長生きしてね

 「おじいちゃん、ところで、明後日は、どこかに出かける用事でもあるの?」一時金の質問でなくてほっとした幸太郎は、笑顔で答えた。「明後日は、そうだな~、コンペは、断ったし、国男さんが突然、やってくるかもしれないが、今のところ出かける予定はないな」幸太郎は、予定を思い浮かべ返事した。リノは、ホッとした表情で話を続けた。「あさって、友達二人がやってくるのよ。その友達が、おじいちゃんに旅館が有名になる名案を話してくれるのよ。聞いてみてくれる?」幸太郎は、リノの友達がやってくと言うので、嬉しくなった。

 

 「いいとも、旅館が有名になる名案か。こりゃー、楽しみだ。清子も一緒に聞くがいい」清子も頷き、笑顔を作った。「ほんと、楽しみ。この旅館が有名になれば、おじいちゃんも安心じゃない。一時金なんか、クソ食らえ、って感じじゃない」清子は、リノが考えていることを即座に感じ取った。「ママもそう思う!旅館さえ有名になれば、リノが若女将になって、ガンガンもうけてやるわ」清子も笑顔で頷き、拳を突き上げた。「ワクワクするわね。早く明後日にならないかしら。そう、お友達、何時ごろお見えになるの?」JRでやってくると思ったリノは、深江駅の到着時間を思い浮かべ答えた。

 

 「二時過ぎかも。友達が駅についおたら、おじいちゃん、迎えに行ってくれる?」幸太郎は、ポンと手を叩き、返事した。「合点承知のすけ。カスタムウイングヴェルファイアで迎えに行ってやるさ」リノは、幸太郎の元気な笑顔を見て、もしかして、長生きする気持ちに変わったのではないかと思った。幸太郎は、ビールを一口すすり、神妙な顔で話し始めた。「ところで、みんなに、何かしてあげたいんだが、何がいいかな?」幸太郎は、記念になるようなことを残して死にたかった。

 リノは、一瞬固まってしまったが、今は暗い話をしたくなかった。「それより、誕生日に何をプレゼントしようか?おじいちゃんが欲しいものを言ってよ。なんでもいいから」幸太郎は、苦笑いをして答えた。「誕生日のプレゼントか、欲しいものは、ほとんどもらったような気がする。そうだな~、しいて言えば、家族の元気な笑顔だ。それが、おじいちゃんにとっての最高のプレゼントだよ」幸太郎は、手酌でビールをコップに注ぎ、ビールを口に含むと喉を鳴らして流し込んだ。

 

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 ゆう子は、横山の名案が気になって夜も眠れなかった。万が一、名案が思い浮かばなかったら、名案を信じ込んでしまったリノに逆恨みされるんじゃないかと、気が気ではなかった。みどりの日、横山にそれとなく、名案が浮かんだかどうか聞いてみることにした。スマホを左手に取り、恐る恐る発信の横山をタッチすると横山の落ち着いた声が返ってきた。「ゆう子、今いい」横山は、名案のことで電話してきたことを即座に察知した。「あ~、いいけど、名案のことでしょ。バッチシよ」ゆう子は、その一言で地獄から脱出できたかのように、気が楽になった。

 

 「よかった。ちょっと心配になったものだから。それじゃ、明日、リノのところに胸張っていけるじゃない。何時ごろ行こうか?横山の都合は?」名案についてのさわりを話したくなった横山は、お昼にマックで落ち合うことにした。「そうね、午後がいいとは思うんだけど、ちょっと、マックで食事しない?」ゆう子は、名案のことを聞きだしたくて、即座にOKの返事をした。ゆう子は、壁時計をちらっと横目で覗き、「それじゃ、12時にマックで」ゆう子は、ジーンズに穿き替えると一目散にママチャリで飛び出して行った。

 ゆう子は、マックに到着すると、駐輪所にママチャリを放り込み、その場で横山を待った。横山は、12時ちょうどにのんびりと電動ママチャリのペダルを踏みながら、マックの駐車場入り口に現れた。ゆう子は、横山のチャリに駆け寄り、笑顔で話しかけた。「さすが、横山。ちょっとでいいから、名案、聞かせてよ。いいでしょ。早く」横山は、ゆう子のあわてっぷりが何か滑稽で笑ってしまった。「そう、慌てることはないよ。名案は、この頭の中にちゃんとあるんだから。ほんのさわりぐらいは、話してもいいけど」横山は電動チャリをゆう子のチャリの横に並べロックをすると、入り口に向かった。

 

 ジュースとチーズバーガーを手にした二人は、例の窓際の席に腰掛けた。ゆう子は、ストローでジュースを一口チュッと吸い込むと、横山をじっと見つめた。横山は、ゆっくりストローを吸ってジュースを味わった。横山は、名案をまとめ上げていたが、すべては、リノの祖父の目の前で公開することにしていた。「名案だけど、ちょっとぐらいは、いいでしょ」ゆう子は、待ち遠しくていてもたってもいられなかった。大きく息を吸った横山は、

窓の外にちらっと目をやり、窓から目を戻すと名案のきっかけを話すことにした。

 

 「まあ、ちょっとしたことから思いついたんだけど。食べながら話そうか」横山は、バーガーを一口かじった。モグモグと口を動かし、次に言う言葉を捜していた。ゆう子も大きな口でバーガーにかぶりついた。口を動かしながら、目をパチクリさせ、さあ言いなさいよ、といわんばかりの目つきで横山の顔を覗き込んだ。グイッと飲み込んだ横山は、ジュースをすすり、一回頷くと話し始めた。

「温泉といえば、家族客が多いよね。そのほかに、ご老人とかよね。そのほかによく温泉にやってくるお客はといえば、どんな人たち?」横山は、ゆう子に質問した。振られたゆう子は、ちょっと考えてみた。ゆう子も家族で温泉に行ったことはあったが、家族以外となると、恋人同士かなとも思ったが、温泉は、デートスポットではないような気がした。母親がママ友と湯布院温泉に行ったことを思い出し、おばちゃんたちのことだと思い元気よく答えた。

 

 「分かりました。暇なおばちゃんです」横山は、ちょっと頷き、答えた。「まあ、遠からずってとこね。温泉といえば、温泉めぐりに夢中になる温泉ジョ。今、しまむらジョ、歴ジョっているじゃない。あることに夢中になる女性集団。そこで、女性を集めるにはどうすればいいかを考えてみたのよ。たとえば、そこの温泉に入れば、必ず美人になると言うのであれば、たくさん集まるわよね。でも、そんな温泉なんて、実際にはないでしょ。次に考えてみたのは、おばちゃんではなくて、未婚の女性を考えてみたの。未婚の女性が、最も求めているものといえばなんでしょう?」

 

 ゆう子は、自分も未婚だが、温泉とは無縁のように思えた。JKで温泉めぐりが趣味って、いないように思えた。当然、未婚だから結婚したいはず。彼氏がいたならいいけど、いない人は必死に婚活をやっているとテレビで言っていたのを思い出した。そうだ、理想の結婚相手ね」ゆう子は、今度は正解と思い、ドヤ顔で答えた。「ハイ、理想の結婚相手です」横山は、頷き、笑顔を作った。

春日信彦
作家:春日信彦
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