犬の夢

柴犬は、次の授業が始まるチャイムが鳴り響くと、1年のクラスが並ぶ1階に駆け下りた。廊下をうろうろしていると、元気な声がする1年C組のドアの前で足を止めた。一度周りを見渡し、このクラスの話を盗み聞きすることにした。

 

 ルーシー先生のクラスでは、女性にも徴兵制を科すかどうかの議論がなされていた。賛成派と反対派に別れ、自由に議論がなされていた。賛成派の高橋さんは、斬新的な意見を述べた。「女性は、戦争には向かないと言う考えは、迷信だと思います。現在の女性は、高学歴者も多く、知的にも、体格的にも、男性に劣らなくなっていると思います。確かに、女性は、体力的には男性に劣ると思いますが、鍛えることによって、筋力はつくと思います。戦略や、戦術に女性の知力をおおいに生かすべきだと思います。」高橋さんは、右腕を突き上げた。

 

 反対派の松井さんは、冷静に穏やかに発言した。「女性は、大昔から女神として拝み奉られてきました。女性は、平和の神であって、戦争の神ではないと思います。女性は、家族を守り、子供を育てるのが勤めだと思います。戦争で戦死するのは、男性がふさわしいと思います。生物学的にも、男性は殺人を好むのだと思います。女性は、愛に生きる動物だと思います」松井さんの意見は、みんなを頷かせた。

 賛成派の二宮君は、大きな声で手を上げ立ち上がった。「確かに戦争には、男性が向いていると思います。筋力もあるし、平気で殺人ができると思います。でも、女性もいざ戦場に出れば、男性と同じように殺人はできると思います。戦場は、愛を捨てるいい機会だと思います。日本民族を守るためには、男女機会均等法に従い平等に殺人をするべきだと思います。きっと、一人殺せば、気が楽になって、何人でも殺せるようになると思います」二宮君は、ドヤ顔で腰を下ろした。

 

 反対派の渡辺さんは、目を吊り上げて立ち上がった。「二宮君の意見は、女性を侮辱しています。女性の愛は、動物的なもので、永遠に不滅なものです。戦場に送り込まれても決して愛はなくなりません。傷ついた兵士を見れば、きっと身を投げ捨ててでも、瀕死の兵士を介護すると思います。だから、女性に人殺しはできません。殺人は、男性のみがすればいいと思います」渡辺さんは、二宮君をにらみつけて腰掛けた。

 

 賛成派の秋元さんは、大好きな二宮君を援護するため立ち上がった。「戦争は、男性だけのものと決め付けるのは間違いだと思います。正義のためには、女性も戦うべきだと思います。確かに、戦場で人を殺すことは怖いと思いますが、何人か殺せば慣れると思います。愛とは、民族を守るためにあると思います。女性もやればできると思います」秋元さんは、二宮君に笑顔を送った。

 反対派の大野君は、大好きな渡辺さんの援護に入った。「戦争は、男性のものだと思います。歴史的に見て、女性は戦争に参加していません。本来、戦争は、男同士の殺し合いであって、女性や子供を巻き添えにすべきではないと思います。現在、多くの女性や子供たちが戦争で殺されていますが、この戦争は、正義の戦争ではないと思います。正義の戦争とは、男同士の殺し合いだと思います。女性は、おろかな男性を慰めるのが勤めではないでしょうか?」大野君は、腕を組んで腰掛けた。

 

 次に、男女徴兵制が実施されたとして、軍隊での恋愛を禁止すべきかどうかの議論がなされた。さっそく、恋愛賛成派の宮沢さんが立ち上がった。「恋愛は、女性の命です。恋愛ができなければ、戦場には行かないと思います。恋愛は、戦争のモチベーションを高め、気持ちよく殺人ができる媚薬だと思います。戦場で、燃えるような恋がしたいと思います」宮沢さんは、好きな人と一緒に戦場にいる自分を思い浮かべていた。

 

 恋愛反対派の松本君は、机をドンと叩いて立ち上がった。「恋愛は、言語道断です。恋愛をすれば、死にたくないと言う気持になって、戦場から逃げ出すと思います。恋愛は、軍隊の風紀を乱すと思います。万が一、妊娠するようなことになれば、戦場に出られなくなってしまいます。これでは、戦力が落ちてしまい、戦争に負けてしまいます。恋愛は、断固として反対です」松本君は、ガッツポーズをとった。

 恋愛賛成派の柏木さんは、笑顔で立ち上がった。「男性は、女性をまったくわかっていないと思います。女性は、恋愛すれば強くなるのです。好きな男性ができれば、戦争に勝って、幸せな家庭を作りたいと思うものです。だから、恋愛は、母性本能をくすぐり、闘争心を高めるのです。ライオンで狩をするのはメスじゃないですか。恋愛のない軍隊なんて、大島のいないAKB 見たいなものです」意味不明のたとえで締めくくったが、なぜか、拍手が起きた。

 

 恋愛反対派の相葉君は、まあ~まあ~と言いながら、周りを見回しながら立ち上がった。「みんな、恋愛は、団結心を失わせるんだよ。AKBだって、恋愛を禁止していたからこそ、今までやってこられたんじゃないだろうか。軍隊で恋愛すれば、きっと、どこかで逢引するに決まっている。軍隊の規則も守らなくなるし、二人で脱走するかもしれない。戦争より恋愛のほうが楽しいわけだから、きっと、男性は腑抜けになると思う。AKBのように恋愛禁止にすべきです」数人の男子が、そうだそうだ、と声を上げた。

 

 恋愛賛成派の北原さんが、深刻な顔で立ち上がった。「歴史的に軍隊には、女性はいませんでした。いつも、女性は、戦場で暴行を受け、被害にあっています。それは、男性軍人が、恋愛できなかったからではないでしょうか。軍隊でも恋愛とセックスが許されたならば、戦場でのレイプはなくなると思います。正義の戦争は、愛をはぐくみながら行うべきものだと思います」大きな拍手が沸き起こった。みんなは、頷いた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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