パンチラ闘争

 小嶋先生、お分かりになりましたか。アイドル活動は一部の生徒にかかわる問題ではないのです。学校全体の風紀を乱しているのです。ここ数年、糸島中学の偏差値は低下しています。この原因はアイドル活動にあると断言できるのです。ですから、即刻、3名に活動をやめるように指導してください」教頭の口調はまさに検事であった。小嶋先生は被告人のようにうなだれていた。

 

小嶋先生の正面に座っていた東国原先生は両手に拳骨を作り突然立ち上がった。「確かに、教頭先生のおっしゃることはごもっともです。そこで、男の気持ちということで、少し意見を述べさせてください。今おっしゃられた、パンチラは悪ということですが、パンチラは本当に学力低下の原因でしょうか?男の僕としては関係ないように思えます。パンチラは男のロマンだと思います」言い終わるとすぐに腰を下ろした。

 

東国原先生は小嶋先生に片想いをしていた。ここで小嶋先生に助け舟を出せば、一気に小嶋先生の気持ちを引きつけることができると思い発言した。小嶋先生はうつむいていた顔を上げ、ほんの少し笑顔を見せた。教頭は左手の中指で金縁の眼鏡の端をほんの少し持ち上げると、眼を吊り上げ、机を右手の拳骨で勢いよく「ドン」と叩いた。一瞬、全職員は背筋を伸ばした。

 

「パンチラは男のロマンですか。聞くところでは、他校の男子生徒とパンチラの写メのやり取りをしたり、YOU TUBEに掲載したり、こんなことが男のロマンですか!このことは教育委員会でも問題になっているのですよ。ご存知でしたか?」教頭の顔は真っ赤になっていた。小嶋先生はまたもやうつむいてしまった。「それは、寝耳に水です。初めて聞きました。指導不足で申し訳ありません」東国原先生もうつむいてしまった。教頭は勝利の笑みを浮かべると会議を終えた。

 

パンチラ闘争

 

職員会議が終わると、小嶋先生は大島、横山、八神たちが首を長くして待っている音楽教室へと駆けて行った。音楽教室では大島がピアノを弾きながら、「真夏のSounds good!」を歌い、横山と八神は踊りながら歌っていた。小嶋先生が部屋に飛び込むと三人の声は止まった。三人は小嶋先生に駆け寄り、先生の手をとると、急いでピアノの席に着かせた。大島が眼を丸くして尋ねた。

 

「先生、どうでしたか?」大島は小嶋先生の発言に期待していた。小嶋先生は眉を下げ、肩を落として「残念だけど、完全に解散するように命令されたわ。先生、勇気を出して、活動をお願いしたんだけどダメだったわ。みんなの気持ちもしっかり伝えたのよ。でも、ダメだったの。ごめんなさい」小嶋先生は三人の目を順次見つめたが、次第に、横山と八神はうつむいてしまった。大島は右手を握り締め、しばらく鍵盤を見つめていた。

 

「先生、なぜ、教頭はアイドル活動をそんなに嫌っているの。みんな成績はよくないけど、受験に向け一生懸命頑張ると決意したのよ。勉強頑張るから、三人で教頭にお願いに行くわ、いいでしょ」大島は涙しながら小嶋先生に訴えた。小嶋先生は会議での話を詳しくすることにした。「まって、活動禁止の理由は他にもあるのよ。それはパンチラなの。ITC48を男子生徒が応援するのはパンチラが目的で、このパンチラが学力低下の原因だというのよ。だから、どうすることもできなかったの」

 

「え!パンチラ、こんなのいまどき普通じゃない。教頭は横暴よ、パンチラのどこが悪いのよ」大島は大声を張り上げていた。「先生も、同感よ。パンチラが学力低下の原因なんてありえないと思うの。東国原先生も関係ないと言ってくれたの。嬉しかったわ。でも、現実に、男子生徒の偏差値は低いし、パンチラが教育委員会で問題になっているとまで言われると、先生、反論できなかったのよ。だから、本当の理由は男子生徒にあるの、悔しいけれど」小嶋先生は大島の悔しがっている顔をじっと見つめた。

 

大島はしばらく黙っていた。突然、眼を輝かせると明るい声で先生に言った。「分かりました。いま、グループは完全に解散します。先生、このことを教頭に伝えてください。横山、八神いいね、解散よ!」大島は笑顔を見せた。小嶋先生は笑顔を見せたが、「いいのね、本当に納得して、解散してくれるのね」小嶋先生は三人の気持ちを確かめた。「先生、心配しないで、もし、三人が勝手に活動を続ければ、先生はきっと追放されちゃうよ。教頭の思う壺じゃない。名案がひらめいたの!」大島は両脇に立っている横山と八神の肩をポンと叩いた。

大島は二人に作戦の話をすることにした。大島の部屋に集まった三人は作戦会議に入った。「横山、八神、よく聞いてよ。女神が私たちを救うために、ありがたい啓示を下さったの。それはね、男子生徒のパンチラ禁止反対デモ!デモをやらせるのよ、男子生徒に!男子生徒の要求だったら、グループと小嶋先生は関係ないじゃない。小嶋先生は安泰ってわけ!名案でしょ~」大島はドヤ顔で二人を見つめた。

 

二人は顔を見合わせ頷いたが、横山が怪訝そうに話した。「デモなんて、男子生徒がやるかな~、無理じゃない」八神も「やらないと思う」とぼそりと言った。「二人とも、何、弱気なこと言ってるのよ。話を聞いて、デモのリーダー三人は決まっているの。野球部の菊池、サッカー部の佐藤、バスケ部の松島、この三人をリーダー格にして、デモ隊を結成させるの。三人にデモに参加する生徒を集めさせるってわけ」大島は二人のキョトンとした顔を見つめていた。

 

「え!三人がデモのリーダーになるって言ったの?」八神は信じられない顔をして叫んだ。大島は笑顔を作ると「それがね~、今からお願いするのよ。二人にも協力してもらわないとね」大島は両手を合わせた。「お願いしても、無理だと思うけど」横山は顔をゆがめた。「きっと、うまくいくって!八神は松島に、横山は佐藤にお願いしてほしいの。菊池は私ね。来週の日曜日、八神の焼肉飯店で三人を招待して焼肉パーティーをやるのよ。話は私がつけるから、協力して」大島はまた、両手を合わせた。

春日信彦
作家:春日信彦
パンチラ闘争
0
  • 0円
  • ダウンロード

15 / 24

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント