冬ぽか物語

はじめに

 
 寒い冬だからこそ いのちのあたたかさを感じ 
 
    しあわせが見えてくることもある・・・。 
 
 
         
      はじめまして。  そよ風です。
 
 
 

ここ北海道は、冬の寒いことで知られていますが、
 
その中でも特に極寒な地域で私は暮らしています。
 
 
冷え込んだ時には、氷点下30度前後まで下がる事も珍しくなく、
 
同じ管内のとある町では、以前、オーロラが観察されたことも
 
ありました
 
 
キラキラに冴えわたった一面の銀世界で、
 
ツルツルに凍った大地の上を
 
滑らないようにヨチヨチ歩きなんかしていると
 
まるで自分が北極か南極のペンギンになったような気分です。
 
 
冬は晴れの日がとても多く、その青空の美しさは
 
吸い込まれて往きそうなほど魅力的なのですが、
 
 
猛吹雪 吹き溜まり そして氷点下から抜け出せない日が
 
幾日も幾日も続いたりすると、
 
 
「もっと暖かなところで暮らしたい・・・」
 
 
そんな気持ちが少しだけ沸いてきたりもするのです。
 
 
けれど、
 
 
風も無く 冷たく澄んだ美味しい空気の中で
 
音も無く あまりに静かな白銀の中 そっとたたずんでいると
 
それは 空気の凍っていく音でしょうか しんしんとした
 
まるで 雪の精 冬の精 の ささやき・・・が
 
聞こえてくるかのようです。
 
 
 
そんな瞬間に触れた時、
 
 
「ここで暮らしていて良かった・・・」
 
 
と、私は心の底から思えるのでした。
 
 
 
どこまでも白一色の 冬の広い大地の中で
 
小さな松ぼっくりのように
 
私はひとりポツンと埋もれるように暮らしています。
 
 
 
小鳥やキツネやウサギたちが
 
 そんな私を訪ねて来てくれるのです。
 
 
 
私にとってそれは、かけがえのないお客さんです。
 
 
 
 
白銀に反射する 輝くような日差しのフラッシュの中で
 
そんな 一瞬一瞬 一日一日は 
 
私のこころに焼き付けられ
 
そして こころのアルバムに収められていく
 
かけがえのない 大切なスナップ写真のよう・・・。
 
 
 
それは 幾何学模様の白い冬の花びら
 
美しい雪の結晶たちに縁取られた
 
ひとひらひとひら ひとつぶひとつぶの
 
決して溶けたり消えたりすることのない
  
感謝と輝きに満ちた
 
 
きらめく 氷細工たちです。
 
 
結晶ok.png

ネズミとクルミ。

秋も終わり、いよいよ冬が始まるぞーという合図のように、

 

私の家では決まって聞こえてくる「音」があります。

 

それは、天井裏や壁の間でネズミがクルミをかじる

 

ガリガリというものすごい音です。

 

 

硬いクルミを壁や天井板にぴったり押し当て、まるで土建工事並みの

 

高速削岩機か何かで削っているような、とにかくすごい騒音なのです。

 

それも決まって夜になると始まりだすので、とても寝てなどいられません。

 

 

 

静かな田舎暮らしにあこがれて、私は数年前から現在のこの家で

 

暮らしています。

 

生まれも育ちも北海道なので、冬の寒さには殆どあきらめに近い

 

慣れがあります。(笑)

 

(とは言っても寒がり屋な私です・・・)

 

 

でも寝ている時に、ネズミがクルミをガリガリやる音だけは、

 

とても耐えられるものではありません。

 

 

 

ガリガリガリガリッ!ガガガガガガーッ!ダダダダダダダーッ!

 

 

 

力いっぱいかじっているのでしょう、時々ネズミの手から外れた硬い実が、

 

パチーンッと飛んでどこかに当るような音がして、その後

 

 

 

ゴロゴロゴロゴロゴロッ (天井裏を転がる音) 

 

 

 

カンッ カーンッ! スットーンッ!(壁の間をあちこち当りながら下まで落ちた音)

 

 

と、まぁ良くぞここまでうるさく賑やかな音を立てられるものだと、

 

思わずそう感心してしまうくらいなのです。

 

 

 

築70年近く経つこのボロ家と、小さな庭・・・。

 

その庭の中に立つ、たくさんのクルミの木々。

 

 

 

オニグルミと呼ばれるもので、その実は食用にはあまり向いてはいませんが、

 

普通の胡桃より一回りほど小さいので、ネズミには持ち運びに最適なサイズ

 

なのでしょうね。

 

 

 

よりによって隙間だらけのこの家の近くに、どうしてネズミが喜ぶような実が成る

 

木なんかをいっぱい植えあるのォっ!? 

