死神サークルⅢ

 伊達は、肩を落としてうなずいた。「今のままでは、トランプ大統領の勝ち目はない。何とかしてほしい」大野巡査は、戦争によって対抗するように思えた。「きっと、戦争をしますよ。これしか、方法がありません。日本国民も正義を守るために、米軍と一緒に、戦いましょう。中国軍基地を徹底的に、叩き潰しましょう」伊達は、力強い声で応答した。「そうだな、ヤマト魂を見せてやるか。悪に支配されるくらいだったら、戦死したほうがましだ。人類の未来のためだ。いつでも、赤紙を送ってくれ。覚悟はできている」大野巡査は、大きな声で同意した。「ヤマト民族の心意気を見せてやろうじゃありませんか。日本の歴史、文化、言語、を守るのは、我々です。よし、戦うぞ」

 

 話がそれて戦争の話になったが、伊達は、菅原洋次についの話に戻すことにした。「ところで、菅原洋次は、お城巡りが趣味ということだ。早速、お城を捜索してみよう」大野巡査が、即座に応答した。「対馬には、意外とお城は多いですよ。上対馬だと、撃方山城(うつかたやまじょう)、内方山城(うちかたやまじょう)、厳原だと、金石城(かねいしじょう)、金田城(かねだじょう)、清水山城(しみずやまじょう)、どこから調べますか?」菅原洋次は、地元の人間だ。ほとんどの城は、巡っているはず。もし、対馬の城を写真にとるとなれば、お城に付随した屋形ではないかと推測した。「そんなにあるのか。厄介だな。お城は、すでに撮っているかもな。今回は、お城というより、歴史的に重要な屋形ではないだろうか?どうも、そっちのほうが気にかかる」大野巡査は、うなずいた。「そうですね。歴史的屋形と言っても、今は、どこも、残っていませんよ。かつてあったというぐらいですね」

 

 伊達は、ちょっと考え込んだ。菅原洋次は、地元だ。ほとんどの旧跡は、写真に撮っているだろう。ならば、もし、対馬にやってくるとすれば、何を目的にやってくるか?菅原洋次の糸口は、クリスチャン、野球、写真、城、そうだ、教会にやってくるかも、それと、母校の上対馬高校、は考えられないか?対馬に関しては、写真と城にこだわってはいけない。まず、ヤツの母校に行ってみよう。偶然出会うかもしれん。「俺も、うかつだった。ヤツは、地元の人間だ。城や屋形の遺構などの写真は、きっと、すでに撮っている。ちょっと気になるところは、教会と母校だ。明日一番に、ヤツの母校、上対馬高校に行ってみよう。何か、情報が得られるかもしれん」大野巡査は、同意の返事をした。「それは、名案です。菅原先輩は、野球部です。野球部に顔を出しているかもしれません」

 

 

 伊達は、どのあたりまで来たか確認した。「今、どのあたりだ?」ルームミラーを覗き込んだ大野巡査は、笑顔で返事した。「もうすぐ、178に入ります。そしたら、10分ぐらいです」話し込んでたせいか、時間が短く感じた。泊めてもらうことになったため、お土産をどれにしようか、確認した。大野巡査へのお土産のほかにもう一つ加えることにした。博多通りもんとひよこ饅頭にすることにした。対馬に一年あまりいた伊達は、山並みの風景を眺めていると故郷に戻ってきたような気分になった。「なんだか、里帰りしたような気になるな~。やはり、対馬は、いいとこだ」大野巡査は、嬉しそうに返事した。「そう、言っていただけると嬉しいです。いつでも、遊びにいらしてください。伊達さんは、僕たちの縁結びの神様ですから」

 

 伊達が、瑞恵と大野巡査の出会いを作ったのは仕事のためだったが、偶然にも二人を結ぶ結果となった。今では、縁結びの神様とまで言われてしまった。それにもかかわらず、また、瑞恵を捜査に利用してしまったことに後ろめたさを感じた。「そこまで言われると、照れるな~。大野君は、ついてるな~。美人と結婚できて。瑞恵さん、豊玉姫の化身かもしれんぞ」大野巡査は、苦笑いした。「え、だったら、竜宮城に帰るかもしれませんね。それは、困りますよ。一生、僕のそばにいてもらわないと」伊達は、ほめるつもりだったが、たとえが悪かったことに気まずくなった。「いや、そういうことじゃなくて、瑞恵さんは、チョ~~美人だって言いたかったんだ」大野巡査は、ワハハ~と笑い声をあげた。「今のは、冗談です。伊達さんには、本当に、感謝しています」

 

 ソリオは、右手の上対馬高校を通り過ぎ、左手の消防署の少し先から右に折れた。明るい声で伊達に声をかけた。「着きました」伊達は、まだ、新築に見える大きな和風建築の家に目を丸くした。「立派な家だな~~。大野君は、金持ちのボンボンなんだな~」ボンボンと言われ、ハハハと笑い声をあげた。「ボンボンじゃありませんよ。貧乏な漁師のせがれです。でも、おじいちゃんが残してくれた土地が、奇跡的に高値で売れたんです。両親もびっくりしてました。購入したのは、中国人らしいんですが、別に、気にはしてません。先に降りてください。車庫に入れてきますから」お土産を手にして降りた伊達は、和風庭園を眺めながら大野巡査を待った。

