ラスボスの思想(18)

           記号宇宙の旅

 

 地球には、無機物と有機物が存在します。そこで、まず、目に見える身近な無機物である石について考えてみます。石は、空気と触れることによって、また他の物質に触れることによって破壊され、そして、新しい石に変身していきます。次に、目には見えない原子核について考えてみます。核分裂という破壊が起きると、ある物質が新しく誕生します。この現象から言えることは、創造と破壊は同時に起きているということです。

 

 人の細胞においても、毎日誕生しては、死滅しています。地球人について考えてみると、自然現象として、数分ごとにどこかで子供が生まれ、同時に、どこかで人は死んでいます。また、医者が、知性を使って病人の延命行為を行っています。一方では、知性を使って戦争を行い、人を殺害しています。人は、人を存続させると同時に、破壊しています。

 

 人間も、所詮は物質でしかありません。現実に存在する物質には、誕生と破壊が常に起きています。ということは、人間においても、生と死は常に起きているということです。ならば、戦争という破壊が起きるのも当然のように思えます。変な言い方のよ言うですが、人が存在する限り、この世には人を殺す人と殺される人がいるということです。

 

 誰しも殺されるのは嫌です。でも、常にどこかに殺す人がいるのです。殺人者には殺人の欲求があるのでしょうか?確かに、憎しみが原因で殺人が起きる場合があります。でも、戦争では、個人的な憎しみから殺人を行うわけではありません。兵士は、軍隊の命令に従って殺人を行うのです。その軍隊に命令するのは、国家です。国家とは、人間ではありません。組織といういまだ理解されていない得体のしれないエネルギーなのです。

 

 人は、得体のしれないエネルギによって、殺されているのです。人は、戦争を起こした大統領や首相、または国会議員を非難します。でも、実は、我々は、得体のしれないエネルギーを非難しているのです。大統領は、人間ですが、この人間を動かしているのは、組織という得体のしれないエネルギーなのです。怪物のようなエネルギーは、どこから生まれてくるのでしょうか?それは、まぎれもなく、地球人の脳から生まれてくるのです。

 

 国家を作っているのは、地球人です。地球人を動かしているのは、頭蓋骨に保護された脳神経細胞です。国家というエネルギーを解明するということは、脳神経細胞を解明することにつながるのです。我々は、いまだ、国家が理解できていません。同じく、脳神経細胞も理解できていません。

 

 

 あるものを理解する場合、それは、知性を働かせています。知性が働くということは、記号が作り出され操作されています。脳における知性は、言語、記号、イメージに形を変えて現れます。知性を働かせるということは、記号宇宙に船出するのと同じなのです。

 

 記号そのものは、物質ではありません。まさに、得体のしれないエネルギーと言いえます。我々人間は、物質ですが、知性に生きる限り死ぬまで記号宇宙をさまようことになるのです。秀才も凡人も、幸せを探し求めて記号宇宙を放浪し続けるのです。

 

 我々は、他の動物と違いとても知性豊かで賢い動物と思っています。確かに、記号宇宙に生きることによって、紀元前から地球人は有益な創造物を手に入れてきました。でも、一方では、数十世紀にわたり多くの生物を破壊してきたのです。地球人は、地球環境が激変し、地球人の脳が絶滅するまでは、記号宇宙をさまようことでしょう。

 

 

 

 凡人はもとより秀才でも記号宇宙では、どちらに舵を取ればいいかわからず悩み苦しむのです。記号宇宙をさまよい続けた先には何があるのでしょうか?得体のしれないエネルギーは、突如として、得体のしれない物質と変身するのでしょうか?我々は、自分たちを高等な物質だと思っています。でも、物質自体も、よく理解できない得体のしれないものなのです。

 

 仮に、地球人より優秀な脳を持った宇宙人がいたとしても、彼らも地球人の未来を知ることはできないでしょう。所詮、過去も、現在も、未来も、記号宇宙における羅針盤に過ぎません。私たちは、記号宇宙であてどもなく幸せを探し続けているのです。奇跡的に、脳神経細胞に革命が起きたならば、地球人の未来が見えるかもしれません。でも、未来が見えたために悲しむことになるかもしれません。

 

 私たちは、いずれ、死という物質変化を迎えるのです。それまで、記号宇宙を楽しく旅をすればいいのではないでしょうか?たとえ、記号宇宙が得体のしれない怪物のようなものであっても、恐れる必要はないのです。気楽に付き合っていけばいいのではないでしょうか。死に近づくにしたがって、このようなたわいもないことを考えてしまいます。近頃では、永遠に記号宇宙を旅できますようにと神に願っている次第です。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
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