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~愛を見つけて~

自分の部屋に戻ると疲れていたのかいつの間にか寝ていた。
 君と出会ったのは、五年ほど前になる。もうそんなになるのか。
 海が見える家に住んでいたね。
 俺が海で声をかける女の人から振られるのを見ていつも君は笑っていた。
 毎日毎日その姿を見に来ていたから、三日目くらいに声をかけたんだ。
 「そんなに笑う事ないだろう。」
 「だっておかしいんだもん。」
 「何がだよ。」
 「やり方がまずいんじゃないかな。」
 「ほっといてくれ。」
 「私はいつでもOKだけどね。」
 「何が?」
 「遊んであげてもイイって言ってるんだよ。」
 「本当?」
 「ウソ。」と言って君は無邪気に笑った。それから何度か海で話すようになり、俺は恋に落ちた。
 奇麗な海の景色がそうさせたのか。君の無邪気な姿に心惹かれたのか。今となってはどちらでもいい。
 恋をしたという事実さえあればいい。
 最初のデートで君はいなくなった。
 「どこで待ち合わせする?」と聞くと、君は「初めてだから思い出に残る場所がいい。」と言って、結局花屋になった。
 君らしいと言えばそれまでだが、まさか最初のデートでこんな事になるとは夢にも思わなかった。
 花屋の前で待ち合わせなんてしなければよかったと後悔した。
 君は、俺より先に待ち合わせの場所に来て、花を見ていた。
 その時、交差点で犬を引こうとした車がよけて花屋に車が突っ込んできた。
 君は除けようともせずにそのまま地面に倒れた。
 運命からは逃れられないと思っていたのだろうか。
 俺が来た時には、車も大破し、花屋もぐちゃぐちゃになっていた。
 ただ君の倒れた所だけ色とりどりの花が散らばってて、君は薔薇の花を一輪握りしめていた。
 薔薇が好きだったのか。花言葉の真実の愛を求めて握っていたのかは、分らない。そんな事より、君のその姿が天使に見えたんだ。
 ひかれ損なった犬が君の顔をペロペロと舐めていたけど、君は眼を閉じてどうやっても開かなかった。
 俺は君の体を持ち上げて一時の間抱きしめていた。
 忘れたと思った夢をまた見てしまった。
 墓参りをしたせいだと思った。こんな事じゃ君が浮かばれない。
 駄目だなと部屋の天井をぼんやり見ていた。

