チッチとミーコ

チッチとミーコ( 7 / 29 )

イメージ

うちの駐車場に数匹のネコがいる。
ペット禁止のマンションなので
もちろん彼らはノラである。
誰も餌を与えてないはずなのに
彼らは一様に人懐っこい。
そこに住んでいる常連さんはもちろん
営業でやって来る一見さんを見ても
逃げようとはしない。
きっと何かを期待して
愛想を振りまいているのだろう。

さてそんな数匹のネコは
肥ったヤツや痩せたヤツ
中肉中背まで揃っている。
同じ食生活をしているはずなのに
この差は一体何なのだろう。
もしかしたら肥ったヤツは
引き寄せの法則だとか
宇宙にお願いだとかを知っていて
餌をたんまり食べている自分を
イメージしているのかもしれないな。

チッチとミーコ( 8 / 29 )

耳がきつい

アイツは時々
オレの耳の後ろに
指を持ってくる。
気配を感じてオレの耳は
ピクピクピク。動く動く。

アイツはそれを見て
オレの耳の後ろに
またしかけてくる。
気配を感じてオレの耳は
ピクピクピク。動く動く。

やつはしばらくして
オレの耳の後ろに
またまたしかけてくる。
気配を感じてオレの耳は
ピクピクピク。動く動く。

アイツはもしかしたら
オレの耳のピクピクを
楽しんでいるんじゃなかろうか。
オレの耳は見せもんじゃないぞ。
ヤメロヤメロ。耳がきつい!

チッチとミーコ( 9 / 29 )

コロとタマ

小学校二年生の頃
近くにコロという犬がいて
よくぼくの家に遊びに来ていた。
とりあえず家の前に座って
愛想よく尻尾を振っていたが
彼の魂胆は見え見えで
確実に餌をねだりに来ていたのだ。
そこで給食のパンの残りを
あげていたのだが
彼はそれを食べ終わると
それまでの愛想のよさを一変させ
振り向きもせずに
無愛想に帰って行った。

同じく小学校二年生の頃
近くにタマという猫がいて
よくぼくの家に遊びに来ていた。
別に餌をねだるわけではなく
いたずらをするわけではなく
家の前に行儀よく座って
「ミャー」とぼくを呼んだ。
ぼくが顔を見せても
別に喜んだふうではなかったが
彼女はぼくの顔を見るのが
日課だったようで
しばらくすると「ミャ」と言って
満足そうに帰って行った。

ぼくの記憶の中では、この二匹が
同時に登場したことはない。
いつも交互に来ていた。
最初は生き物はかわいいな
程度の意識しかなかったが
長くつきあっていくうちに
二匹の差が現れた。
行儀の良いタマの存在があるせいで
コロの態度の悪さが
目につくようになったのだ。
そのうち「犬は好かん」
という意識が芽生え、徐々に
コロとの距離を置くようになった。

ある時こういうことがあった。
ぼくが大切にしていたオバQのグッズを
コロはぼくの手から取り上げ
グチャグチャに噛んでしまった。
それまでの経緯もあって、ぼくは
コロを許すことが出来なかった。
ぼくは思わずコロの頭を叩きつけた。
その日を最後にコロは来なくなった。

一方のタマは相変わらずだった。
雨の日も風の日も
ぼくの顔を見に来ていた。
だがその翌年、突然来なくなった。
飼い主にその事情を聞いてみると
「突然いなくなった。おそらくどこかで
死んでいるんだろう」ということだった。
以来ぼくの家に動物は来なくなった。

ま、それはそれでいいのだが
この二匹のおかげで
一つだけ決定的になったことがある。
それは犬が大嫌いになり
猫が大好きになったということだ。
後日親戚が犬を飼うようになるのだが
いちおうかわいがってはいたものの
好きにはなれなかった。

チッチとミーコ( 10 / 29 )

こんにちはー

「こんにちはー」
親戚の家の玄関を威勢よく開けると
真っ先に出てくるのはいつも猫だ。
小さな子供のいる家に行くと
真っ先に出てくるのがその子供
というのと同じだ。
結局、年を取っても猫の知能程度は
人間の幼児と同じくらいなのだろう。
しかし猫が出てくる時、柱の陰から
こそーっと覗き込む姿には笑ってしまう。
目が合うと目をそらし、他の所を見る。
で、こちらが知らん顔をしていると
またこそーっとこちらを覗き込む。
そこで再び目を合わせてやると
慌てて他の場所に目をやる。きっと
自分が目をそらせば、自分の姿が相手に
見えなくなるとでも思っているのだろう。
その行為が実に愛くるしい。
樹田真太
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