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思っていたかもしれません。というのも、女性という存在に対して、憧れを持ちつつも、近づきたくない、近づくのはよそうとする主人公を書いた谷崎作品があるからです。
新潮文庫刊行「刺青・秘密」の中におさめられている「二人の稚児」(大正7年)がその物語です。ストーリーは:
千手丸と瑠璃光丸は、女人禁制の比叡山の上人のもとに預けられて将来は仏道に入ることになっている稚児であった。千手丸が2歳の年長である。二人は上人から「お前達はよくよく仕合せな身の上だと思わねばなりませんぞ。人間が親を恋い慕ったり、故郷に憧れたりするのは、みな浅ましい煩悩の所行であるのに、山より外の世間を見ず、親も持たないお前達は、煩悩の苦しみを知らずに生きてこられたのだ」と諭され、将来は必ず尊い出家になれることを楽しみにしていた。
「あの、尾上の雲を見るが良い、遠くから見ると雪のように清浄で、銀のようにきらきらと輝いて居るが、あの雲の中へ入ってみると、雪でもなく銀でもなく