再婚

「自殺はしないと思うけど、亜紀を育てる自身がないと嘆いているのよ。再婚したくてもできなくなったし、さやかにも責任があるんじゃないかと怒っているのよ。拓也はパニックって錯乱しているみたいね。当然といえば当然なんだけど。拓也には気の毒だったけど、これはさやかの策略だったの。例の彼女と別れさせるための!」さやかはドヤ顔でアンナを見つめた。

 

 「え!例の彼女と・・・、亜紀がいたんでは結婚する気がしないわね。さやかもかなり性悪女ね!再婚できなくなったって、彼女との再婚のことね」アンナは大きく頷いた。「でも、拓也にとって決して悪いことじゃないのよ。いつまでも昔の彼女に未練を持っても、拓也はバカを見ることになるのよ。きっと、例の彼女は結婚する気は毛頭無かったと思うの。だから、亜紀を養子にしたことをきっかけに結婚を断ったのよ。思うに、彼女も悪女よ。さやかは拓也を救ってあげたのよ。アンナ、分かるでしょ」さやかは弁解がましかったが、アンナには分かってほしかった。

 

 「そういわれれば、拓也は不毛の片思いをしていたわけよね。そこで、さやかが拓也の眼を醒ましてあげたということね。納得!だけど、いったい、アンナはどんなプレゼントをもらえるの?」アンナはさやかの顔をまじまじと見つめた。「もう分かったでしょ、拓也は例の彼女と再婚できなくなったのよ。だったら、後は誰と再婚するか?決まっているじゃない」さやかはアンナの顔を指差した。

 アンナは自分の人差し指で自分の顔を指差すと「え!アンナ!アンナが拓也と結婚するの!本当にできるのね、本当に、さやか」アンナはジャンプするように立ち上がった。「きっとできるわ。拓也は絶対再婚したいのよ。一人で亜紀を育てることに、もはや耐えられないのよ。今がチャンス!今夜、決行するわよ」さやかはアンナのお尻をパチンと叩いた。天にも昇る思いのアンナはゆっくり腰かけると、さやかを抱きしめた。「やっと、夢がかなうのね、拓也のお嫁さんになれるのね、亜紀のお母さんになるのね」アンナは青空を眺めながら両手を組んで神に祈った。

 

 「アンナ、何、浮かれているのよ、これからが本番じゃない。今夜のために今から作戦を練るのよ。2月22日、今日は拓也の誕生日なのよ。夕食は亜紀が大好物のPIZZA COOCのピザにしよう。アンナは思いっきり亜紀のお母さんになりきって亜紀と拓也の世話をやくの。亜紀はアンナのことを気に入っているし、きっと亜紀も喜ぶわ。話題はAKB、SKE、みんな誰押しか言い合うの。アンナは麻里子様、さやかは優子、亜紀はくーみん、だったわね。拓也は誰押しだろうね?とにかく、今夜はわいわい騒ぐのよ」さやかは今度こそ拓也を攻略できると自信に満ちていた。

 

 次に最も重要な段取りを話しはじめた。「アンナ、今夜が勝負よ。アンナ、亜紀、さやかは川の字になって一階で寝るの。拓也は二階ね。亜紀がぐっすり眠りについたら、アンナはそっと抜け出して二階に上がるの。そして、拓也の布団の中にもぐりこみ、耳元でささやくの。亜紀のお母さんになりたい!これが決め台詞よ。今度はきっと気持ちが動くわ。拓也は藁をもつかむ思いなのよ、亜紀のために再婚したいのよ。分かった!」さやかは演技の指導をした。

アンナは握りこぶしを作り大きく頷いた。さやかはガッツポーズを作るとスッと立ち上がった。バッグから携帯を取り出すと、グランママに注文をしていた誕生日ケーキとシュークリームを引き取りにいくために亜細亜タクシーに電話した。二人がケーキを抱えて拓也宅に到着したのは4時半を過ぎていた。

 

災いを転じて福となす

 

アンナが玄関のインターホンを鳴らすと亜紀がドアを開けた。「こんにちは、また、お邪魔しますぅ~」アンナはいつものおどけた挨拶をした。「いらっしゃい、オネ~チャマチャマ」亜紀も笑顔で応えた。拓也がリビングから跳んでやってきた。笑顔を見せると「さあ、どうぞ、どうぞ」拓也は落ち込んでいるところを見せたくないのか、特に今日は陽気に振舞った。「亜紀ちゃん、今日はパパの誕生日ね、ケーキ買ってきたよ。パパをからかって、みんなでワイワイ騒いじゃおうね」アンナもいつも以上に子供のように陽気に振舞った。

 

アンナはミッキーの包装紙で包まれたボックスをそっとテーブルに置いた。グリーンのリボンをほどき、包装紙を開くと両手で箱のふたを開けた。すると拓也が大好物のチョコレートケーキが現れた。拓也と亜紀を席に着かせ、アンナとさやかは三人分のワイングラスと亜紀のグラスを用意した。アンナは3つのワイングラスにシャトー・クリネの赤ワインを注ぎ、亜紀のグラスにオレンジジュースを注いだ。ケーキに7本のローソクを立て、火をともした。部屋のライトを消すと炎の明かりでみんなの顔が輝き始めた。

 

Happy Birthday Takuya~歌声の後に続いて、拓也はニコッとすると口を尖らせ勢いよく7本のローソクの炎を消した。三人が拍手すると「ありがとう、年はとっても気持ちは27歳ですぅ。ワハハ~~」拓也は隣に座っている亜紀を見つめ大げさに笑った。アンナがAKBの話を切り出し、アンナは誰押しか拓也に尋ねた。拓也は恥ずかしそうに「ゆいはん、で~す」と元気よく叫んだ。さやかが部屋のライトをつけるとアンナはケーキをカットし、それぞれの取り皿にケーキを運んだ。

 

「アンナオネ~チャン、まりこは前原出身で、糸島高校の卒業って、知ってた?糸島高校って、すぐそこにあるんだよ」亜紀はAKBのメンバーについていろんなことを調べていた。「へ~、知らなかったわ、亜紀は物知りじゃない、一度、糸島高校ってところに見学に行ってみようかな。アンナは中卒なの。でもね、秋から、中洲女学院大学に通うことになったのよ。美人偏差値67が評価されて、芸能学部俳優科に特待生で合格したの」アンナは初めて亜紀に自慢話をした。

 

明日、拓也は休みだが、亜紀は幼稚園のため、食事を終えると全員9時に就寝した。拓也は二階、アンナ、亜紀、さやかは一階に寝床を取った。亜紀が幼稚園に行った後、さやかは例の名案を拓也に教えることにしていた。拓也はアンナとさやかたちと久しぶりにバカ騒ぎできたことで少しは気が晴れた。今までの子育てをいろいろしゃべったことで、今まで鬱積していたストレスがほんの少し解消した。

春日信彦
作家:春日信彦
再婚
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