 

 

 

家の大家さんに聞いたところ、リスの餌用にと植えたそうです。

 

今は畑ばかりが広がっていますが、まだこの辺りにもたくさんの木が生えていた頃、

 

リスがいっぱいいたそうです。

 

 

 

姿を消していくそんな生き物たちの棲みかを、少しでも残しておこうと植えたところ

 

リスではなくネズミがどどーっと増えてしまったとか。

 

( それを知らずに住みついた私は・・・。) ~ ~ ; 

 

 

かといって木を切るのはもちろんかわいそうです。

 

夏場風通しを良くするため、ほったらかし状態にしておいた床下の隙間を、

 

冬の始まりを前にしっかり塞いでしまうこと。それがこの家で欠かせない

 

静かな冬を迎えるための必須行事です。

 

 

 

早速今日、その作業を行いました。

 

 

基礎が入っていない、いわゆる地杭(じぐい)造りの家なので、

 

氷点下数十度の日がどこまでも続く真冬になると、

 

地中の水分が凍って地面が膨張するため、

 

ぴっちりと板を打ち付けてしまうと、却って板が持ち上げられて、

 

割れたり壊れたりしてしまいます。

 

なので、石や杭などで押さえるようにして固定しておきます。

 

 

わずかですが、どうしても隙間が出来る所には、

 

その内側に粘着式のネズミ捕りを仕掛けて置きました。

 

 

これでネズミと、そして冬の隙間風の進入を防ぐが出来ます。^^

 

 

床下の周りには、ネズミが集めた大量のクルミの山が何ケ所と

 

掘りかけの穴がありました。

 

ヒェ~ッ、こんな大量のご馳走を床下に持ち込まれたりなんかしたら大変です。

 

アブナイ アブナイ。

 

もう少しで冬じゅうネズミに居座られるところでした。^^;

 

 

あとは定期的に冬の間、家周りを見て歩き、隙間チェックをするだけです。

 

この地での冬を越す準備が、またひとつ完了しました。^^

 

薪作り。

私の家では、夏も冬も一年中、ずっと薪ストーブと薪風呂を焚いています。

 

特に冬場はたくさん薪を使うため、夏のうちから用意しておかなくてはなりません。

 

 

ですが、暑さの苦手な私は、いつも秋になってから薪作りを始めています。

 

 

 

北海道の秋は短くて、冬はすぐにやってきます。

 

のん気な性格の私は、冬に入ったいつも今ころ、

 

慌てて薪作りに汗を流しているのでした。

 

 

薪木にする原木は、家から少し行ったところにある川原から運んだ流木や、

 

家の周りにある枯れ木や落ちた枝などです。

 

 

川の流れる音を聞きながら、涼しい風に吹かれつつ、ノコギリを引くたびに

 

パラパラと落ちるノコ屑の良い木の香り・・・。

 

 

短く切った流木を手押しの一輪車に乗せて、それを押して家まで運ぶのは

 

本当にいい運動になり気分爽快です。

 

 

そして薪割り。

 

 

川原で切って来た細い丸太状の木を台の上に立て、

 

斧でパカッ パシッ と一本一本割っていきます。

 

 

瞬く間に体がぽかぽかしてきます。冬の冷たい北風が

 

とてもひんやりおいしくて、もう最高の気分ですっ。^^

 

 

 

すっかりリズムに乗って(笑)、どんどんどんどん薪を作っていきました。

 

外で飼っているうちのネコたちが、「楽しそうだニャ~」とばかりに

 

周りに集まって来ました。

 

 

その時、パシッと勢いよく割れた薪木がポ~ンと飛んで行き、

 

横で見ていた一匹のネコのオデコにポコ~ンと当ってしまいました。

 

 

そして、なんとそのネコは、コロンとそのまま

 

ひっくり返ってしまったのでしたっ。

 

 

だっ、大丈夫ーーっ!!?

 

 

さいわいネコはすぐに起き上がり、元気いっぱい私のそばから

 

逃げて行きました。(苦笑) ^^;

 

きっと軽い脳震盪でも起こしたのでしょうね。

 

 

 

その後、今まで以上に元気ハツラツなそのネコには、

 

名前を今までのただの「トラ」から、→ 「コロンちゃん」 → 

 

→「オーデコロン」 → そして「オデコ」に相成りましたっ。^^

 

 

 

オデコをはじめ、うちにいるネコたちは、いつの間にか居ついていた者ばかりです。

 

捨て猫なのか、それとも風の吹くまま気の向くまま、どこからともなくやって来た

 

流れモノ(笑)なのか定かではありませんが、またどこかへふらりと行く者、

 

やって来る者・・・。

 

 

 

そんな仲間たちが暮らす、家の隣りにある小屋の中へ薪を仕舞い込み、

 

さぁ、またひとつ冬を越す準備が完了ですっ。^^

 

 

 

夜、何だか暖かいなぁ、と思ったら、雪が降ってきました。

 

今シーズン初めての雪・・・。積もるのかなぁ・・・。


       photo32.jpg

カエル君たち 冬眠っ。

私が暮らしている地域は上水道が通っていないので、

 

