犬の夢

ディベート

 

 篠田教頭が糸島中学に赴任して以来、ディベートが盛んに行われるようになった。世界を支配できる軍国主義九州帝国を建立するには、世界一の頭脳と詭弁術を子供たちが身につけなければならないと教頭は考え、ディベート授業を取り入れた。かねがね、教頭はCIAの陰謀力と詭弁術には感心していた。今、一番参考にすべき頭脳は、CIA だと確信し、世界支配のためには、CIA以上の陰謀論と詭弁術を生徒たちに教えなければならないと決心した。

 

 教頭は、世界で最も優秀な民族は、ユダヤ民族と日本民族に違いないと考えていた。と言うのも、優秀な日本民族の祖先が、ユダヤ民族だからだった。さらに、ユダヤ民族は、歴史的に迫害を受けてきが、日本民族の祖先がユダヤ民族であることが判明した現在、日本民族も迫害のターゲットにされると考えていた。また、CIAの狙いは、武力による知的民族の奴隷化で、特に、ユダヤ民族と日本民族の奴隷化を策謀していると考えていた。

 

 戦後CIA が押し付けた日本国憲法と日米安保条約は、まさに、日本民族を奴隷化するための洗脳政策であり、すでに、日本の政治家は、CIAの手先と成り果て、日本民族を地獄に落としいれようとしている。もはや、不正選挙で選ばれた政治家に国民の将来を預けることはできない。日本民族を存続させるために、沖縄からCIA 軍事基地を排除し、核ビジネスに頼らない九州帝国建立のための独立運動をしなければならない、と教頭は職員会議で何度も叫んだ。

柴犬は、次の授業が始まるチャイムが鳴り響くと、1年のクラスが並ぶ1階に駆け下りた。廊下をうろうろしていると、元気な声がする1年C組のドアの前で足を止めた。一度周りを見渡し、このクラスの話を盗み聞きすることにした。

 

 ルーシー先生のクラスでは、女性にも徴兵制を科すかどうかの議論がなされていた。賛成派と反対派に別れ、自由に議論がなされていた。賛成派の高橋さんは、斬新的な意見を述べた。「女性は、戦争には向かないと言う考えは、迷信だと思います。現在の女性は、高学歴者も多く、知的にも、体格的にも、男性に劣らなくなっていると思います。確かに、女性は、体力的には男性に劣ると思いますが、鍛えることによって、筋力はつくと思います。戦略や、戦術に女性の知力をおおいに生かすべきだと思います。」高橋さんは、右腕を突き上げた。

 

 反対派の松井さんは、冷静に穏やかに発言した。「女性は、大昔から女神として拝み奉られてきました。女性は、平和の神であって、戦争の神ではないと思います。女性は、家族を守り、子供を育てるのが勤めだと思います。戦争で戦死するのは、男性がふさわしいと思います。生物学的にも、男性は殺人を好むのだと思います。女性は、愛に生きる動物だと思います」松井さんの意見は、みんなを頷かせた。

 賛成派の二宮君は、大きな声で手を上げ立ち上がった。「確かに戦争には、男性が向いていると思います。筋力もあるし、平気で殺人ができると思います。でも、女性もいざ戦場に出れば、男性と同じように殺人はできると思います。戦場は、愛を捨てるいい機会だと思います。日本民族を守るためには、男女機会均等法に従い平等に殺人をするべきだと思います。きっと、一人殺せば、気が楽になって、何人でも殺せるようになると思います」二宮君は、ドヤ顔で腰を下ろした。

 

 反対派の渡辺さんは、目を吊り上げて立ち上がった。「二宮君の意見は、女性を侮辱しています。女性の愛は、動物的なもので、永遠に不滅なものです。戦場に送り込まれても決して愛はなくなりません。傷ついた兵士を見れば、きっと身を投げ捨ててでも、瀕死の兵士を介護すると思います。だから、女性に人殺しはできません。殺人は、男性のみがすればいいと思います」渡辺さんは、二宮君をにらみつけて腰掛けた。

 

 賛成派の秋元さんは、大好きな二宮君を援護するため立ち上がった。「戦争は、男性だけのものと決め付けるのは間違いだと思います。正義のためには、女性も戦うべきだと思います。確かに、戦場で人を殺すことは怖いと思いますが、何人か殺せば慣れると思います。愛とは、民族を守るためにあると思います。女性もやればできると思います」秋元さんは、二宮君に笑顔を送った。

 反対派の大野君は、大好きな渡辺さんの援護に入った。「戦争は、男性のものだと思います。歴史的に見て、女性は戦争に参加していません。本来、戦争は、男同士の殺し合いであって、女性や子供を巻き添えにすべきではないと思います。現在、多くの女性や子供たちが戦争で殺されていますが、この戦争は、正義の戦争ではないと思います。正義の戦争とは、男同士の殺し合いだと思います。女性は、おろかな男性を慰めるのが勤めではないでしょうか?」大野君は、腕を組んで腰掛けた。

 

 次に、男女徴兵制が実施されたとして、軍隊での恋愛を禁止すべきかどうかの議論がなされた。さっそく、恋愛賛成派の宮沢さんが立ち上がった。「恋愛は、女性の命です。恋愛ができなければ、戦場には行かないと思います。恋愛は、戦争のモチベーションを高め、気持ちよく殺人ができる媚薬だと思います。戦場で、燃えるような恋がしたいと思います」宮沢さんは、好きな人と一緒に戦場にいる自分を思い浮かべていた。

 

 恋愛反対派の松本君は、机をドンと叩いて立ち上がった。「恋愛は、言語道断です。恋愛をすれば、死にたくないと言う気持になって、戦場から逃げ出すと思います。恋愛は、軍隊の風紀を乱すと思います。万が一、妊娠するようなことになれば、戦場に出られなくなってしまいます。これでは、戦力が落ちてしまい、戦争に負けてしまいます。恋愛は、断固として反対です」松本君は、ガッツポーズをとった。

春日信彦
作家:春日信彦
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