他人事と思う者はいなかったのだ。
かくいう僕は、演奏をする、晴れ舞台に立つ、という魅惑に取り憑かれている人間だという自覚があり、それを断念するのは本当は辛かった。大好きなショスタコーヴィチ。その音響を自在に繰り広げる快楽。これは麻薬にも似た楽しみなのだ。
しかし、被災地の痛ましい状況、破壊された市街などを映像で目にし、多くの人にとっての一周忌であることに思いをいたすと、舞台で得意満面でパーカッションを叩くこと事態が不謹慎なのでは、と気がつかざるを得なかった。
天災に直面した人々は全てを失い、家族を失った。のみならず、災害はまだ続いていて終息していないという時に、自分は楽しみを優先するのか? 本当にそれで良いのか?
自問自答し、この日に、清々しい思いで舞台には立てない、と結論したから僕は「延期」に一票を投じた。
議長を務める、事務局の小西(こにし)さんが「第19回定期演奏会を予定通り3月11日に行なう 50票 延期もしくは中止する 51票 白票はゼロ」と投票結果をホワイトボードに書いた時、会場にどよめきが起きた。
101人の団員で、50と51に票が割れるとは…それは、他のアマオケから結束の強さを羨ましがられるオーケストラ・アクチャーブリの中であっても、意見集約が難しい問題がある、という証左でもあった。
居酒屋で唱われる、「オラトリオ森の歌」
「延期…するならするで問題があるぞ…」
全体集会の後で打楽器パートの6人だけで飲みにいった田町の居酒屋で、パートリーダーの古屋さんが、無表情に言った。
決をとった後、「延期するのか中止するのか」を挙手させたところ、「延期」が圧倒的であったが、しかし、「では演奏会は何月にするべきか」をここで決めるのは尚早だということで、解散になったのだ。とはいえ、早期に決めたほうが良いのは明らかなのだが。
僕たちアクチャーブリの打楽器パートは全員男性だ。野郎どもばかりが顔を突き合わせていてまことにむさ苦しいが、それ故に一種、実社会より伸び伸びと