犬の夢

 生徒たちは、みんな喜び、この可愛い子犬をクラスで飼うことにした。柴犬は、逃げ出すわけには行かず、工作員が助けに来てくれるまで、子供たちに面倒を見てもらうことにした。柴犬は、少しがっかりしたが、子供たちや先生たちの行動を確かめるいい機会と思い、愛想よく振舞う決意をした。1年C組のルーシー先生のクラスで飼われることになった柴犬は、5月にちなんでメイと名づけられ、みんなに可愛がられることになった。

 

 放課後は、みんな部活に行くため、メイは、のんびりと散歩しながら耳をそばだてることにした。グランドの片隅にある花壇の三色スミレを眺めるふりをして、職員室の裏ドア前の階段にそっと丸くなった。職員室からは女性の甲高い声が響いていたが、何を言っているかはっきり聞き取れず、もやもやしていたところ、花壇の縁を作っている赤レンガに白いカラスがさっと舞い降りてきた。

 

 驚いたメイは、とっさに顔を持ち上げ、じっとにらみつけた。白いカラスは、大きなくちばしをほんの少し開いて訊ねた。「おい君、見かけない顔だな。この学校に何のようだ。田舎ものじゃなさそうだな。どこからやって来たんだ」得体の知れない白いカラスに声をかけられたメイは、いつでも戦えるようにお座りをした。「君こそ、この学校で何をやっているんだ。白いカラスて~のは、初めてお目にかかったぜ。田舎ものでないことは確かだが、上から目線で言われては、答える気がしね~な」メイは、鼻をつんと上に向けた。

 白いカラスは、首をかしげ、しばらく黙って考えた。この柴犬はただ者ではないと直感した白いカラスは、自己紹介をして、仲良くなることにした。「それは悪かったな。口が悪いのは、許してくれ。俺は、福島からやって来た風来坊さ。白いって~のは、俺も気に入らないんだが、しょうがね~のさ。放射能の内部被曝とやらで、生まれたときからこの有様さ。まあ、仲良くしようじゃないか」

 

メイは、しばらく考え、返事した。「僕は、昨日、東京からやって来たばかりで、糸島のことはまったく知らないんだ。よろしく頼むよ」メイは、この白いカラスから情報をとることにした。「へ~、東京からかよ。ご主人様は、転勤族ってわけだな。とんだ災難ってわけか。俺は気楽なものさ。風の吹くまま、あちこち旅をしているのさ。こちらこそ、よろしく」白いカラスは、暇つぶしの話し相手ができたと、ほんの少し嬉しくなった。

 

 「ところで、君は物知りみたいだけど、この学校で面白い話はないかい?ちょっと前に、赤のTバックをはいた超ミニスカの先生に抱っこされて、頭をナデナデされたんだけど、あの先生,普通じゃないよね」この白いカラスがびっくりするような情報を持っているような気がしたメイは、まず、教師の素性を探ることにした。「物知りに見えるかい。それは光栄だよ。自分で言うのは何だけど、カラスの中では一番賢いと自負してるんだがね。例の超ミニスカの先生は、バーバラ先生と言って、生徒たちにとても人気が有るんだ。でも、淫乱だと思うけどね」白いカラスは、ドヤ顔で胸を張った。

 「それじゃ、ここの教頭は、どんな感じだい。メガネをかけた陰険なインテリみたいだったけど」最も知りたい教頭について質問した。「ほ~、軍国主義者の才女ね~。教頭は、ちょっとした有名人だよ。九州帝国を建立し、女帝になるつもりだよ。この学校では、誰一人教頭に太刀打ちできるものはいないよ。でも、いずれ、CIAに暗殺されるんじゃないか。CIAに楯突くやつは、暗殺されているからな。ほら、ケネディー大統領が暗殺されたようにさ」白いカラスは、ホワイトハウスにも行ったことがあり、CIAと大統領の会話も盗み聞きしたことがあった。

 

 メイは、CIAと聞いて心臓がバクバクし始めた。「知らなかったな~、CIAってそんなに怖いのかい?正義の味方と思っていたけどね。今の総理は、好かれていると思うかい?」メイは、CIAを信用してはいたが、白いカラスの話を聞いて不安になった。「そ~だな~、大統領には嫌われてはいないと思うけど、暗殺されないという保証はないからな。TPPしだいじゃないか?君は、若いのに政治に興味があるとは、感心だ」白いカラスは、子供の柴犬の質問に感心した。

 

 「そう、九州自治共和党の党首について知っていることがあったら、教えてくれないか?関東でも、謎の男として話題になっているんだが」白いカラスならば、何か知っていると思った。党首は、表に現れることはなく、街頭演説は、ほとんど幹事長がやっていた。党首は、いつも男装をしているため、誰一人、素顔を見たものはいなかった。「例の謎の人物か。残念だが、俺にも皆目見当がつかないよ。そんな、くだらない話はやめにして、水泳部でも見学したほうが楽しいぜ」白いカラスは、バーバラ監督のTバックビキニ姿をメイに見せることにした。

「遠慮しとくよ。犬かきは得意だけど、プールに放り投げられちゃ、たまんないからね」メイは、散歩しようと階段からぴょんと飛び降りた。「ちょっと待てよ。Tバックビキニを見たくないのか?何度見てもよだれが出るぜ。相棒、見ようじゃないか。ついて来いよ」白いカラスは、糸島市民プールに向かって飛び立った。メイは、Tバックビキニには興味なかったが、とにかく白いカラスの後を追って駆け出した。

 

 水泳部は、男子が圧倒的に多かった。4月から、バーバラ先生が監督になったことで、一気に部員が増えた。部員数は、男子72名、女子28名まで膨れ上がり、練習もできないほどの部員数となってしまった。男子においては、サッカー部、野球部、テニス部などの部員が掛け持ちで入部してきた。理由はただ一つ、バーバラ先生のTバックビキニ姿を見るためであった。部員が多いため、女子は稲垣監督の下、学校のプールで練習し、男子は、バーバラ先生の下、市民プールで練習することになった。

 

 部員たちは、バーバラ先生がTバックビキニで現れると、口笛を鳴らした。部員のほとんどは、Tバックビキニを見るのが目的で練習はいいかげんであったが、数人の部員は、練習熱心で、急激に記録を伸ばしていた。と言うのも、自己記録を更新したならば、ヒップタッチの特典が与えられたからだった。バーバラ監督のムッチリしたお尻を触れるとあって、色魔部員は、死に物狂いで練習に打ち込んだ。

春日信彦
作家:春日信彦
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