死神サークルⅢ

 例の別荘に反応したことから、過去の記憶があることは確かだった。認知症になってはいない。確かに何かにおびえているが、マフィアによる暗殺に対してなのか?宇宙人に殺されるといっていたが、これは、殺人予告があったことを意味しているのではないか?宇宙人についてもう少し話してみることにした。「宇宙人に殺されると言っているが、宇宙人から、殺人予告があったのか?」安倍警部補は、無言で目を閉じたままだった。眠ってしまったのかと思い顔を覗き込んだ時、突然、目を開いた。「あ、また、宇宙からの殺人予告が着た。毎日、殺人予告の電磁波が脳に突き刺さってくる。頭が、割れそうだ。いったい、俺が、何をしたっていうんだ。いったい、俺が、どんな悪いことをしたって言うんだ」

 

 伊達は、菅原洋次について聞いてみることにした。「宇宙人の名前は、スガワラというんじゃないか?」安倍警部補は、口をとがらせて返事した。「宇宙人は、化け物だ。名前なんかあるものか。ヤツは、殺人電磁波を俺に浴びせかけ、俺が、もがき苦しんでいるのを見て、楽しんでいるんだ。あ~~、頭が割れそうだ。睡眠薬を飲ませてくれ。気が変になってきた。お前、薬、持っていないのか?よこせ、早く」伊達は、身の危険を感じ、立ち去ることにした。「おい、落ち着け、今、薬をもってきてやる。しばらく待ってろ」伊達は、素早くドアを開け飛び出した。伊達は、入口の横にいた看護師に状況を話した。看護師は、患者の部屋に飛び込んで行った。

 

 安倍警部補からは、これといった情報は入手できなかった。宇宙人というのが、マフィアなのか、菅原洋次なのか、それとも恨みを買っている何者なのか、はっきりしない。言えることは、何者かを恐れているということだ。おそらく、同じように佐藤警部も恐れていたに違いない。彼は、宇宙人と言っていた謎の人物に、拉致されているのか、それとも、すでに殺されているのか。伊達は、北里医師にお礼を言って帰ることにした。伊達は、北里医師の部屋を軽くノックした。中から、返事があった。「どうぞ」伊達は、そっとドアを開け、中に入ると深々とお辞儀をした。即座に、北里医師の安堵の言葉が返ってきた。「何事もなく、よかった」伊達は、直立不動でお礼を述べた。「ありがとうございました。彼の病状がよくなり、退院したならば、もう一度、話をしてみます。誠に、ご迷惑をおかけしました。先生のご厚情に、警察を代表して御礼申し上げます」医師室を出た伊達は、病院前でタクシーを拾うと長崎空港に向かった。

 

            20年前の事件

 

 伊達は、対馬やまねこ空港に定刻の午後335分に到着した。大野巡査が午後4時に迎えに来ることになっていたため、2階売店奥にある軽食コーナーで待つことにした。青ざめた顔の伊達は、ホットコーヒーを購入し、ドスンと椅子に腰掛けると生きて対馬に到着したことを神に感謝した。実は、伊達は飛行機とトンネル恐怖症だった。プロペラ機に乗った時は、気絶しそうなほどおびえてしまった。絶対、墜落しないと何度も心に言い聞かせても、こんな小さなプロペラで空を飛んでることが、奇跡に思えて不安でならなかった。このことは、ナオ子にも打ち明けていなかった。口を滑らしでもしたら、気の強いナオ子に、一生、臆病者とバカにされそうだった。

 

 伊達は、一息つくとこれからの捜査について考えた。菅原洋次は、対馬出身でクリスチャンであること。また、プロ野球選手を夢見ていたこと。これらのことを手掛かりに、菅原洋次について、調査することにした。さらに、佐藤警部、安倍警部補、出口巡査長と菅原洋次は、どのような関係にあったのかを確認したかった。特に、出口巡査長と菅原洋次は、ともにクリスチャンであることが気にかかっていた。もし、クリスチャンの正義が、出口巡査長を自殺に追いやったと考えたならば、菅原洋次の正義が何を決断させるのか、不気味でならなかった。二人に共通することは、クリスチャン以外に野球が共通している。もしかすると、野球部の先輩後輩の関係にあったということが考えられる。

 

 伊達は、出口巡査長の出身高校が上対馬高校であったことから、菅原洋次も上対馬高校ではないかと推測した。そこで、大野巡査に菅原洋次の出身高校を調べるように依頼していた。もし、ともに、クリスチャンであり、出身校の先輩後輩の関係にあれば、出口巡査長を自殺へ追いやったものへの仇討の可能性は出てくる。そう考えれば、佐藤警部と安倍警部補への仇討ということも考えられなくもない。しかし、菅原洋次が、たとえ、正義感の強いクリスチャンであったとしても、仇討を決行してほしくなかった。出口巡査長の死、佐藤警部の失踪、安倍警部補の発狂、菅原洋次の失踪、これら一連は、麻薬密輸でつながっているような気がしてならなかった。

 

