合コン殺人事件

一方、貧困層の結婚観においては、多くの女子たちは、結婚後、少しでも安定した子育てができるようにと、低賃金でも安定した職を持った男性を探すようになった。貧困層の女子たちは、結婚相談所の利用より、合コンを通して結婚するようになっていた。中でも、二泊三日のホテル、旅館における合コンが、最も人気があった。貧困層の女子が、富裕層の男子と結婚することは、不可能に近いため、二泊三日の合コンで目にかなった男性を見つけ、自分からコクり、夜這いをかけて、ライバルを突き落とし、男性をゲットする結婚が一般的になった。もはや、結婚は、男性争奪戦、と化していた。

 

                 合コン殺人

 

 今年に入り、ますます合コンイベント人気は急上昇し、ホテル、旅館は合コン客で賑わっていた。各宗教団体も合コンイベントを行い、信者の獲得に力を入れていた。バッテン真理教の勢いは目を見張るものがあり、富裕層から貧困層まで幅広く合コンイベントを行い、各地の教会でイベントを繰り広げていた。7月4日、バッテン真理教中洲教会の合コンイベントで歴史に残るような摩訶不思議な殺人事件が起きた。

 

 その事件とは、バッテン真理教中洲教会での合コンイベントで、参加者の女性Sが何ものかに殺害された。バッテン真理教会で起きた殺人事件と言うことで、ニュースでは大きく取り上げられず、水面下で捜査がなされた。犯人は、合コンに参加した5人の男性のうちの一人と推測されたが、いまだ、ホシが上がらず、謎の殺人事件として捜査が行われていた。

毎月2回行われている恒例の合コンイベントは、男性5人、女性5人によるもので、教会で二泊三日のフリーデートを行うものだった。毎回、一組は、カップルが誕生し、成婚にいたっていた。女性たちにとっては、最高の婚活イベントとなっていた。合コンが行われた中洲教会には、宿泊できるワンルームの部屋が2階に6部屋、3階に6部屋あり、ほとんどの場合、2階に女性が宿泊し、3階に男性が宿泊していた。

 

イベントホールは1階にあり、そこで、午前11時から午後1時までパーティーが開催され、パーティー終了後は、フリーのデートを行うものだった。お互い気に入った男女は、三日間、日帰りできる気に入ったスポットで自由にデートができ、そのデートで女性が夜這いの時間を申し出て、男性が承諾すると、その夜、女性が男性の部屋に夜這いに行くことになっていた。そして、夜這いが成立すれば、二人そろって、恋愛成立を教会に申し出ることになっていた。

 

 イベント初日の3日、県警勤務の男性Mは、午後10時少し前に夜這いに訪れた女性Hと一夜を過ごした。4日の翌朝5時に、女性Hは、自分の部屋に戻り、親友の女性Sを朝食に誘うため、7時少し過ぎたころに女性Sの部屋のドアをノックした。しかし、数回のノックにもかかわらず、女性Sの返事がなかったためノブを回した。ドアは、ロックされておらず、ドアは何の抵抗もなく開いた。女性Hが中に入ると女性Sは,ベッドに横たわっていた。女性Hは、女性Sを起こすべく身体をゆすったが、返事はなく、息がないことに気付き、悲鳴を上げて、部屋から飛び出した。検視の結果、女性Sの死亡推定時刻は、4日の午前1時前後と推定された。

 女性Sの死因は、首に見られる手の痕跡から、扼殺と判断された。手の痕跡の大きさから判断して、男性ではないかと推測されたが、確証はなかった。参加した5人の男性すべて、事情聴取を行った結果、誰一人疑わしい人物は浮かび上がらなかった。女性Sの部屋にも男性の指紋は一つもなかった。首に残された手の痕跡の大きさからして、女性は除外されると判断されたが、念のため4人の女性も事情聴取がなされ、手のサイズが確認されたが、疑わしき人物は、一人もいなかった。ただ、女性Hの指紋がノブにあったが、これは、部屋へ出入りしたときについたものと判断され、殺人犯の手がかりとはなり得なかった。

 

 外部からの侵入者による殺害が考えられたが、一階詰め所には、男性(58歳)の警備員が常駐しており、また、2階と3階の窓からの侵入が考えられたが、すべての窓は、ロックされており、ガラスを割って侵入した形跡はなかった。したがって、外部からの侵入者による殺害の可能性は否定された。そのことから、9人の参加者と一人の警備員の誰かが殺害したと考えられたが、誰一人、疑わしき人物は浮かび上がらなかった。ついに、事件に行き詰った県警は、伊達刑事に極秘の捜査を依頼した。

 

 伊達刑事は、10人の調書を何度も読み返し、殺人現場である中洲教会にも数度足を運んだが、まったく、犯人像が浮かび上がらなかった。沢富刑事を事件に協力させたくなかったが、行き詰ってしまった伊達刑事は、しぶしぶ、沢富刑事に相談することにした。伊達刑事が唯一怪しいと直感した人物は、男性ではなく、女性Hだった。その理由は、二人は、小学校時代からの親友ということだけだったが、5人の男性と女性H以外の女性3人には、女性Sとの接点がなく、殺人動機もまったくなかったからだ。当然、警備員も同様だった。

首の痕跡

 

 身近なものほどお互いを知り尽くしていて、突然、殺人動機が生まれることを、伊達刑事は長年の経験から知っていた。沢富刑事に自分の直感を話し、沢富刑事の意見を聞こうと、いつもの中洲新橋近くの屋台に飲みに行った。伊達刑事は、グラスの焼酎をグイッと喉に流し込み、事件の概要を話し始めた。「屋台はいいよな~、気分が落ち着く。ところで、事件のことで、ちょっと、意見を聞きたいと思ってな」改まった口ぶりに沢富刑事は、右横の伊達刑事に顔を向けた。

 

 「例の未解決の事件ですか?」伊達刑事は、さすが察しがいいと思い、大きく頷いた。「そうだ、例のやつだ。調書を読んでも、まったく犯人像が浮かばん。俺には、手に負えん。どう思う?」突然、振られた沢富刑事は、キョトンとした表情で答えた。「僕に言われても分かりませんよ。伊達さんは、どう思われるんですか?」伊達刑事は、頷き、もう一口焼酎を流し込み、小さな声で話し始めた。「いやな、とにかく、誰一人、殺人動機がないんだ。ホシは、男性と推測されるんだが、俺は、親友の女性Hがクサイと思う」

 

 沢富刑事は、意外な犯人像を聞いて、一度持ち上げたグラスをテーブルに置いた。「それは、どうしてですか?」伊達刑事は、内緒話するようにさらに小さな声で話し始めた。「直感だ。彼女は、ガイシャの親友だ。しかも、第一発見者ときてる。間違いない」沢富刑事は、伊達刑事の直感は、信頼できるとは思っているが、いまひとつ根拠が薄いと思った。「そうですか。確かに、動機は、不明ですが、もし、考えられるとすれば、やはり、親友でしょう。お互いを知り尽くしていればいるほど、お互いの秘密を知っていることになります。確かに、Hはクサイですね」

春日信彦
作家:春日信彦
合コン殺人事件
0
  • 0円
  • ダウンロード

4 / 23

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント