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~愛を探して~

住んでいる都会から車で一時間行った所に海が見える田舎町がある。そこを抜けると大きな墓地がある。戦争で死んだ人が埋まっていると聞いた事があった。
 墓地の上の方に段差があり、小さな墓石がある。側の海が見える展望台があり、静かな波の音が聞こえてくる。
 薔薇の花束を持って墓の前にいる綾小路寿久。茶色のジャケットが海の風に揺れていた。
 「久しぶりだな。ここに来るのは何年振りだろう。だけど、君を片時も忘れた事はなかった。」綾小路は薔薇の花束を墓の前に置いた。
 「俺がなぜ薔薇が好きになったか分かるかい。君が花屋の前で交通事故に遭って、君が最後に握りしめていたのが薔薇の花だったね。死ぬ間際で握りしめていたのが不思議なくらいだった。俺に何か当てつけのメッセージだと思っているよ。今色んな人と色んな所で、出会っているけど、君の事をずっと探しているのかもしれない。街の中で駅のホームで、君が薔薇の花を持ってそこにいるような気がするんだ。君にただ逢いたいからやっているのさ。」
 「あなた本当身勝手ね。」綾小路の声に答えるかのように、風で揺れている木々が囁いた。
 「そう言ってくれるのも君だけさ。君がいない日々を淡々と毎日過ごしているなんてまっぴらだ。」綾小路から一筋の涙が墓に零れた。
 「そんな目で見ないで。私はずっと見守ってるから。私の分まで生きて。」海鳥たちが夕焼け空へ飛んで行っている。もうそろそろ日が暮れる。
 「また逢いたくなったら来ていいかい。」それから、君は何も答えてくれなかった。最近よく思うんだ。生きる事って哀しい事を乗り越える事なんじゃないかなって。人間は弱い生き物だから、時々、酒や女やギャンブルか何かで紛らわそうとするけど、そんな事はどうでもいい。ただ君にもう一度逢いたいだけなのさ。
 暗闇が静寂と共にゆっくりと落ちてきた。
 今夜は特に寂しくなりそうだ。吸っていた煙草を捨て、車に乗り込んで街に戻った。

~愛を見つけて~

自分の部屋に戻ると疲れていたのかいつの間にか寝ていた。
 君と出会ったのは、五年ほど前になる。もうそんなになるのか。
 海が見える家に住んでいたね。
 俺が海で声をかける女の人から振られるのを見ていつも君は笑っていた。
 毎日毎日その姿を見に来ていたから、三日目くらいに声をかけたんだ。
 「そんなに笑う事ないだろう。」
 「だっておかしいんだもん。」
 「何がだよ。」
 「やり方がまずいんじゃないかな。」
 「ほっといてくれ。」
 「私はいつでもOKだけどね。」
 「何が?」
 「遊んであげてもイイって言ってるんだよ。」
 「本当?」
 「ウソ。」と言って君は無邪気に笑った。それから何度か海で話すようになり、俺は恋に落ちた。
 奇麗な海の景色がそうさせたのか。君の無邪気な姿に心惹かれたのか。今となってはどちらでもいい。
 恋をしたという事実さえあればいい。
 最初のデートで君はいなくなった。
 「どこで待ち合わせする?」と聞くと、君は「初めてだから思い出に残る場所がいい。」と言って、結局花屋になった。
 君らしいと言えばそれまでだが、まさか最初のデートでこんな事になるとは夢にも思わなかった。
 花屋の前で待ち合わせなんてしなければよかったと後悔した。
 君は、俺より先に待ち合わせの場所に来て、花を見ていた。
 その時、交差点で犬を引こうとした車がよけて花屋に車が突っ込んできた。
 君は除けようともせずにそのまま地面に倒れた。
 運命からは逃れられないと思っていたのだろうか。
 俺が来た時には、車も大破し、花屋もぐちゃぐちゃになっていた。
 ただ君の倒れた所だけ色とりどりの花が散らばってて、君は薔薇の花を一輪握りしめていた。
 薔薇が好きだったのか。花言葉の真実の愛を求めて握っていたのかは、分らない。そんな事より、君のその姿が天使に見えたんだ。
 ひかれ損なった犬が君の顔をペロペロと舐めていたけど、君は眼を閉じてどうやっても開かなかった。
 俺は君の体を持ち上げて一時の間抱きしめていた。
 忘れたと思った夢をまた見てしまった。
 墓参りをしたせいだと思った。こんな事じゃ君が浮かばれない。
 駄目だなと部屋の天井をぼんやり見ていた。

~恋のゲーム~

夕暮れ時、とある町外れにある橋の上、綾小路寿久は口笛を吹きながら歩いていた。鼠先輩というふざけた名前の歌手の曲を通りすがる車の音に合わせてリズムをとっていた。
 橋の途中で、黒髪のショートカットがよく似合う女の子が海の方を見ていた。綾小路が側を通ると、泣き声が聞こえた。綾小路は、泣かせる男とゴキブリがこの世の中で一番嫌いだったので話しかけた。
 「誰だい。君をそんなに泣かせるのは。」女の子は、振り返ると大きな目から涙が一筋溢れていた。その涙は、橋の緩やかな風に流された。
 「あなた誰?関係ないでしょ。」
 「いや。そんな事言わないでよ。名前は、綾小路で、一応男だし、涙を流す女に弱くてね。通りすがったのも何かの縁で、よかったら話しを聞かせてくれないかな。」沈黙が少しあり、橋の上から三隻の舟が見えた。
 「わかったわ。あなた結構いい人みたいだし、話したら楽になるかもね。泣いている理由は、他の女となんら変わらない理由よ。彼氏に女ができて、振られただけの事よ。もう彼氏なんかじゃないけどね。」
 「君みたいなかわいい子なら、男なんていくらでもいるさ。試しに俺なんかとどうかな?」一時考えて、彼女が腕を組みなおした。
 「私と賭けをして勝ったらいいわ。」
 「どんな賭けだい?」
 「今から、車がこの道を通るじゃない。もう夜の八時を回った所だから、あんまり来ないと思うけど、その車の色を当てるの。当たった方が勝ちで好きにしていいわ。」
 「それは面白そうだ。」
 「それじゃ、私から行くよ。赤色の車よ。」
 「俺は、ブルーだ。」綾小路がタバコに火をつけた。カチッというジッポの音が鳴り響き、煙を吐くと一台の車がやって来た。白い古びたトラックだった。
 「二人とも外れたわね。それじゃ二回戦は、また赤にするわ。」
 「赤ばかりで、好きな色なのかい?それじゃ俺は、今度は緑にするかな。」また一時すると車が来た。今度は、ジープが通った。色は緑だ。
 「やった。やった。当たったもんね。それじゃ約束どおり何をしてもらおうかな。キスなんてどうかな。」
 「仕方ないわね。」彼女は目を静かに閉じ、綾小路の頬に軽いキスをした。
 「よし、燃えてきた。もう一回ゲームしよう。」
 「どんな?」
 「ジャンケンで負けたら一枚ずつ脱いでいくっていうのはどうかな?」
 「馬鹿じゃないの。ついていけないわ。」
彼女は苦笑いをした。
 「それじゃもう一度熱いキスを。」
 「もう辞めたわ。一人でしなさい。」
 「そんな。今度は唇にしようよ。」橋の上で無邪気に言っている綾小路の姿が楽しくて、いつの間にか、振られた事などどうでもよくなっていた。
 二人の姿を追うように赤い消防車がサイレンを鳴らして通って行った。
 「次は、私の勝ちの様ね。何をしてもらおうかな。」綾小路はドキッとして逃げるようにその場を去った。

