犬の夢

 反対派の大野君は、大好きな渡辺さんの援護に入った。「戦争は、男性のものだと思います。歴史的に見て、女性は戦争に参加していません。本来、戦争は、男同士の殺し合いであって、女性や子供を巻き添えにすべきではないと思います。現在、多くの女性や子供たちが戦争で殺されていますが、この戦争は、正義の戦争ではないと思います。正義の戦争とは、男同士の殺し合いだと思います。女性は、おろかな男性を慰めるのが勤めではないでしょうか?」大野君は、腕を組んで腰掛けた。

 

 次に、男女徴兵制が実施されたとして、軍隊での恋愛を禁止すべきかどうかの議論がなされた。さっそく、恋愛賛成派の宮沢さんが立ち上がった。「恋愛は、女性の命です。恋愛ができなければ、戦場には行かないと思います。恋愛は、戦争のモチベーションを高め、気持ちよく殺人ができる媚薬だと思います。戦場で、燃えるような恋がしたいと思います」宮沢さんは、好きな人と一緒に戦場にいる自分を思い浮かべていた。

 

 恋愛反対派の松本君は、机をドンと叩いて立ち上がった。「恋愛は、言語道断です。恋愛をすれば、死にたくないと言う気持になって、戦場から逃げ出すと思います。恋愛は、軍隊の風紀を乱すと思います。万が一、妊娠するようなことになれば、戦場に出られなくなってしまいます。これでは、戦力が落ちてしまい、戦争に負けてしまいます。恋愛は、断固として反対です」松本君は、ガッツポーズをとった。

 恋愛賛成派の柏木さんは、笑顔で立ち上がった。「男性は、女性をまったくわかっていないと思います。女性は、恋愛すれば強くなるのです。好きな男性ができれば、戦争に勝って、幸せな家庭を作りたいと思うものです。だから、恋愛は、母性本能をくすぐり、闘争心を高めるのです。ライオンで狩をするのはメスじゃないですか。恋愛のない軍隊なんて、大島のいないAKB 見たいなものです」意味不明のたとえで締めくくったが、なぜか、拍手が起きた。

 

 恋愛反対派の相葉君は、まあ~まあ~と言いながら、周りを見回しながら立ち上がった。「みんな、恋愛は、団結心を失わせるんだよ。AKBだって、恋愛を禁止していたからこそ、今までやってこられたんじゃないだろうか。軍隊で恋愛すれば、きっと、どこかで逢引するに決まっている。軍隊の規則も守らなくなるし、二人で脱走するかもしれない。戦争より恋愛のほうが楽しいわけだから、きっと、男性は腑抜けになると思う。AKBのように恋愛禁止にすべきです」数人の男子が、そうだそうだ、と声を上げた。

 

 恋愛賛成派の北原さんが、深刻な顔で立ち上がった。「歴史的に軍隊には、女性はいませんでした。いつも、女性は、戦場で暴行を受け、被害にあっています。それは、男性軍人が、恋愛できなかったからではないでしょうか。軍隊でも恋愛とセックスが許されたならば、戦場でのレイプはなくなると思います。正義の戦争は、愛をはぐくみながら行うべきものだと思います」大きな拍手が沸き起こった。みんなは、頷いた。

 

 恋愛反対派の生徒も北原さんの意見に圧倒されてしまった。相葉君が好きな恋愛反対派の前田さんが立ち上がった。「確かに、北原さんの意見は、的を射ていると思います。でも、恋愛が許されたならば、きっと戦意が消失すると思います。戦争とは、殺人です。恋愛して、殺人ができるでしょうか?確かに、戦場でのレイプは減るかもしれませんが、なくならないと思います。男性は、動物的にセックスが好きだと思います。本命の彼女がいても、浮気するじゃないですか」数人の女子が拍手した。

 

 中学生の意見は、大人と違って、創造的であった。ルーシー先生は、大人に活気がないのは、CIAに洗脳されてしまったからだと思った。CIAが処方した日本国憲法と言う麻薬を喜んで飲んでしまった日本国民は、安楽死を受け入れる民族となりはて、また、「正義の戦争」で世界支配をもくろむCIAの手先となってしまった日本国民は、人間の尊厳を無くし、単なる奴隷として戦場に赴く運命をたどることになったしまった、と嘆いた。

 

覚醒

 

  柴犬が元気溢れる議論に聞き入っていると、後ろから超ミニスカのバーバラ先生が声をかけた。「可愛い子犬!」バーバラ先生は、柴犬を抱きかかえると、ドアをそっと開け、教室に入っていった。「こんなところに、可愛い子犬がいたわよ。ほら」バーバラ先生は、両手で持ち上げみんなに見せた。ルーシー先生は、笑顔でドアまでかけていった。「あら、マジ、可愛い!みんな、クラスで飼うことにしようか?」みんなは、大声で「やった~!」歓喜の声を上げた。

 生徒たちは、みんな喜び、この可愛い子犬をクラスで飼うことにした。柴犬は、逃げ出すわけには行かず、工作員が助けに来てくれるまで、子供たちに面倒を見てもらうことにした。柴犬は、少しがっかりしたが、子供たちや先生たちの行動を確かめるいい機会と思い、愛想よく振舞う決意をした。1年C組のルーシー先生のクラスで飼われることになった柴犬は、5月にちなんでメイと名づけられ、みんなに可愛がられることになった。

 

 放課後は、みんな部活に行くため、メイは、のんびりと散歩しながら耳をそばだてることにした。グランドの片隅にある花壇の三色スミレを眺めるふりをして、職員室の裏ドア前の階段にそっと丸くなった。職員室からは女性の甲高い声が響いていたが、何を言っているかはっきり聞き取れず、もやもやしていたところ、花壇の縁を作っている赤レンガに白いカラスがさっと舞い降りてきた。

 

 驚いたメイは、とっさに顔を持ち上げ、じっとにらみつけた。白いカラスは、大きなくちばしをほんの少し開いて訊ねた。「おい君、見かけない顔だな。この学校に何のようだ。田舎ものじゃなさそうだな。どこからやって来たんだ」得体の知れない白いカラスに声をかけられたメイは、いつでも戦えるようにお座りをした。「君こそ、この学校で何をやっているんだ。白いカラスて~のは、初めてお目にかかったぜ。田舎ものでないことは確かだが、上から目線で言われては、答える気がしね~な」メイは、鼻をつんと上に向けた。

春日信彦
作家:春日信彦
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