~恋のゲーム~

夕暮れ時、とある町外れにある橋の上、綾小路寿久は口笛を吹きながら歩いていた。鼠先輩というふざけた名前の歌手の曲を通りすがる車の音に合わせてリズムをとっていた。
 橋の途中で、黒髪のショートカットがよく似合う女の子が海の方を見ていた。綾小路が側を通ると、泣き声が聞こえた。綾小路は、泣かせる男とゴキブリがこの世の中で一番嫌いだったので話しかけた。
 「誰だい。君をそんなに泣かせるのは。」女の子は、振り返ると大きな目から涙が一筋溢れていた。その涙は、橋の緩やかな風に流された。
 「あなた誰?関係ないでしょ。」
 「いや。そんな事言わないでよ。名前は、綾小路で、一応男だし、涙を流す女に弱くてね。通りすがったのも何かの縁で、よかったら話しを聞かせてくれないかな。」沈黙が少しあり、橋の上から三隻の舟が見えた。
 「わかったわ。あなた結構いい人みたいだし、話したら楽になるかもね。泣いている理由は、他の女となんら変わらない理由よ。彼氏に女ができて、振られただけの事よ。もう彼氏なんかじゃないけどね。」
 「君みたいなかわいい子なら、男なんていくらでもいるさ。試しに俺なんかとどうかな?」一時考えて、彼女が腕を組みなおした。
 「私と賭けをして勝ったらいいわ。」
 「どんな賭けだい?」
 「今から、車がこの道を通るじゃない。もう夜の八時を回った所だから、あんまり来ないと思うけど、その車の色を当てるの。当たった方が勝ちで好きにしていいわ。」
 「それは面白そうだ。」
 「それじゃ、私から行くよ。赤色の車よ。」
 「俺は、ブルーだ。」綾小路がタバコに火をつけた。カチッというジッポの音が鳴り響き、煙を吐くと一台の車がやって来た。白い古びたトラックだった。
 「二人とも外れたわね。それじゃ二回戦は、また赤にするわ。」
 「赤ばかりで、好きな色なのかい?それじゃ俺は、今度は緑にするかな。」また一時すると車が来た。今度は、ジープが通った。色は緑だ。
 「やった。やった。当たったもんね。それじゃ約束どおり何をしてもらおうかな。キスなんてどうかな。」
 「仕方ないわね。」彼女は目を静かに閉じ、綾小路の頬に軽いキスをした。
 「よし、燃えてきた。もう一回ゲームしよう。」
 「どんな?」
 「ジャンケンで負けたら一枚ずつ脱いでいくっていうのはどうかな?」
 「馬鹿じゃないの。ついていけないわ。」
彼女は苦笑いをした。
 「それじゃもう一度熱いキスを。」
 「もう辞めたわ。一人でしなさい。」
 「そんな。今度は唇にしようよ。」橋の上で無邪気に言っている綾小路の姿が楽しくて、いつの間にか、振られた事などどうでもよくなっていた。
 二人の姿を追うように赤い消防車がサイレンを鳴らして通って行った。
 「次は、私の勝ちの様ね。何をしてもらおうかな。」綾小路はドキッとして逃げるようにその場を去った。

~女子高生編~

 学校をさぼるなんて私らしくない。通学途中で、足が止まった。父親の期待を背負って、近所で有名な進学高校に入ったのはいいが、私より頭が良い友達と話が合わなくなり、うまくいかなくなった。そして、今日は期末テストで、高校2年生では大事なテストだった。昨日は徹夜で、勉強をした。クラスで中間くらいの成績では、いい大学に入れない。がんばって勉強してるが、無理がある。
 学校に向かう途中、他の生徒の団体が、教科書を読みながら学校に向かっているのを見て嫌気がさした。お前達は二宮金次郎かよと思って、学校の反対方向に早足で向かった。
 家に帰るわけにもいかない。ボーっと途中にある橋の下でゆっくりと川を流れるのを見ていた。一時してると、リアカーを押しながら、「いーしあきいもー。アツアツのお芋はいかがですかー」と聞こえてきた。久しぶりに聞いたなこの音と振り返ると、アルマーニのジャケットを着ている男が芋を買っていた。
 「おじさん。今日も寒いね。お芋久しぶりに聞いちゃって、懐かしかったよ~。ウフェフェ。」ジャケットのポケットから小銭を出していた。
 「ありがとうね。あいよ。」と言っておじさんが芋を手渡していた。美味しそうだなと思って、横目で見ていると、その男が近づいてきて隣に座った。
 「きみ~。学校は行かなくていいの?制服でさぼっていると変な男から声かけられちゃうよ。ウフェウフェ。てか俺が変な男か。がははは。」と大きな声で笑った。
 「なんですか。あなたは。」
 「俺、名前は綾小路だよ。あっちゃんと呼んでね~。いつもここの川を見ながらイモ食べるのが好きなんだよね。なんか冬が来たなーて感じがするから。」
 「そうなんですか。」
 「てか寒くない?芋半分食べる?」綾小路が、半分に割って渡した。
 「アツっ。ありがとうございます。」女子高生は、少し食べた。その後に「おいしい。」と呟いた。
 「でしょ~。冬は芋食べなきゃね~。」北風が吹いていて、近くの枯れ木が揺れている。川の流れも早くなっている。
 「芋も食べたし、こんなとこで何してるの?学校休んじゃったの?」
 「学校、生まれて初めてさぼったんです。親から進学校へ行けと言われて、もうテストもうんざり。このまま学校に行く意味があるのかなーて思って、川を見てたらどうでもよくなちゃって。」
 「そうなんだ。学生さんは大変だね。だけど、勉強ばかりが人生じゃないと思うよ。たまには、いいんじゃないかな。こんな風に芋食べながら川を見て、冬の風を感じて、来年もがんばろうって思えば。」綾小路が石を拾って川に投げた。チョンチョンチョンと波紋が出来ながら向こう岸まで、石が渡った。
 「すごーい。今のどうやったんですか。」
 「やってみる?」女子高生は石を拾ってやってみたが、一回だけしか波紋ができなくてすぐ沈んだ。
 「もう少しアンダースローで、なげてゆっくり素早く投げ込むんだよ。」と言って綾小路が投げると、また、反対の方向まで沈むことなくついた。
 「これおもしろーい。はじめてしましたよ。」女子高生は、笑顔でまた石を投げた。すると、向こう岸まで石が渡った。
 「やったじゃん。なんでもそうやって練習すれば、出来るようになるって。勉強もそうなんじゃない。焦ることないよ。君は君のままで、がんばればいいじゃないかな。」
 「ありがとうございます。なんか元気が出ました。今から学校に行ってきます。」
 「えーそうなの。今からカラオケかなんか行こうかなと思っていたけど、まーいいか。君がそう思えたならいいじゃない。」女子高生は、スキップをしながら学校に向かった。
 女子高生のかわいい後姿を見ながら、連絡先だけでも交換しておけばよかったなと後悔をして綾小路もその場を後にした。

~聖なる夜編~

クリスマスイブ、ケーキ屋の店内は女性客が多く、賑やかで、カウンターの上には、小さなクリスマスツリーが飾られてある。
 ラジオからは、BENIが歌う英語バージョンのクリスマスイブが流れている。山下達郎の声も好きだけど、BENIもいいなと思って歌を聴いていると、今から会う彼氏の顔を想像していた。聖なる夜を一緒に過ごすのだ。
 並んでいる順番が回ってきて、まつ毛がクリッとした目の大きい愛想のいい店員からケーキを受け取る。その時にロウソクをたくさんもらった。
 ケーキ屋を出ると、肌に風があたり、寒さが胸にしみた。霙のような小雨が降っていた。この小雨が雪になるといいなと思いながら、歩いて彼氏の家を目指す。
 目の前を父親と母親と女の子が歩いている。私もいつかこんな家族になれたらいいなと思った。
 彼氏の二階建てアパートへとついた。彼氏の部屋は、201号室だ。二階の階段を上がる。上がる時錆びついているのか。ギィギィと音が鳴った。201号室のインターホンを押す。ワクワクと胸がはずむ。彼氏がゴソゴソと出てきて、ドアを開けた。
 「ケーキ買ってきたけど、一緒に食べようかなと思って。」満面の笑みで言うと、彼氏はしかめた様な顔をして「ちょっと。今、まずい。」と言った。
 「だれか来たのー?」と部屋の奥から女の人の声が聞こえてきて、彼氏が後ろ側でドアを急いで閉めた。
 「そういう事なんだ。」
 「えっ、どういう事?今の女の人は誰?」言わなくても分かっている。知らない女がクリスマスの日にいるっていう事は、そういう事なんだろう。目から涙が一筋流れそうになるのを我慢した。
 「すまない。」
 「ずっと前からケーキ予約してさ。今日、すごく楽しみにしてたんだよ。」
 「本当にすまない。」
 「私の事、嫌いになったの。」
 「いや、そういうわけじゃないんだけど。たまたまっていうか。なんていうか。」
 「もう、いい。言い訳なんて聞きたくもない。私たち今日で終わりにしよう。」彼氏にケーキの箱を投げつけた。頭に当たり、箱が宙に舞った。中身はグチャグチャだろう。
 「すまない。」彼氏がひたすら頭を下げている。喚くことも、泣くことも、怒ることも出来ない。ただ、じっと唇を噛みしめていた。
 「じゃ、私いくね。彼女と仲良くして、待ってるみたいだから。」
 「本当すまない。」寄りにもよって、なんで今日なんだろう。謝るくらいならなんで、そんな事をするんだろう。走って、階段を駆け下り、近くの電信柱の所で、震える手を握り、声を押し殺して泣いた。こんな寒い夜に、私はどうすればいいのだろう。
 「鮮やかに恋して、ニンジャリバンバン、bloom bloom bloom 花びらも舞う。飛んでけニンジャリバンバン」と歌声がどこからか聞こえてきた。
 「何?」と振り返ると、バーバリーのロングコートを来た長身の男が目の前に立っていた。
 「いやー。やっぱりキャリーパフパフは、いいね。」と笑顔で言った。
 「えっどういう事。」キャリーぱみゅぱみゅだし。いきなり話しかけられて戸惑った。
 「なんで泣いてるのか知らないけど、こんな聖なる夜に何があったの?」
 「いや、ちょっと。なんでもないです。」と答えた。
 「別に怪しい男じゃないよ。」と言うと、コートの中から、シュークリームを取りだして、「食べる?」と言った。
 「いらないです。寒いし。」この変な男は何なのと思った。
 「ここ寒いから、どこか温かいとこ行かない?」シュークリームをまた、ポケットの中に閉まった。彼氏の嫌な顔を思い出し、こんな日は、家で一人で過ごすのも忍びなく、ついて行っても別にいいかなと思った。
 「それでは、ファミレスにでも行きますか?」
 「オッケイ。」指で輪を作り、ほっぺに持っていき、芸能人のローラの様な仕草をした。別にかわいくないしと思った。
 深夜のファミレスは、おじさんとおばさんのカップルと若いカップルが2組いるだけだった。
 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」と店員が言うと、男が小声でピースじゃないよと言って、「二名様です。」と言った。店員は愛想笑いをして、席に案内した。
 席に座ると、メニューを取り出して、「何食べる?」と聞いた。
 「食欲ないから、ポテトとドリンクバーでいいです。」
 「いいねー。」と答えて、「俺、チョコレートパフェ食べたいなぁ。ウフェウフェ。」と笑顔で呟いた。
 「食べたいなら食べたらいいですよ。」男がこんな寒い日にパフェを食べるという事が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
 店員を呼んで、注文をして、ドリンクバーでジュースをついで、一息つくと「で、今日はどうしたの?」と改めて聞いた。
 「実は、今日彼氏と一緒に過ごすはずが、女が部屋にいて、ダメになったんですよ。」
 「そうなの。女がいてって、浮気されてたんだ。」
 「そうなんですよ。もう、最悪で、楽しみにしてたケーキを投げつけてやりました。」
 「それじゃー。彼氏はケーキまみれになったの。」
 「いや、箱を投げつけただけです。」
 「俺だったら、箱からケーキを取り出して、顔面に投げつけるけどね。」
 「あー、そうすればよかった。」彼氏の顔がケーキまみれになる事を想像するとまた笑いが込み上げてきた。
 「そうやって笑った方がかわいいよ。クリスマスなんだしね。」
 「なんか、私励まされてるんですね。ありがとうございます。」
 「いやー。別にいいよ。元気になったなら嬉しいよ。」
 「そういえば、名前なんて言うんですか?」
 「俺?名前は、綾小路寿久。あっちゃんと呼んでね。」
 「変な名前。」
 「それってどういう意味?親がつけてくれた名前なんだけどね。」店内に二人の笑い声が響いた。外は、いつの間にか小雨から白い雪に変わり、フワフワと降っている。
 「わー雪が降ってる。今日は、ホワイトクリスマスですね。」窓の外を見た彼女が言うと
 「まだ言ってなかったね。メリークリスマス。」と答えて、綾小路は手から薔薇の花を一輪取り出した。
酒井清光
作家:キーボー
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