~女子高生編~

 学校をさぼるなんて私らしくない。通学途中で、足が止まった。父親の期待を背負って、近所で有名な進学高校に入ったのはいいが、私より頭が良い友達と話が合わなくなり、うまくいかなくなった。そして、今日は期末テストで、高校2年生では大事なテストだった。昨日は徹夜で、勉強をした。クラスで中間くらいの成績では、いい大学に入れない。がんばって勉強してるが、無理がある。
 学校に向かう途中、他の生徒の団体が、教科書を読みながら学校に向かっているのを見て嫌気がさした。お前達は二宮金次郎かよと思って、学校の反対方向に早足で向かった。
 家に帰るわけにもいかない。ボーっと途中にある橋の下でゆっくりと川を流れるのを見ていた。一時してると、リアカーを押しながら、「いーしあきいもー。アツアツのお芋はいかがですかー」と聞こえてきた。久しぶりに聞いたなこの音と振り返ると、アルマーニのジャケットを着ている男が芋を買っていた。
 「おじさん。今日も寒いね。お芋久しぶりに聞いちゃって、懐かしかったよ~。ウフェフェ。」ジャケットのポケットから小銭を出していた。
 「ありがとうね。あいよ。」と言っておじさんが芋を手渡していた。美味しそうだなと思って、横目で見ていると、その男が近づいてきて隣に座った。
 「きみ~。学校は行かなくていいの?制服でさぼっていると変な男から声かけられちゃうよ。ウフェウフェ。てか俺が変な男か。がははは。」と大きな声で笑った。
 「なんですか。あなたは。」
 「俺、名前は綾小路だよ。あっちゃんと呼んでね~。いつもここの川を見ながらイモ食べるのが好きなんだよね。なんか冬が来たなーて感じがするから。」
 「そうなんですか。」
 「てか寒くない?芋半分食べる?」綾小路が、半分に割って渡した。
 「アツっ。ありがとうございます。」女子高生は、少し食べた。その後に「おいしい。」と呟いた。
 「でしょ~。冬は芋食べなきゃね~。」北風が吹いていて、近くの枯れ木が揺れている。川の流れも早くなっている。
 「芋も食べたし、こんなとこで何してるの?学校休んじゃったの?」
 「学校、生まれて初めてさぼったんです。親から進学校へ行けと言われて、もうテストもうんざり。このまま学校に行く意味があるのかなーて思って、川を見てたらどうでもよくなちゃって。」
 「そうなんだ。学生さんは大変だね。だけど、勉強ばかりが人生じゃないと思うよ。たまには、いいんじゃないかな。こんな風に芋食べながら川を見て、冬の風を感じて、来年もがんばろうって思えば。」綾小路が石を拾って川に投げた。チョンチョンチョンと波紋が出来ながら向こう岸まで、石が渡った。
 「すごーい。今のどうやったんですか。」
 「やってみる?」女子高生は石を拾ってやってみたが、一回だけしか波紋ができなくてすぐ沈んだ。
 「もう少しアンダースローで、なげてゆっくり素早く投げ込むんだよ。」と言って綾小路が投げると、また、反対の方向まで沈むことなくついた。
 「これおもしろーい。はじめてしましたよ。」女子高生は、笑顔でまた石を投げた。すると、向こう岸まで石が渡った。
 「やったじゃん。なんでもそうやって練習すれば、出来るようになるって。勉強もそうなんじゃない。焦ることないよ。君は君のままで、がんばればいいじゃないかな。」
 「ありがとうございます。なんか元気が出ました。今から学校に行ってきます。」
 「えーそうなの。今からカラオケかなんか行こうかなと思っていたけど、まーいいか。君がそう思えたならいいじゃない。」女子高生は、スキップをしながら学校に向かった。
 女子高生のかわいい後姿を見ながら、連絡先だけでも交換しておけばよかったなと後悔をして綾小路もその場を後にした。
酒井清光
作家:キーボー
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