私のようには絶対に成るな

次の瞬間、もの凄く怯えた表情に変わった。

テイナは山頂にある窪みに落ちた。


同時にもの凄い音がした。

まるで世界中の物がガラスで出来ていて、それら全てが一気に壊れたかのような。

空が山頂に落ちてきたのだ。

しばらく世界全体が揺れ続けた。

その揺れが止まった時、空ももううねることが無くなりピタリと止まった。


頂の方を見ると、テイナがどうなっているかは全く見えない。


トラノがやってきて、俺の顔を見るなり、力一杯頬をぶった。

「あんた、わざとやったでしょう!?」

「誰かがこれをやらないと、世界が滅びるんだよ」

「言い訳しないで!

テイナは挟まれて死んだ。

殺したのはあなただからさあ!」


それならどうしろと言うんだ。

「ペリダン、テイナをわざと殺したの?」


見ると、メイヤとライがこっちを見ている。

「世界のために死ぬのは惨めでみっともないこと、でも誰かがやらないと世界は滅ぶから俺が引き受ける、と言ったじゃないか!嘘だったのかよ!?」

「子供に何が分かると言うんだ」


俺は言った。

「もう絶対に元には戻せないんだ。とにかく帰るぞ!」

「ちゃんと説明しなさいよ!」

「じゃあ、俺が死ねば良かったのか。お前は俺との子供を産みたくなかったのかよ!?」


トラノは何も応えられなかった。

みんなは俺に連られて早足で山を下っていく。

そのとき、ウーッと言う不気味な声がした。


急いでいて、子供が尻尾を踏んでしまったらしい。

ヒョウがメイヤの方を睨みつけている。

どうしよう。

そのとき、トラノがメイヤの前に立ちはだかった。

ヒョウはトラノに何度も噛み付いた。


やがてヒョウはその場から去っていった。

トラノは血まみれになり、もう動かなかった。

彼女はもう諦めて下りるしかない。


俺は自分の身代わりにテイナを死なせた。

なのに、トラノはメイヤの身代わりになって死んだ。

やっぱり、俺が山に挟まれて死ねば良かったのに。

トラノが死んだのも俺のせいだ。

もう死んでしまいたい。


「ペリダン酷いじゃないか」

「そんなことするから、トラノも死んじゃったよ!」


メイヤに連られてライも言った。


俺は二人の顔を睨みつけると言った。

「やい!そのことは二度と口にするな」

「やだ」

「ペリダンが死なせたのに、おかしいじゃないか」


やっぱり子供たちは言うことを聞かない。

だが、俺には二人を無事に連れて山を下りる責任がある。


「いいか、弱い者は強い者の言うことを聞かないといけない。

世の中、そういう物だからだ。

どういうことかと言うと、俺の言うことを聞けないと言うなら置いていってやる!」

「そんな。。。ごめんなさい」

「ごめんなさい」


彼らは口々に謝った。

ますます自分のことが嫌になった。


死ぬのは怖いけど、やっぱり俺も途中で自分で死のうか。

いや俺はテイナを死なせたけど、だからと言って自分が死ぬのはどうなのだろう。


死にたくない、せっかく親からもらった命なのに。

いやだからこそ、俺が空と山頂の間に挟まれるべきだったのではないだろうか。


繰り返しそんなことを考えた。


テイナが山に挟まれたことはみんな知っていることだろう。

下りたらみんな何と言うだろう。


とにかく今は子供たちを無事に登山口まで連れて行こう。

そのあと、俺にどんな罰が与えられても受け入れよう。

そう決めた。


夜遅くになり、村に下りた。

たくさんの人が迎えに来ていた。


メイヤとライは両親の所へ走っていく。

俺は周りの人の方に目をやった。

怒っている人がたくさん目につく。

中にはこちらを目がけてピストルを構えている者もいる。


そのとき、誰かが言った。

「ペリダン、よくやった!」

鴨坂 科楽
私のようには絶対に成るな
0
  • 0円
  • ダウンロード

4 / 5

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント