暑い夏の日の午後だった。
そろそろ8月も終わろうとしているのに一向に和らぐようなことはなく、とても残暑とは言い難い強さで、今日もまた日差しが降り注いでいる。それでも風は僅かに爽やかさを含み、ほんの少しではあるが秋の匂いを運び始めている。
「ここ」へ来るまで加茂川沿いの木陰を歩いていると、日向とは対照的に木々の梢を渡る風は、汗の滲んだ肌から水分を蒸発させるのには十分だった。
「ここ」は、京都に住み始めた頃に見つけた喫茶店で、今時には珍しいくらい「喫茶店」という言葉が当てはまる店だった。開店した当時は、それなりに流行りのものだったに違いない外装は、とうの昔に廃れてしまい、今では目にすることも無い、一つ間違えれば古風という人もいるのではないかと思うほど、当時のままの状態を維持し続けている。ある意味、一つのポリシーを感じさせ、それが気に入った大きな理由だった。
店に入り、窓際の二人掛けの席に座った彼女は、木崎洋子。北陸では大都市の部類に入る街の外れから大学に通うために京都に上京してきた。その年頃の女性にありがちな憧れを彼女も同様に持ち、京都という言葉の響きに心を動かされて、この地の女子大を目指して見事に希望が叶った。両親は上京していく娘をしいて止めることはしなかったが、内心では手元に置いておきたかったことを地元で働いている兄から聞いたのは、つい最近のことだった。
大学も順当に卒業し、故郷へ帰ってくるであろうと期待していた両親の心情を裏切って、今の就職難の中、京都でそのまま仕事にありつけた幸運もあり、この憧れの地を離れずに済んだ。そうして田舎から出てきた当時の「憧れの地」は、今では「住み慣れた街」になって、洋子の中では大きな位置を占め、生来の面倒くさがりの性格も伴い、彼女にとってはこの上無い流れになっていた。
洋子は、そんな時から10年近くこの店には出入りしているので、当然のように店のマスターとも仲良くなり、店に来ると彼女の好きな曲を聞かせてくれた。元々無類のジャズファンのマスターではあるが、特に自分の嗜好を押し付けることなく洋子の好きな曲、今はビル・エヴァンスのピアノが流れている。
洋子の年齢では、ほぼ考えられない趣味のはずだが、学生時代に付き合っていた男がお洒落な店で食事をした時に、知ったかぶりの情報を駆使して小一時間は能書きをタレたので、折角の美味しい料理が台無しになったことがあった。その話の内容には非常に興味を持ったが、結局ビル・エヴァンスの名前を知る以外には価値の無い話だった。そして、その時は、いつか落ち着いてゆっくり聴こうと思い、今では洋子の心に染みる音楽の一つとなった。
この店に来て、たまには仕事のためにノートパソコンを開き、プレゼンの資料を作ったりもするが、ここは美味しいコーヒーと読書のための空間だった。窓際の席は適度に明るく本を読むには最適で、座り心地を楽しめる椅子もお気に入りだった。
本のページをめくり、カップに手を伸ばす。口元に近づけるに伴って、その香りが嗅覚を刺激し脳にパルスの伝わる様子が分かるような感覚になる。口に含むと、味覚が心を鎮める。大袈裟だが、この時のために生きているような気がして少し淋しい気もするが、洋子にとって至福の時であることには違いなかった。少し顔を上げて店内に目を遣る。この店でよく遇う学生っぽい男性が奥に座っている。いつもはカウンターに居ることが多い常連客の一人だが、今日は少し雰囲気が違って見えた。視線が合って、どちらからでもなく、ふと逸らし、再び本に目を落とした。
洋子は、少し前に古くからの友人の結婚式に招待されたことがあった。高校生時代の知り合いで、彼女で結婚したのは二人目だった。この歳になればそう珍しいことではないのだが、洋子にとっては、結婚話を聞く度に何か違和感が心の底から湧いてきた。結婚というもの、そのものが彼女の中ではしっくりと馴染んでこないものだった。結婚できない者の負け惜しみと取られるのは悔しいが、それは仕方の無いことだった。
一緒に住んで、生活をして、子供を育てて。そんなことは結婚という事実が無くても何の問題も無く進むことで、それをあえて、二人ともに首輪を掛けて逃げられないようにしてしまうことに、どうしてそこまで力を注ぐことができるのか、彼女には理解できなかった。このような考え方なので、結婚式なんていうものは、持っての他だった。あの儀式だけは、どうしても納得のいかないものだった。こんなことだから周りからは、
「クールですね。」
とよく言われるが、それは
「冷たいヤツ。」
ということの裏返しであることに彼女も気付いてはいた。
折りしも、洋子はまた招待状を受け取った。持ってきたショルダーバックの中から取り出し、封筒からそれを出した。式場は京都からは少し離れた街のホテルだった。結構有名なホテルで、それなりに中の上以上というところかと思いながら、元に戻した。洋子にとっての問題は、同封されていた便せんに書かれた短い文章だった。
「友人代表の挨拶をお願いします。」
彼女とは親友の仲で、交換日記や手紙のやり取りをしていた。それで彼女の書く文字のクセで、その文章は彼女自身が書いたものだと直ぐに分かった。高校を卒業し、京都に出てきてからも彼女との交友は続いており、洋子が実家に帰るようなことがあれば必ず会っていたし、彼女が京都に遊びに出てくることもあった。
「結婚というものに、どんな考え方をしているか、知っているくせに。」
と少々疎ましく思ったが、親友の申し出を断るほど非常識でもなかった。ただ、結婚というもの自体に否定的な洋子がお祝いの言葉を述べることに、そのスピーチの雰囲気に、少なからず嫌な空気の匂いがしないかが心配だった。
後1ヶ月の間に、それなりの口上を考えないといけないと思うだけで、洋子は憂鬱になっていた。仕事上、人前で話をする機会が多いので慣れてはいるが、ああいう畏まった所で大勢の人を相手に話をしたことはなかった。あれやこれやと考えれば考えるほど不安になってきていたので、その気分転換にと今日はこの店に来たのだった。
中に半分ほどコーヒーの残ったカップををぼんやり見つめながら、
「どうして、こんなもの、持って来たの。気分転換にもならないし。」
と片方では思い、もう片方では、幸せに満ち溢れた親友の笑顔を思い描き、祝福の言葉を探している自分に、はたと気が付いて思わず苦笑してしまった。ニヤニヤした自分の顔が見られたのではとハッとして、顔を上げて周りを見渡した。幸いにも誰も気付いていなかったようで、それぞれの空間から抜け出して洋子の様子を窺っている人はいなかった。
「どうして私が、こんなことに、振り回されないといけないのよ。」
これでもかというほど深い溜め息をの後に、ボソっと出た独り言にまた溜め息が出そうになり、思わず意識を元に戻した。
当然のことながら、少々多忙な洋子にとっては1ヶ月なんていう時間は、そんなに余裕のあるものではなく、残す日は後3日という状態になっていることに気が付きたくはなかったが、彼女の部屋のカレンダーは、お節介にもその日を毎朝教えてくれた。
「何を着ていくのかな、私。」
これほど単純明快な疑問は無いというほどの言葉が頭を過ぎった。少し焦ったが、今日は土曜日で仕事は休みだった。疲れた体を休息させるつもりだったが、そうも言ってられない。とりあえず、今持っている服なりアクセサリーなりのリストを頭の中で作り、チェックを入れながらピックアップしてみたが、今回の結婚式に着て行けるような組み合わせがあるわけがなかった。
元来、結婚式否定論者の洋子が豪奢なドレスで出席するつもりはなく、それでも社会人として常識の範囲内に納まる服装を選ばなければならない。靴は持っていたはずと以前友人の結婚式直前に買った微かな記憶を思い出し、慌ててシューズボックスを探した。角のへこんだ箱の中に鎮座したそれは、たった一度だけ外の世界に触れただけで幽閉されたお姫様のように光っていた。
友人の家に慌てて電話し、結婚式に着ていくドレスを借りることにした。自分が持っている靴に何とか合うようなものが見つかって眼前のハードルが一つ消えた瞬間、
「髪の毛は。」
直ぐに常連の美容院に連絡を入れ、何とか予約は取れた。
一通りの条件を何とかクリアできて、これで希望の光が見えてきたのだったが、肝心のスピーチは、まだ白紙のままだった。
結婚式の当日、少し早い時間に洋子はホテルのロビーにいた。時間が早いせいもあって、知った顔は何処にも見当たらなかった。花嫁に挨拶に行ってもいいのだが、何故かそんな気分にもなれず、ティールームでお茶でも飲んで時間を潰すことにした。日取りがいいのか、何組かの式も行われるようで、暫くするとロビーの人影も増え、何となく見たことのある顔が目に付いた。そろそろと席を立ち、会場へ向かった。受付には友人の一人がいて、軽く言葉を交わし、洋子は会場の中へ入っていって、自分の席に着いた。
やがて、披露宴が始まった。晴れやかな場に相応しい音楽が流れ、新郎新婦が入場してきた。仲人の挨拶と新郎新婦の紹介が延々と続く。その後、主賓の挨拶、乾杯の挨拶。
「これが時間とお金の浪費以外のなにモノなの。」
いつもながら、このあたりで既にイライラしてくる洋子だったが、少々引きつってはいるが顔は笑顔で固定していた。
この時間帯を何とか凌いでやっと料理にありついた頃には、洋子の心の波も少しは穏やかになっていた。同じテーブルには故郷を出るまで一緒だった友人達が座っていて、近況を交えながら花嫁の噂話をしていた。こんな場で込み入った話ができるわけがなく、表面を撫でただけの話題が続くので、皆も次第に飽きてくるものだった。
そんな時、友人の一人が、
「で、どうなの、仕事に見初められた洋子は。」
と何を考えたか、矛先を向けてきた。
「何も無いよ、あるわけがない。」
と冷たい口調で答えてみたら、
「そうよね。」
とあっさり別の話題に移ろうとした。コノヤロウと口から出そうになった言葉を料理と一緒に飲み込んで、その後は頭を低くして嵐が過ぎるのを待つことにした。
宴は、遅れ気味な気配だったが、順調にプログラムをこなし、洋子のスピーチの順番が近づいているようだった。それなりに緊張はしていたが、今回はいつもと違う雰囲気を纏っていることに、洋子自身も気が付いていた。妙な落ち着きと、妙な興奮とが入り混じったような気持ちになって、じっとその時を待っていた。
列席の人達が話をする声、食器の音、たぶん新郎新婦が好きな曲、そんな音に満たされた会場の中で、一人だけ違った世界を作り出している洋子がいた。
「そろそろかな。」
と心の準備をし始めたその時、一人の女性が近づいてきた。
「木崎様、木崎洋子様でいらっしゃいますか。」
静かに尋ねてきたその声に、洋子は無言で頷いた。
「誠に申し訳ありません。司会をさせていただいている者ですが、お式の時間が大変押しておりまして、ご挨拶を割愛させていただけませんでしょうか。もし、できましたら、お歌を唄われるご友人の方々とご相談いただき、ご一緒していただけると助かるのですが。」
「はあ。」
と反射的に言葉が出た。
「ありがとうございます。新郎側の方も快くご承諾いただけましたので、助かります。本当に申し訳ございませんでした。ありがとうございました。」
司会者の女性は、帰り際に深々と頭を下げ軽く微笑むと、くるりと向きを変えて司会の席に戻っていった。事情は直ぐに飲み込めたし、仕方が無いと思って同意をする返事を条件反射のようにしてしまった。それはあくまでも事務的なもので、社会人としての悲しい性のようなものだった。
何事も無かったように、披露宴は進んでいった。新婦の友人による出し物になった時、先程の司会者の勧めもあったのか、同席の友人達に一緒に出ないかと誘われもしたが、丁重に断った。洋子の心の中には、ぽっかりと白い空間ができたような状態になり、考えることも話すこともできなくなっていた。確かに友人代表の挨拶ということで気負ってはいたが、単に出鼻を挫かれた悔しさという感情ではなく、何となく遣る瀬無いものを感じずにはいられなかった。いつの間にか、最後のプログラムであるご両親の挨拶が始まっていた。かつて新婦の家に遊びに行った時、たまに顔を合わせいた懐かしいおじさんが、時折言葉を詰まらせてお礼の言葉を言っていた。
司会者のお開きのアナウンスと共に披露宴は無事終了し、招待された人達は三々五々席を立っていった。洋子のテーブルも何人かが立ち上がり、放心状態だった洋子も慌てて席を立った。会場の出口で新郎新婦が帰る人と挨拶を交わしていた。洋子が前を通った時、
「ごめんね、折角挨拶をお願いしていたのに、時間の都合でダメになったみたいで。」
と新婦に言われて、半分引きつった笑みだけでそれに答えた。隣のご両親には丁重に頭を下げ、ロビーに出て友人達の顔を捜した。少し休んでから帰りたかったのは皆同じだったようで、ホテルのティールームでお茶でもしてから帰ろうということになった。 「ごめん、今日はちょっと気分がすぐれないので、二次会はパスするわ。」
お茶を飲んでいる間の話のタイミングを計り、それだけを言って、さあ出ようと思った時、
「お友達なんですよね。」
と式場で見た顔の男性が声を掛けてきた。
「これから二次会を予定してますので、仲間内でもう一度彼等を祝福してやりませんか。」
年恰好からして新郎の友人らしく、また二次会の幹事のようだった。
洋子は、他の友人達とは別に、
「申し訳ありません。ちょっと気分がすぐれないので、今日は...」
とだけ言い、静かに会釈して、さっさとエントランスを目指した。途中一度振り返って見た時、彼がまだ洋子の方を向いていたので再度軽く頭を下げた。ホテルのエントランスを出て、直ぐにタクシーに乗り込んだ。洋子は、妙にイライラしている自分が可笑しかった。挨拶をドタキャンされたことに対して腹が立っているのではなかった。伝えたい言葉があった。言いたい言葉があった。それが言えなかった自分自身に腹が立っているのを冷ややかに見返して笑ってしまった。
「どうして、こうなんだろ。」
とか、
「だから、結婚式なんて。」
とかいう言葉を無意識に口から溢しては、溜め息をついた。タクシーを降りる時、近くの駅までの短い乗車時間の間に何回溜め息をついたかと思い、また可笑しくなってしまった。
家に帰り着いた時には中途半端な時刻になっており、減ったのか減ってないのか分からないような空腹感があった。それで、夕食をしっかり食べる気にはならなかったので、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、そのままベランダへ出た。ベランダから見えたのは美しい夜景ではなく、夜の黒さを纏う比叡山の山の端だった。眼下には街の灯り。そんな景色の中でも風は心地よかった。ベランダの手摺りにもたれて、
「今頃は、盛り上がってんだろな。」
と思いながら、缶ビールをもう一口飲んだ。
2週間ほど過ぎたある日、先日の結婚式の新婦だった親友から新婚旅行のお土産を渡したいというメールが洋子に届いた。それで、何時なら家にいるかということだったので、明後日なら仕事を早く切り上げられそうだったので、その日を指定することにした。彼女も特に問題ないようだったので、夫婦二人で行くということだった。ほんの少し忘れかけいてたあの日の感情が蘇ってきそうになり、洋子は首を横に振ってその思いを頭の外に出した。
