死神サークルⅢ

 一杯のコーヒーを飲み終えたころ、売店の通路から大野巡査の明るい声が響いてきた。「お待たせしました。思っていたより、混んでたんです」伊達は、笑顔で応答した。「いや、少し、休憩できてよかった」二人は、空港の駐車場に止めていた大野巡査の愛車ソリオに向かった。大野巡査は、素早く運転席に乗り込むと、後部座席のスライドドアを開いた。「どうぞ」伊達は、ヒョイと乗り込むとお礼を言った。「悪いな~、迎えまで、してもらって」大野巡査は、笑顔で返事した。「いや、署長の命令ですから。丁重に、お迎えするようにと」伊達は、ちょっと気味が悪かった。「そうか。ところで、菅原洋次の出身高校は、どうだった?」大野巡査は、即座に返事した。「当たってましたよ。上対馬高校です。しかも、野球部でした。僕の大先輩ってことです」

 

 伊達は、大きくうなずいた。「やはり、そうだったか。菅原洋次と出口巡査長は、先輩後輩の関係だったわけだ。ということは、もしかしたら、菅原洋次は、出口巡査長の死に関して、何か知っていると考えられるな」大野巡査は、うなずいた。「私もそう思います。憶測ですが、出口巡査長は、教会で、菅原先輩と偶然出会ったと考えられませんか?その時、出口巡査長は、菅原先輩に何か相談したのではないでしょうか?」伊達は、応答した。「そう思うか。俺もなんだ。出口巡査長は、菅原洋次に何か悩みを打ち明けたんじゃないかと思うんだ。そして、しばらくして、菅原洋次は、出口巡査長の事故死を知った。しかし、出口巡査長の悩みを知っていた菅原洋次は、出口巡査長の死は、単なる事故死ではないと思った」

 

 大野巡査は、大声で返事した。「きっとそうです。そうに違いありません。二人は、クリスチャンです。菅原先輩は、出口巡査長の言葉にできなかった思いを理解できたはずです。もしかしたら、菅原先輩の失踪は、出口巡査長の死と関係あるかもしれませんね」小さくうなずいた伊達は、返事した。「確かに考えられる。だがな~~、そうであってほしくない。仮にだ、菅原洋次が、出口巡査長の仇討のために失踪したとなれば、悪い予感がする」二人を乗せたソリオは、国道382号をのんびりと北上していた。大野巡査は、予定を確認した。「今日の宿泊は、どちらですか?」伊達は、気まずそうに返事した。「いや、まだ、決めてないんだ」大野巡査は、ルームミラーを覗き込み、笑顔で応答した。「それじゃ、僕の実家に泊まってください」

 

 伊達は、恐縮したが、民宿に泊まる気持ちで承諾した。「全く、悪いな~~。お言葉に甘えさせてもらうよ。実家って、北署の近くなのか?」大野巡査は、笑顔で応答した。「ちょっと離れてますけど、車だとすぐです。比田勝小学校の近くです。そんなこと言ってもわかりませんよね。比田勝港の西側です」伊達は、比田勝港と言われ、大体の見当がついた。「今日は、よろしく頼む」大野巡査は、明るい声で返事した。「今日だけと言わず、何日でもどうぞ。住んでるのは、両親と僕だけですから。気になさらないでください」大野巡査は、路肩に車を停めると、宿泊の件を母親に電話した。

 

 伊達は、ますます恐縮したが、家族について聞いてみることにした。「兄弟は?」ちょっと間をおいて返事した。「は~、2 つ下の弟がいます。自衛隊にいます。小さいころから、ガンダムにあこがれてました。変わった子です」自衛隊に入るということは、国防精神がある証だと思いほめることにした。「いや、素晴らしい弟さんじゃないか。今は、どちらの基地に?」大野巡査は、元気のない声で返事した。「航空自衛隊春日基地です。戦死なければいいんですが」パイロットと聞いて、弟は優秀だと直感した。「いや、日本は、戦争しない国だから、そう、心配せずに」大野巡査は、首を振って返事した。「そうとも言えないんです。来年早々、米軍とNATO軍は、中国軍の軍事基地を総攻撃するらしいんです。そうなれば、自衛隊は米軍を支援することになるはずです。兄としては、とても心配なんです」

 

 戦争は、噂だと思っていたが、彼の話を聞くと本当に戦争になるように思えてしまった。伊達は、今は、戦争よりトランプ大統領が再選できるかどうかのほうが心配だった。「確かに、中国人民解放軍は、脅威だ。だからこそ、トランプ大統領に再選してもらわないと、日本は、こてんぱんにやられる。アメリカが中共に支配されたならば、アメリカの民主主義だけでなく、世界の自由と正義が失われてしまう。今回の不正選挙は、決して、許してはならん。全人類、断固として戦わねばならん。そう~思うだろ」大野巡査は、大きくうなずいたが、不安げな表情で返事した。「確かに、そうだと思います。でも、大手メディア、司法、FBICIA、州知事、州警察、BLMまでもが中共の手先になっているじゃないですか、今のままでは、バイデンが新大統領になるんじゃないですか?

