チッチとミーコ

チッチとミーコ( 1 / 29 )

猫にふられる理由

猫は本能で生きている動物だから
自分の行動に理屈をつけることをしない。
行動に理屈をつけることをしないから
のんびりと人生を考えることもない。
人生を考えることがないということは
裏返せばそんな暇はないということになる。

つまり猫はその時その時の行動に
人生のすべてを賭けているわけで
だから今日はこのくらいにしておこう
などと言って手抜きをすることもなければ
やろうかな、どうしようかな
などという優柔不断な行動をとることもない。

猫はすべてに真剣勝負なわけだから
「猫は本能で生きている動物だから
自分の行動に理屈をつけることをしない…」
などと勝手に猫の人生を考えているような
暇な人間を相手にする暇を
持ち合わせてはいない。

チッチとミーコ( 2 / 29 )

縁側の猫

カラコロという下駄の音がすると
縁側で寝ている猫が
首をもたげて「ニャー」と鳴く。
「何でこの猫は
下駄の音に反応するんだ?」
「それは幼い頃に
下駄で尻尾を踏まれたからだよ」
「なるほど。それでこの猫の
尻尾の先は曲がっているんだ」
「あー、触っちゃダメだよ」
「何で?もう痛みなんて
とっくに引いているはずだろ」
「そうじゃない。この猫は今でも
尻尾のことで恨みを持っているんだ」
「えっ。恨みって、猫が?」
「そうだ。だから尻尾を触られると
下駄に踏まれた昔を思い出して
恨みを晴らそうとするんだ」
「まさか取り憑くわけじゃないだろうな」
「そのまさかだ。こいつももう高齢だ。
もし取り憑いたら大変なことになるぞ。
そっとしておけ、そっと…」
外からは相変わらず
カラコロと下駄の音がする。
縁側の猫は相変わらず
首をもたげて「ニャー」と鳴く。

チッチとミーコ( 3 / 29 )

チッチとミーコ

日が暮れてしばらくすると
アイツが黒い箱からゆっくり
ゆっくり降りてくる。そして
オレを見つけると、決まって
『チッチ』と舌打ちしやがる。

舌打ちをした後アイツは決まって
『ミーコ』と言っている。どうやら
オレに付けた名前のようだ。
だけど、オレはオレであって
ミーコではない。絶対違う!

しかし何でオレがミーコなんだ。
ミーコ顔でもしてるんだろうか。
そんなヘンテコな名前はやめてくれ。
付けるならもっと気の利いた
英語の名前を付けてくれよ。

とはいえこのままでは悔しいな。
そうだ、オレもアイツに変な
名前を付けてやろうじゃないか。
何にしようかな。やっぱり
チッチと言うからチッチがいい。

あ、チッチが帰ってきた。
いかん!見つかってしまった。
『ミーコ、ミーコ』と近づいてくる。
「馬鹿チッチ、糞チッチ。どっか行け。
ミーコなんて二度と呼ぶな!」

オレは声に出して言った。
間違いなくチッチは馬鹿だ。
オレの言うことがわかってない。
あっそこまで来た。わっ満面の笑みだ。
「失せろチッチ。気持ち悪い!!」

チッチとミーコ( 4 / 29 )

ああ、寒い

街がどこかに流れて行く
街がどこかに流れて行く
お前の夢の場所はここじゃない
お前の行き着く先はここじゃない
そうつぶやきながら
街がどこかに流れて行く

街がこんなにちんけだから
街がこんなにちんけだから
癒やしてくれる猫さえも
いなくなったじゃないか
おかげで人も減ったじゃないか
街がこんなにちんけだから

華やかな彩りのネオンは
見た目だけのイルミネーションに変わり
温かさのなくなった街を映し出す
夢も見られなくなった街を映し出す。
青と白だけの無機質な
寂しい街を映し出す

街はきっと凍えているんだ
街はきっと凍えているんだ
あの時の夢はいつか終わったんだ
だから今は現実の生活に思いを馳せるんだ
気がつかないうちに気温が少し下がったんだ
だから街が凍えているんだ
樹田真太
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