システムの利用だけでなく、年収、家柄、社会的地位、などのハイレベルな条件をクリアした人たちからなる会員制の結婚仲介所を利用するようになった。彼らは、資産拡大を目的とする政略結婚を盛んに行い、富裕層の権力拡大を図った。

一方、貧困層の結婚観においては、多くの女子たちは、結婚後、少しでも安定した子育てができるようにと、低賃金でも安定した職を持った男性を探すようになった。貧困層の女子たちは、結婚相談所の利用より、合コンを通して結婚するようになっていた。中でも、二泊三日のホテル、旅館における合コンが、最も人気があった。貧困層の女子が、富裕層の男子と結婚することは、不可能に近いため、二泊三日の合コンで目にかなった男性を見つけ、自分からコクり、夜這いをかけて、ライバルを突き落とし、男性をゲットする結婚が一般的になった。もはや、結婚は、男性争奪戦、と化していた。

 

                 合コン殺人

 

 今年に入り、ますます合コンイベント人気は急上昇し、ホテル、旅館は合コン客で賑わっていた。各宗教団体も合コンイベントを行い、信者の獲得に力を入れていた。バッテン真理教の勢いは目を見張るものがあり、富裕層から貧困層まで幅広く合コンイベントを行い、各地の教会でイベントを繰り広げていた。7月4日、バッテン真理教中洲教会の合コンイベントで歴史に残るような摩訶不思議な殺人事件が起きた。

 

 その事件とは、バッテン真理教中洲教会での合コンイベントで、参加者の女性Sが何ものかに殺害された。バッテン真理教会で起きた殺人事件と言うことで、ニュースでは大きく取り上げられず、水面下で捜査がなされた。犯人は、合コンに参加した5人の男性のうちの一人と推測されたが、いまだ、ホシが上がらず、謎の殺人事件として捜査が行われていた。

春日信彦
作家:春日信彦
合コン殺人事件
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