「まあ、幸せな二人を見せ付けられるんだろうな。」
これまでに何度かそんな状況を見てきた洋子は、携帯電話のメールを見ながらつい呟いていた。かといって、羨望とか嫉妬とかというものは、それほど感じてはいなかった。目の前の新婚の二人がいる情景を自分と重ねられるほど、洋子自身にリアリティのある条件が整っているわけではなかったので、どうもピンとこないのが本音であった。
約束した日の夜、少し遅れて彼女達が洋子の部屋を訪れた。新婚夫婦というよりは、まだ仲の良い恋人同士としか見えない二人のほか、もう一つの人影がマンションの入り口に見えた。
「洋子、ごめん、同じ日になったから一緒に連れてきちゃった。」
相変わらずの軽いノリの彼女は、人の家にも関わらず、
「さ、あがって、あがって」
とヅカヅカと奥に入っていった。残された3人は、軽く会釈をして無言で挨拶を交わした後、洋子が、
「どうぞ。」
と言うまで、その場で固まったままだった。奥に入ってもらうように促し、その二人の後を洋子は着いて行った。3人が席に着くのを見計らって洋子はコーヒーを淹れ、テーブルに運びカップを配りながら自分も座った。
「はい、これ、お土産。」
と、大きなロゴの入った袋をでんと渡され、
「ありがと。」
と素直にお礼を言った。そして洋子は、新婚旅行のお土産話を聞く前に確かめておかなければならないことがあった。
「この方は...」
この時までこの話題に触れるものは誰も無く、当の本人もニコニコしてテーブルを囲んでいるだけで、自分が何者かも名乗ろうとはしなかった。
「あれ、覚えてないか。こいつは、カワハラ・コースケ。俺の学生時代からの友達で、結婚式の二次会の幹事をやってくれたヤツ。」
新婚夫婦の旦那の方が、そこまで言った時に思い出した。彼と会うのは、今日で二度目だ。「河原晃輔」という字を書くのを知ったのは、だいぶ後になってからだった。 「コースケさん...」
「そう、コースケ。俺って、そんなに影が薄いかなぁ。」
そう言いながら、後頭部を掻き毟って苦笑しているのを見て、
「今時、そんなリアクションするヤツはいないよ。やっぱり、コイツ、変。」
と、到底口には出せる言葉ではなかったので、洋子は心の中で密かに呟いていた。
そうしている内に、新婚夫婦の旅行の話が始まり、新しい生活の話や結婚を機に引っ越した先の近所の話などなど、転々と話題を変えながら時間を費やしていた。
「洋子、夕食は食べたの。」
突然、新婚夫婦の嫁の方が、話を変えてきた。
「私は、まだ。いつも帰りが遅いから、特に何ともないけど。」
時計に目を遣ると、22時の少し前だった。いつもの洋子の遅い夕食の時刻と、さほど変わらない時刻になっていた。
「じゃ、食べなきゃ。悪いから、帰るわ。」
と新婚夫婦の嫁の方が言い出した。
「それなら、一緒にどこかに食べに出てもいいけど。」
洋子が、壁にかけてあったジャケットに手を伸ばそうとした時、
「私達は、これから、また、挨拶回りに行くの。その途中で何か食べるから、いいわ。」
「こんなに遅くから挨拶に。」
と洋子が驚いて聞くと、
「多忙なお偉いさんは、こんな時間でないと、ご在宅ではないらしいの。向こうが時間を指定してきたんだから仕方ないよ。」
しかめっ面をした新婚夫婦の嫁の方を見て洋子が笑うと、彼女も笑い始めた。旦那の方はバツが悪そうで、今から行く所は旦那の関係らしかった。コースケは、そんな3人を見て大きな声で笑っていた。その声が部屋に響いた時、洋子は急に空気がすっと違う色になったような気がした。
「それじゃ、またね。」
と言い残して、彼女らは帰っていった。マンションの前まで送りに出た洋子は、空気の澄んだ秋の夜空に煌く星を見上げて、ふっと息を吐いた。