奇妙な家族

 母親、美紗子は、未婚の母としてアンナを懸命に育てた。決して、未婚の母であることを後ろめたく思っていなかった。むしろ、愛する青年画家の子供を、産み、育てることに誇りさえ持っていた。また、青年画家が美紗子の妊娠を知らずフランスに勉強に行きたいと打ち明けたときも、笑顔で承諾し、さわやかに見送った。子供のころ、アンナは、母親を捨てた父親を憎んでいたが、今では憎しみは和らいでいる。愛する拓也の子共を身ごもってからは、美紗子の気持がほんの少し分かるようになった。

 

 この青年画家のことを知るものは、誰もいないが、さやかは、桂会長の表情から発せられる情報から、美紗子が愛した青年画家は、桂会長と推測した。桂会長も、アンナが実の子共という確証はないが、アンナの顔を見つめていると、自然に美紗子の顔に変わっていくという不思議な体験から、アンナは、実の子だと思い込むようになった。桂会長は、留学先のフランスで画才がないことに気づき、その後、各地を放浪しているうち、マフィアの一味になった。マフィアでは、ひらめきに秀でた彼は、ボスに気に入られ、幹部にのし上がった。今では、武器製造販売をする戦争ビジネスのドンにまでのしあがった。

 

 ボクは、戦争ビジネスのドンとやらに会いたいが、アンナは、きっと反対すると思う。アンナは、軍国主義が大嫌いで、亜紀が軍人になることを反対しているように、ボクが軍事にかかわる仕事に就くことにも反対するに違いない。ボクの夢は、ロボットを開発するエンジニアだが、ロボットが兵器として利用されている現在、アンナは、快くその仕事に就くことに賛成してくれないように思える。

 我が家には、テキサスからやって来た金髪の居候がいる。バーバラという糸島中学の英語の教師だが、彼女は、とんでもない淫乱女性だ。イケメンを見ると興奮し、たとえ彼に彼女がいても言葉巧みにホテルに誘うほどの危険な女性だ。すでに、秋元校長は、陥落させられた。今狙っているのは、3年エリートクラス担任の稲垣先生だ。陥落させられるのは、時間の問題だ。今付き合っている黒人男性は、単なるセックスフレンドでしかない。

 

 バーバラ先生は日本人だが、小学校からテキサスに住んでいたため、日本の風習にまったく馴染めない。校長は、できれば一刻も早く、糸島中学を出て行って欲しいと願っているが、彼女は、かつて外務大臣をしていた大物政治家の孫で、追放しようとでもしたならば、それこそ校長をクビになりかねない。“君子危うきに近寄らず”と校長と教頭は、腫れ物を触るように彼女と接している。

 

 校長は、バーバラ先生との肉体関係を篠田教頭には内緒にしているが、教頭は、当に見抜いている。校長は、バーバラ先生のはりのある若肌におぼれ、もはや、彼女の奴隷になってしまった。だが、教頭は、バーバラ先生を選挙に利用するため、あえて、二人の関係を知らないそぶりをしている。教頭の願いは、一刻も早く校長の子供を妊娠し、そして、即座に学校を退職し、出産後は、衆議院議員選挙の準備に入りたいと思っている。

 バーバラ先生は、最近外泊が増えている。これは、校長のマンションで一夜を過ごしているのと、黒人の彼氏とラブホで夜を楽しんでいるからだ。外泊が多いバーバラ先生のことをさやかとアンナは、心配しているが、あまりにも生活習慣が違うため、どのように話を持っていけばいいか悩んでいる。単刀直入に、どこで外泊しているか聞くのも、気まずいようで、今のところそっと見守っている。

 

 バーバラ先生はペットが好きで、亜紀がシェルティのスパイダーを紹介したとき、抱きしめて喜んだ。テキサスにいるときは、犬、猫、ヘビ、をペットに飼っていた。ちょうど、猫でも飼いたいと思っていた矢先で、ペットを飼うことをアンナにお願いしようと考えていたところだった。亜紀は、バーバラ先生がペット好きであることを知って、安心した。バーバラ先生は、英語でスパイダーに話しかけるため、最近では、スパイダーが英語を話すようになってきた。

 

 あ、そう、つい最近、ピースという上品なキジ猫が、居候することになった。ママは、あまり気がすすまなかったが、亜紀とさやかのお願いに根負けしたみたいで、どこからやって来たか分からないキジ猫を飼うことをしぶしぶ承諾した。ピースは、とても賢く、バイリンガルでスパイダーのいい友達になってくれると思う。スパイダーは、正義感が強いが、ちょっとおっちょこちょいだから、ピースお姉さんの指導を受けるといいと思う。 

ママ、さやか、亜紀、バーバラ、スパイダー、ピース、たちの顔を早く見たい。ボクは、ママそっくりで、女の子みたいだから、みんな、ボクを見てびっくりすると思う。羊水の中は、宇宙遊泳しているみたいで、とっても居心地がいいけど、早く、手足をバタバタできる地上で遊びたい。ア!ボクを何かが強く押している。これが、陣痛ってやつだな。ママが、なにやら、叫んでいる。ママ、今行くからね~!

 

春日信彦
作家:春日信彦
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