犬の夢

 「必要性の質問は、必ず出てきます。高校、大学の受験科目に英語がありますね。だから、英語の勉強は必要なのです。なぜ、受験科目に英語があるのかは、分かりません。日本人は、中学、高校と受験のために英語を勉強しています。でも、ほとんどの人は、話せないし、ちょっとしたメールも書くことができません。とても、不思議です。だからと言って、英語の勉強が無駄といえるでしょうか?おそらく、勉強のやり方がよくないのだと先生は思っています。

 

先生は、使える英語をみんなに学んで欲しいと思っています。英語は、勉強じゃなくて遊びと思ってみてはどうかな。これからも楽しくやっていきたいと思っています」話し終えると即座に水崎君が手を挙げた。「でも、受験のためにたくさんの単語を覚えなければならないじゃないですか。結局、遊びと思っても、つらいばっかりで、面白くないと思います。受験科目から英語を無くせばいいんだ」ふくれっつらの水崎君は、みんなの同意を得ようと周りを見渡した。

 

尾崎君が声を張り上げた。「そうだ。英語なんて要らない。日本人は、日本語をもっと勉強すべきだ。日本人は、アメリカ人にならなくてもいいんだ」数人から、賛同の声が上がった。「そうだ、そうだ。英語はいらね~」寺山さんがすっと立ち上がった。「私も英語は嫌いです。でも、遊びの英語だったら、いいと思います。父も母も受験のために英語を勉強したはずなのに、まったく話せません。中学校程度の英語も忘れています。受験英語は、無駄と思います」

 勢いよく田中さんが立ち上がった。「私にもはっきりした答えが出せません。でも、英語は必要だと思います。これからますます欧米人が日本で働くようになると思うからです。また、欧米人が経営する会社に就職する場合、英語は不可欠になると思います。自衛隊で英会話の特訓がなされていると聞きましたが、近い将来、米兵と一緒に戦場に行くと言うことだと思います。日米安保条約とTPPがある限り、英語から逃げることができないと思います。だから、英語が話せるようになりたいと思います」バーバラ先生は、田中さんの国際的な視野に感心した。

 

 「みんな、英語は、勉強でなく、受験のためでもなく、単なる言葉遊びです。英語なんて、できなくても、ちっとも恥ずかしくありません。いいかげんな英会話でいいんです。楽しく、わいわい、遊び英語をやろうじゃないですか、みんな。憶えられる英語だけでいいんです。いいかな、みんな」バーバラ先生は、笑顔で生徒たちを見渡した。木村君が椅子の上に立ち、叫んだ。「楽しくやろうぜ。バーバラ先生は、世界一の先生じゃないか」みんなも、一斉に立ち上がり、「そうだ、そうだ」と大声を張り上げた。

 

It’s almost time to stop. Remember your homework! Have a good weekend!」バーバラ先生が、授業終了の挨拶をしたとき、木村君は、椅子から机に飛び上がり、大きな声を発した。「今日は、レッドですね。先生大好きで~す!」バーバラ先生は、超ミニスカのお尻をフリフリして笑顔でドアに向かった。ドアに足音が近づくと、ドアの前で盗み聞きしていた柴犬は、すばやく駆け出し、男子トイレに隠れた。

ディベート

 

 篠田教頭が糸島中学に赴任して以来、ディベートが盛んに行われるようになった。世界を支配できる軍国主義九州帝国を建立するには、世界一の頭脳と詭弁術を子供たちが身につけなければならないと教頭は考え、ディベート授業を取り入れた。かねがね、教頭はCIAの陰謀力と詭弁術には感心していた。今、一番参考にすべき頭脳は、CIA だと確信し、世界支配のためには、CIA以上の陰謀論と詭弁術を生徒たちに教えなければならないと決心した。

 

 教頭は、世界で最も優秀な民族は、ユダヤ民族と日本民族に違いないと考えていた。と言うのも、優秀な日本民族の祖先が、ユダヤ民族だからだった。さらに、ユダヤ民族は、歴史的に迫害を受けてきが、日本民族の祖先がユダヤ民族であることが判明した現在、日本民族も迫害のターゲットにされると考えていた。また、CIAの狙いは、武力による知的民族の奴隷化で、特に、ユダヤ民族と日本民族の奴隷化を策謀していると考えていた。

 

 戦後CIA が押し付けた日本国憲法と日米安保条約は、まさに、日本民族を奴隷化するための洗脳政策であり、すでに、日本の政治家は、CIAの手先と成り果て、日本民族を地獄に落としいれようとしている。もはや、不正選挙で選ばれた政治家に国民の将来を預けることはできない。日本民族を存続させるために、沖縄からCIA 軍事基地を排除し、核ビジネスに頼らない九州帝国建立のための独立運動をしなければならない、と教頭は職員会議で何度も叫んだ。

柴犬は、次の授業が始まるチャイムが鳴り響くと、1年のクラスが並ぶ1階に駆け下りた。廊下をうろうろしていると、元気な声がする1年C組のドアの前で足を止めた。一度周りを見渡し、このクラスの話を盗み聞きすることにした。

 

 ルーシー先生のクラスでは、女性にも徴兵制を科すかどうかの議論がなされていた。賛成派と反対派に別れ、自由に議論がなされていた。賛成派の高橋さんは、斬新的な意見を述べた。「女性は、戦争には向かないと言う考えは、迷信だと思います。現在の女性は、高学歴者も多く、知的にも、体格的にも、男性に劣らなくなっていると思います。確かに、女性は、体力的には男性に劣ると思いますが、鍛えることによって、筋力はつくと思います。戦略や、戦術に女性の知力をおおいに生かすべきだと思います。」高橋さんは、右腕を突き上げた。

 

 反対派の松井さんは、冷静に穏やかに発言した。「女性は、大昔から女神として拝み奉られてきました。女性は、平和の神であって、戦争の神ではないと思います。女性は、家族を守り、子供を育てるのが勤めだと思います。戦争で戦死するのは、男性がふさわしいと思います。生物学的にも、男性は殺人を好むのだと思います。女性は、愛に生きる動物だと思います」松井さんの意見は、みんなを頷かせた。

春日信彦
作家:春日信彦
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