どこも地下水を汲み上げて使っています。

 

中でも私のところは昔ながらの手漕ぎポンプ、いわゆるガチャポンプ

 

と呼ばれるもので毎日水汲みをしています。

 

 

 

家の向かいに建っている古いボロ小屋の地下に深さ1.5メートル、

 

広さ面積1平方メートルほどの小さな室(むろ)があり、

 

その中にガチャポンプはあります。

 

 

 

その井戸の中でバケツやポリ容器に水を汲み、そして家まで運ばなければならないので

 

結構な重労働です。

 

 

 

冬の間、寒さでポンプが凍りつかないようにと、昔、あえて地下に作られた井戸だそうです。

 

 

 

板張りで土止めされて作られているその室の中も、節穴や割れ目などといった隙間が

 

あちこちに有って、夏場は土の中に巣を作るアナバチ(穴蜂)が、小さな虫を持って

 

その隙間を出たり入ったりしていました。

 

 

 

また水汲み中、追いかけっこをしていたネコが中に飛び込んできたこともありましたし、

 

スズメバチが乱入してきて、大慌てで逃げ出したこともあります。

 

 

クモやアリ、アブやカナブン、チョウやテントウムシ・・・、いろいろな生き物が

 

中へ遊びに来る中で、一番ワガモノ顔で居ついていたのは、カエルちゃんですっ。^^

 

 

 

辺りは広い畑ばかりです。水のある場所といえば、ここからかなり離れたところを流れている

 

小さな川だけです。いったいカエルさんの足で、どこからどうやって

 

こんな所までやって来るのでしょう。

 

 

 

ここに水があるぞ、とわかっていなければ出来ないような

 

まさに命がけの冒険だと思うのですが。フシギです。

 

 

 

そしていつの間にか井戸の中に住み着いて居たカエルちゃんは、

 

水を汲んでいると決まって靴の上に上ってきます。

 

そしてのん気にノドをプクプク膨らませているのでした。^^

 

 

 

カエルさんの数も年々増えていき、最盛期には20匹以上いました。

 

夏の暑い時には井戸の中が日陰になっているからか、

 

蚊やクモなど色々な虫が入ってくるのでエサには事欠かない様子です。

 

井戸の中にいれば、天敵にも狙われないし、最高の環境なのでしょうね。

 

 

 

気温が上がってきた時などは、水をかけて貰いたいのか、ポンプの排水口の下で

 

勢ぞろいして待っているほどです。^^;

 

 

下をよくよく見ずにうっかりバケツなどをその上に置いてしまうと、「ムギュっ」と鳴いて

 

退散していきます。でもまたすぐにピョコピョコ跳んで集まってくるのでした。^^

 

 

 

ですから井戸の中に降りるのも注意が必要です。何せハシゴの上にまで

 

登ってきて、擬態までしちゃったりするのですから。^^;

 

 

ちっちゃいのや大きいのがいろいろいて、

 

 

みんなで仲良く井戸の中を跳ね回ったりしています。

 

 

 

長雨が続いた時などには、どこからともなく浸み込んでくる水で、

 

井戸の中が半分ほどの高さまで浸水することがあります。

 

 

そんな時は、中に置いてある板切れにちゃんと乗ってみんな浮かんでいるのでした。

 

その姿がとてもかわいいんですっ。^^

 

 

 

時には誰もいないはずの井戸の中でバシャバシャ音がしていて、見ると

 

ポンプの中の水が溜まっているその中で、カエルちゃんが泳ぎ回っていた

 

こともあったのでした。^^

 

 

 

ひょっとすると、カエルたちは井戸の中へ入ってくるのではなくて、

 

飛び回っているうちにみんな落ちてしまったのでは、と思い、

 

一匹一匹捕まえては外に出してあげたりしました。

 

 

でも、水を汲みながら観察していると、どうも狙いをつけて井戸に飛び込んで

 

来ている感じです。

 

 

 

カエルちゃんが登りやすそうな段々を付けたハシゴも立てて置きました。

 

出入りする時はこれを使ってね。私に飛び蹴りして落ちて来ないでね。^^;

 

 

 

そんなにぎやかで楽しいカエル君たちも、夏が終わり秋も過ぎ、

 

冬が始まり始めた今、井戸の中の隙間の中から出てくる数もまばらとなりました。

 

 

 

そして今日、寒さが本格的になってきた午後、水汲みをしていた私に、

 

まるで最後の挨拶でもするかのように、大きめのカエルさんが一匹、

 

私の方にしばらく向いたままじっとこちらを見つめていましたが、

 

やがてゆっくりと床板の隙間の中に入っていきました。

 

 

きっとこれから冬眠に入るのですね。

 

 

いいなぁ、ゆっくりお寝んね。^^ 私は冬の間もずっと水汲みです。

 

 

お休みなさい、カエルさん。

 

 

来年の春、また会おうねっ、みんなっ。

そよかぜ
作家:そよかぜ
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