 一杯のコーヒーを飲み終えたころ、売店の通路から大野巡査の明るい声が響いてきた。「お待たせしました。思っていたより、混んでたんです」伊達は、笑顔で応答した。「いや、少し、休憩できてよかった」二人は、空港の駐車場に止めていた大野巡査の愛車ソリオに向かった。大野巡査は、素早く運転席に乗り込むと、後部座席のスライドドアを開いた。「どうぞ」伊達は、ヒョイと乗り込むとお礼を言った。「悪いな~、迎えまで、してもらって」大野巡査は、笑顔で返事した。「いや、署長の命令ですから。丁重に、お迎えするようにと」伊達は、ちょっと気味が悪かった。「そうか。ところで、菅原洋次の出身高校は、どうだった?」大野巡査は、即座に返事した。「当たってましたよ。上対馬高校です。しかも、野球部でした。僕の大先輩ってことです」

 

 伊達は、大きくうなずいた。「やはり、そうだったか。菅原洋次と出口巡査長は、先輩後輩の関係だったわけだ。ということは、もしかしたら、菅原洋次は、出口巡査長の死に関して、何か知っていると考えられるな」大野巡査は、うなずいた。「私もそう思います。憶測ですが、出口巡査長は、教会で、菅原先輩と偶然出会ったと考えられませんか?その時、出口巡査長は、菅原先輩に何か相談したのではないでしょうか?」伊達は、応答した。「そう思うか。俺もなんだ。出口巡査長は、菅原洋次に何か悩みを打ち明けたんじゃないかと思うんだ。そして、しばらくして、菅原洋次は、出口巡査長の事故死を知った。しかし、出口巡査長の悩みを知っていた菅原洋次は、出口巡査長の死は、単なる事故死ではないと思った」

 

 大野巡査は、大声で返事した。「きっとそうです。そうに違いありません。二人は、クリスチャンです。菅原先輩は、出口巡査長の言葉にできなかった思いを理解できたはずです。もしかしたら、菅原先輩の失踪は、出口巡査長の死と関係あるかもしれませんね」小さくうなずいた伊達は、返事した。「確かに考えられる。だがな~~、そうであってほしくない。仮にだ、菅原洋次が、出口巡査長の仇討のために失踪したとなれば、悪い予感がする」二人を乗せたソリオは、国道382号をのんびりと北上していた。大野巡査は、予定を確認した。「今日の宿泊は、どちらですか?」伊達は、気まずそうに返事した。「いや、まだ、決めてないんだ」大野巡査は、ルームミラーを覗き込み、笑顔で応答した。「それじゃ、僕の実家に泊まってください」

 

 伊達は、恐縮したが、民宿に泊まる気持ちで承諾した。「全く、悪いな~~。お言葉に甘えさせてもらうよ。実家って、北署の近くなのか?」大野巡査は、笑顔で応答した。「ちょっと離れてますけど、車だとすぐです。比田勝小学校の近くです。そんなこと言ってもわかりませんよね。比田勝港の西側です」伊達は、比田勝港と言われ、大体の見当がついた。「今日は、よろしく頼む」大野巡査は、明るい声で返事した。「今日だけと言わず、何日でもどうぞ。住んでるのは、両親と僕だけですから。気になさらないでください」大野巡査は、路肩に車を停めると、宿泊の件を母親に電話した。

 

 伊達は、ますます恐縮したが、家族について聞いてみることにした。「兄弟は?」ちょっと間をおいて返事した。「は~、2 つ下の弟がいます。自衛隊にいます。小さいころから、ガンダムにあこがれてました。変わった子です」自衛隊に入るということは、国防精神がある証だと思いほめることにした。「いや、素晴らしい弟さんじゃないか。今は、どちらの基地に?」大野巡査は、元気のない声で返事した。「航空自衛隊春日基地です。戦死なければいいんですが」パイロットと聞いて、弟は優秀だと直感した。「いや、日本は、戦争しない国だから、そう、心配せずに」大野巡査は、首を振って返事した。「そうとも言えないんです。来年早々、米軍とNATO軍は、中国軍の軍事基地を総攻撃するらしいんです。そうなれば、自衛隊は米軍を支援することになるはずです。兄としては、とても心配なんです」

 

 戦争は、噂だと思っていたが、彼の話を聞くと本当に戦争になるように思えてしまった。伊達は、今は、戦争よりトランプ大統領が再選できるかどうかのほうが心配だった。「確かに、中国人民解放軍は、脅威だ。だからこそ、トランプ大統領に再選してもらわないと、日本は、こてんぱんにやられる。アメリカが中共に支配されたならば、アメリカの民主主義だけでなく、世界の自由と正義が失われてしまう。今回の不正選挙は、決して、許してはならん。全人類、断固として戦わねばならん。そう~思うだろ」大野巡査は、大きくうなずいたが、不安げな表情で返事した。「確かに、そうだと思います。でも、大手メディア、司法、FBICIA、州知事、州警察、BLMまでもが中共の手先になっているじゃないですか、今のままでは、バイデンが新大統領になるんじゃないですか?

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
死神サークルⅢ
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