長生きしてね

 配達の中年男性は、小包を清子に手渡した。とっさに振り向いたリノは、小包の送り元を見た。「おじいちゃんじゃない。何かしら?」リノは、さっそくその場で小包を開き、中身を確認した。「え、キャットフード。まったく、おじいちゃんたら。例の黒猫の餌ね」リノは、しかめっ面で小包を抱え幸太郎の部屋に駆けて行くと、洋間の片隅にポイと小包を放り投げた。

 

 清子は、幸太郎のことが気になったが、いつものように、ひょいと姿を現すのではないかと、警察に届けず帰りを待つことにした。しかし、それから、10日たっても帰ってこなかった。清子は、きっと事故に遭ったに違いないと思い、警察に届けることにした。清子が、服を着替え、警察に行くとリノに伝えると、リノも心配になって、歌舞伎門まで見送りに来た。歌舞伎門まで行くと、黒猫が階段の真ん中で寝転んでいた。

 

 「あら、クロちゃん。どこから来たの?」黒猫は、ニャ~と答えると。リノの手をぺろりと舐めた。そのとき、バイクの音がなった。郵便屋のお兄ちゃんが、駆け足でやって来た。「どうぞ」とはがきを清子に手渡し、駆け足で戻りバイクにまたがると、ブ~ンと音を立て消え去った。はがきを受け取った清子は、表の青い文字をじっと見つめていた。「どこから?」リノは、はがきを覗き込んだ。表には、日本年金機構と表示されていた。

 リノは、おじいちゃんが年金を受給することにしたと思い、清子に笑顔を向けた。リノは、黒猫を抱きかかえると、幸太郎の部屋に向かった。清子は、矢印からはがきを開いてみると、“一時金振込通知書”と表示された赤い文字が目に飛び込んできた。幸太郎の顔が脳裏に浮かぶと、清子の腰はくいだけ、ドスンとしりもちをついた。そのとき、リノは、幸太郎の姿を思い出しながら、なれなれしい黒猫にキャットフードを食べさせていた。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
長生きしてね
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