奇妙な家族

 さやかも遺伝子操作をされて誕生した人間だった。さやかの場合、言語能力に秀でた人間を目的として、遺伝子を操作され生産されたが、予想外の欠陥が生じていた。つまり、たとえ、卵子と精子とが合体できたとしても、受精卵にならないという奇妙な卵子を作り出す卵巣を保有する人間として、さやかは出来上がった。このような例は多く、今のところ、何らかの欠陥を保有する遺伝子操作された人間が数多く生産されている。

 

 さやかは、スタッフに5歳という年齢を教えられ、孤児院の前に立たされたが、その年齢も本当の年齢かどうかは、はっきりしない。この年齢が本当であれば、さやかは30歳ということになるが、見かけは、JKに見える。背は低く、童顔なため、セーラー服を着せても誰も疑わないほどの、少女っぽさを持っている。ドクターと出会ったさやかとアンナは、彼のモルモットとして9年にわたる共同生活を送っている。

 

 さやかの趣味は、ゲームと推理で、男性にはあまり興味がない。拓也を一時的に好きになったが、自ら身を引いて拓也をアンナに譲った。二人は、お互いに共同生活を望んでおり、死ぬまで愛人関係を続けることにしている。さやかは、時々ウツになる精神病を持っているが、特に問題なのは、知能殺人犯になってしまうことだ。すでに、天誅と称して数人の政治犯を暗殺している。それらは、さやかの高度な知能を使った完全犯罪だ。

 さやかは、これからも暗殺を計画しているが、アンナには極秘でドクター、ルーシー、桂会長、とともに実行することにしている。アンナに子供が生まれたならば、暗殺に反対するに違いないと考えたからだ。さやかは、宇宙というエネルギー現象を理解しており、人間の共食い行為は、宇宙現象と考えている。したがって、さやかは、自分の暗殺は共食いのひとつで、宇宙の法則からすれば、正当なものと考えている。

 

 さやかの暗殺は、戦争という共食いを肯定した上での行為で、決して個人的な恨みとか発狂によるものではない。だから、一般人を突然殺すというようなことは、決してない。さやかは、子供が大好きで、孤児院では多くの子供たちの面倒を見ていた。精神病院の看護師になってからも、虐待された多くの子供たちの心をケアしてきた。ボクは、そういうさやかに会える日を楽しみにしている。

 

 アンナは、母親,美紗子が病死した後、8歳で孤児院にやって来たが、アンナの父親は、誰なのか、はっきりしない。さやかは、桂会長が実の父親と確信しているが、実証するものはまったくない。アンナは、母親から父親のことをまったく聞かされていない。ほんの少し記憶に残っていることは、母親は、20歳のころストリッパーをやっているときに知り合った、ある若い青年画家のヌードモデルとなり、その男性としばらく付き合ったということだけだ。

 母親、美紗子は、未婚の母としてアンナを懸命に育てた。決して、未婚の母であることを後ろめたく思っていなかった。むしろ、愛する青年画家の子供を、産み、育てることに誇りさえ持っていた。また、青年画家が美紗子の妊娠を知らずフランスに勉強に行きたいと打ち明けたときも、笑顔で承諾し、さわやかに見送った。子供のころ、アンナは、母親を捨てた父親を憎んでいたが、今では憎しみは和らいでいる。愛する拓也の子共を身ごもってからは、美紗子の気持がほんの少し分かるようになった。

 

 この青年画家のことを知るものは、誰もいないが、さやかは、桂会長の表情から発せられる情報から、美紗子が愛した青年画家は、桂会長と推測した。桂会長も、アンナが実の子共という確証はないが、アンナの顔を見つめていると、自然に美紗子の顔に変わっていくという不思議な体験から、アンナは、実の子だと思い込むようになった。桂会長は、留学先のフランスで画才がないことに気づき、その後、各地を放浪しているうち、マフィアの一味になった。マフィアでは、ひらめきに秀でた彼は、ボスに気に入られ、幹部にのし上がった。今では、武器製造販売をする戦争ビジネスのドンにまでのしあがった。

 

 ボクは、戦争ビジネスのドンとやらに会いたいが、アンナは、きっと反対すると思う。アンナは、軍国主義が大嫌いで、亜紀が軍人になることを反対しているように、ボクが軍事にかかわる仕事に就くことにも反対するに違いない。ボクの夢は、ロボットを開発するエンジニアだが、ロボットが兵器として利用されている現在、アンナは、快くその仕事に就くことに賛成してくれないように思える。

 我が家には、テキサスからやって来た金髪の居候がいる。バーバラという糸島中学の英語の教師だが、彼女は、とんでもない淫乱女性だ。イケメンを見ると興奮し、たとえ彼に彼女がいても言葉巧みにホテルに誘うほどの危険な女性だ。すでに、秋元校長は、陥落させられた。今狙っているのは、3年エリートクラス担任の稲垣先生だ。陥落させられるのは、時間の問題だ。今付き合っている黒人男性は、単なるセックスフレンドでしかない。

 

 バーバラ先生は日本人だが、小学校からテキサスに住んでいたため、日本の風習にまったく馴染めない。校長は、できれば一刻も早く、糸島中学を出て行って欲しいと願っているが、彼女は、かつて外務大臣をしていた大物政治家の孫で、追放しようとでもしたならば、それこそ校長をクビになりかねない。“君子危うきに近寄らず”と校長と教頭は、腫れ物を触るように彼女と接している。

 

 校長は、バーバラ先生との肉体関係を篠田教頭には内緒にしているが、教頭は、当に見抜いている。校長は、バーバラ先生のはりのある若肌におぼれ、もはや、彼女の奴隷になってしまった。だが、教頭は、バーバラ先生を選挙に利用するため、あえて、二人の関係を知らないそぶりをしている。教頭の願いは、一刻も早く校長の子供を妊娠し、そして、即座に学校を退職し、出産後は、衆議院議員選挙の準備に入りたいと思っている。

春日信彦
作家:春日信彦
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