 

 

 伊達は、肩を落としてうなずいた。「今のままでは、トランプ大統領の勝ち目はない。何とかしてほしい」大野巡査は、戦争によって対抗するように思えた。「きっと、戦争をしますよ。これしか、方法がありません。日本国民も正義を守るために、米軍と一緒に、戦いましょう。中国軍基地を徹底的に、叩き潰しましょう」伊達は、力強い声で応答した。「そうだな、ヤマト魂を見せてやるか。悪に支配されるくらいだったら、戦死したほうがましだ。人類の未来のためだ。いつでも、赤紙を送ってくれ。覚悟はできている」大野巡査は、大きな声で同意した。「ヤマト民族の心意気を見せてやろうじゃありませんか。日本の歴史、文化、言語、を守るのは、我々です。よし、戦うぞ」

 

 話がそれて戦争の話になったが、伊達は、菅原洋次についの話に戻すことにした。「ところで、菅原洋次は、お城巡りが趣味ということだ。早速、お城を捜索してみよう」大野巡査が、即座に応答した。「対馬には、意外とお城は多いですよ。上対馬だと、撃方山城(うつかたやまじょう)、内方山城(うちかたやまじょう)、厳原だと、金石城(かねいしじょう)、金田城(かねだじょう)、清水山城(しみずやまじょう)、どこから調べますか?」菅原洋次は、地元の人間だ。ほとんどの城は、巡っているはず。もし、対馬の城を写真にとるとなれば、お城に付随した屋形ではないかと推測した。「そんなにあるのか。厄介だな。お城は、すでに撮っているかもな。今回は、お城というより、歴史的に重要な屋形ではないだろうか?どうも、そっちのほうが気にかかる」大野巡査は、うなずいた。「そうですね。歴史的屋形と言っても、今は、どこも、残っていませんよ。かつてあったというぐらいですね」

 

 伊達は、ちょっと考え込んだ。菅原洋次は、地元だ。ほとんどの旧跡は、写真に撮っているだろう。ならば、もし、対馬にやってくるとすれば、何を目的にやってくるか?菅原洋次の糸口は、クリスチャン、野球、写真、城、そうだ、教会にやってくるかも、それと、母校の上対馬高校、は考えられないか?対馬に関しては、写真と城にこだわってはいけない。まず、ヤツの母校に行ってみよう。偶然出会うかもしれん。「俺も、うかつだった。ヤツは、地元の人間だ。城や屋形の遺構などの写真は、きっと、すでに撮っている。ちょっと気になるところは、教会と母校だ。明日一番に、ヤツの母校、上対馬高校に行ってみよう。何か、情報が得られるかもしれん」大野巡査は、同意の返事をした。「それは、名案です。菅原先輩は、野球部です。野球部に顔を出しているかもしれません」

 

 

 伊達は、どのあたりまで来たか確認した。「今、どのあたりだ?」ルームミラーを覗き込んだ大野巡査は、笑顔で返事した。「もうすぐ、178に入ります。そしたら、10分ぐらいです」話し込んでたせいか、時間が短く感じた。泊めてもらうことになったため、お土産をどれにしようか、確認した。大野巡査へのお土産のほかにもう一つ加えることにした。博多通りもんとひよこ饅頭にすることにした。対馬に一年あまりいた伊達は、山並みの風景を眺めていると故郷に戻ってきたような気分になった。「なんだか、里帰りしたような気になるな~。やはり、対馬は、いいとこだ」大野巡査は、嬉しそうに返事した。「そう、言っていただけると嬉しいです。いつでも、遊びにいらしてください。伊達さんは、僕たちの縁結びの神様ですから」

 

 伊達が、瑞恵と大野巡査の出会いを作ったのは仕事のためだったが、偶然にも二人を結ぶ結果となった。今では、縁結びの神様とまで言われてしまった。それにもかかわらず、また、瑞恵を捜査に利用してしまったことに後ろめたさを感じた。「そこまで言われると、照れるな~。大野君は、ついてるな~。美人と結婚できて。瑞恵さん、豊玉姫の化身かもしれんぞ」大野巡査は、苦笑いした。「え、だったら、竜宮城に帰るかもしれませんね。それは、困りますよ。一生、僕のそばにいてもらわないと」伊達は、ほめるつもりだったが、たとえが悪かったことに気まずくなった。「いや、そういうことじゃなくて、瑞恵さんは、チョ~~美人だって言いたかったんだ」大野巡査は、ワハハ~と笑い声をあげた。「今のは、冗談です。伊達さんには、本当に、感謝しています」

 

 ソリオは、右手の上対馬高校を通り過ぎ、左手の消防署の少し先から右に折れた。明るい声で伊達に声をかけた。「着きました」伊達は、まだ、新築に見える大きな和風建築の家に目を丸くした。「立派な家だな~~。大野君は、金持ちのボンボンなんだな~」ボンボンと言われ、ハハハと笑い声をあげた。「ボンボンじゃありませんよ。貧乏な漁師のせがれです。でも、おじいちゃんが残してくれた土地が、奇跡的に高値で売れたんです。両親もびっくりしてました。購入したのは、中国人らしいんですが、別に、気にはしてません。先に降りてください。車庫に入れてきますから」お土産を手にして降りた伊達は、和風庭園を眺めながら大野巡査を待った。

春日信彦
作家:春日信彦
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