 車庫から駆けてやってきた大野巡査と伊達は、玄関に向かった。扉を開けた大野巡査は、大きな声で叫んだ。「ただいま~~。帰ったよ。お客さんだ」パタパタとスリッパの音が近づいてきた。目を丸くした母親は、上がり框に正座して挨拶した。「ようこそ、お越しくださいました。どうぞ、おあがりください」大野巡査は、伊達をリビングに案内した。リビングのソファーに腰掛けしばらくすると父親が現れた。正面に腰掛けた父親は、満面の笑みで挨拶した。「この度は、縁を取り持っていただき、誠にありがとうございます。今日は、お泊りいただけるそうで。いや、一日と言わず、何日でもどうぞ。田舎料理ですが、魚は、新鮮ですから」

 

 伊達は、あまりにも大げさな歓迎に恐縮してしまった。「いや、そう、気を使っていただいては、恐縮します。今回は、出張です。今日だけでも、泊めていただけるなんて、幸運です。つまらないものですが、どうぞ」伊達は、お土産を差し出した。父親は、またもや、目を丸くして大げさな喜びを見せた。「これはこれは。ありがたく頂戴いたします。博多通りもん、ひよこ饅頭、有名な博多の名物。早速いただきましょう」母親が、お茶を運んできた。母親は、お土産を引き取ると席を外した。しばらくして、通りもんを入れた器を運んできた。母親が横に腰掛けると父親が、縁談のお礼を述べた。「この度は、英雄にはもったいないようないい方をご紹介いただき、誠に、お礼申し上げます。英雄は、まだまだ、駆け出しの警察官です。今後とも、よろしくお願いいたします」

 

 伊達は、ここまで感謝されると気まずくなってしまった。「いや、ちょっとしたきっかけを作っただけですから。お二人は、赤い糸で結ばれていたんですよ。英雄君は、イケメンだし、瑞恵さんは、美人だし、お似合いじゃないですか。本当に、ご婚約、おめでとうございます」母親もお礼を述べた。「本当に、ありがとうございます。瑞恵さんのお兄さんは、正義感の強い立派な警察官でした。それに、英雄の目標でもありました。御指導もしていただきました。本当に、立派な方でした。お兄さんのためにも、瑞恵さんを幸せにするんだよ。英雄」突然、振られた英雄は、目を丸くしてうなずいた。「そんなこと言われなくても、わかってるさ。必ず、幸せにする」頼もしい大野巡査を見つめ、伊達は笑顔を作った。

 

 

 伊達の脳裏に、ふと、背番号1のユニフォームを着た菅原洋次の姿が浮かんだ。彼について、父親に聞いてみることにした。「話はかわりますが、上対馬高校の卒業生の菅原洋次さんをご存知ですか?彼も、野球部だったんですが」父親は、首をかしげて思い出しているようだった。「すがわら」とつぶやき、思い出したような表情を作った。母親も思い出したように夫に声をかけた。「例の」父親は、うなずいた。伊達は、意味ありげな”例の”と言う言葉が気にかかった。伊達は、即座に尋ねた。「菅原洋次のことをご存知なんですか?」両親は、小さくうなずいた。父親が、つぶやいた。「確かに、菅原という学生が、いました。もう、あれから、20年たつかな~。かわいそうな事件でした」母親が、横から口を出した。「もう、忘れてあげないと」

 

 伊達は、菅原洋次の過去の話を聞きたかった。「是非、お聞かせ願いませんか?決して、ご迷惑はおかけいたしません。実は、彼には、捜索願届が出されているんです。7月から行方がつかめないんです。お願いします」二人は、顔を見合わせてうなずいた。父親が、眉を八の字にして、静かに話し始めた。「あくまでも、昔の話です。お役に立つかどうか、英雄が小学校に入る前の話ですから、かれこれ、20年は経つと思います。菅原君は、剛腕投手ということで、この辺りでは、知らない者はいませんでした。プロ野球にスカウトされるんじゃないかと騒いでいたものです。ところが、悲しい事件が起きました。彼は、本当に、正義感あふれる好青年です。菅原君は、悪くない」

 

 目頭を押さえた父親は、言葉に詰まった。これ以上話すのをためらっている様子だった。大野巡査が、口をはさんだ。「昔のことじゃないか、どんなことがあたとしても、もう、許されるんじゃないか。俺も知りたい」父親は、涙声で話し始めた。「傷害事件を起こしたんだ。相手が、悪かった。殴った相手というのが、チンピラだ。殴られた相手は、入院したらしい。そして、チンピラの仲間が、学校までやってきて、損害賠償を請求してきたそうだ。そのことで、菅原君は、退学してしまった。プロ野球選手の夢も、消えてしまった。本当にかわいそうだった」大野巡査が、叫んだ。「きっと、正当防衛だ。チンピラに絡まれたに違いない。クリスチャンが、何の理由もなく、人を殴るはずがない」

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
死神サークルⅢ
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