もうひとつの夏の日

Ⅲ( 1 / 1 )


-3-


 日差しが少し西に傾いたせいで、窓が向かいのビルの影に入り、ちょうどいい具合の明るさになった席で、洋子は目覚めた。目の前のテーブルには、少しだけコーヒーの残ったカップと伏せられた文庫本から挿んである栞が見えた。

 洋子は、完全に冷めてしまったコーヒーを飲み干し、バックを肩に掛け、席を離れた。ビル・エヴァンスが流れている。

 「愚かなりし我が心、か。」

 そっと呟いて、ひとりでに苦笑していた。

 少しはにかんだ笑顔を店のマスターに向けて、洋子はすっとドアを引いて外へ出た。店のドアは、洋子が帰っていくのを惜しむかのように、静かにトンと音を立てて閉じた。


 カランとドアのカウベルが鳴った。


しあき いさと
もうひとつの夏の日
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