神様、お願い

 投げ上げられた小筒は、入り口から1メートルほどの高さに飛び出してきた。亜紀は、両手で素早くキャッチした。「ヤッター、ママ、バッチシ、早く、上がってきて」宝物を掘り当てた探検家にでもなった気分のアンナは、ドヤ顔で上がってきた。ヒョイと右手でシェルターのドアを閉じると二人に声をかけた。「カーペットを敷いて、テーブルを元に戻すのよ。さあ」胸を躍らせた亜紀も小さな手でテーブルの端っこを持って、手伝った。さやかとアンナがテーブルに着くと亜紀は、椅子の上に置いていた小筒をテーブルの中央に置いた。亜紀が問いかけた。「誰が開けるの?」さやかもアンナもじっと小筒を見つめていた。アンナが、返事した。「誰って、さやか、開けなさいよ。シェルターを知っていたのは、さやかなんだから」さやかは、気味が悪くて、開けられそうになかった。

 

 さやかは、何が入っているかみんなで考えてみることにした。「そう、焦らずに、何が入っているか、あてっこしない?カラカラって、音が鳴ったじゃない。それをヒントに考えてみようじゃない」亜紀が、元気よく返事した。「やるやる。これから、みんな名探偵コナンってわけね。小筒は軽かったでしょ、しかも、カラカラって音が鳴った。中に入っているのは、ちっちゃなもの。しかも、高価なものに違いない。う~~、パパからのプレゼントでしょ。だれへのプレゼントなのか?ママか?それとも、亜紀か?それとも、拓実か?いや、さやかおねえちゃんかも?ア~~、ムズイ。ヤッパ、ママへのプレゼントだと思う。ママが喜ぶものといえば、何か?あ、指輪。そう、ダイヤの指輪だと思う」

 

 さやかが、パチパチと拍手した。「さすが、亜紀ちゃん。いい線行ってると思う。それでは、アンナの推理は?」アンナは、プレゼントとは思えなかった。「そうね~、亜紀が言うようにちっちゃなものよね。しかも、カラカラって音が鳴るということは、ちょっと硬いものじゃない?拓也が残すものといえば、拓也の形見かも。拓也の形見でちっちゃなものといえば何か?あ、みんなに伝えたい何かをかき込んだメモリーカード。きっとそうよ。次は、さやかの番。どうぞ」さやかは、アンナと同じ考えだったが、同じでは、面白くないと思い、何かひらめかないかと首をかしげて考え込んだ。アンナがせかした。「早く、言いなさいよ」

 

 

 さやかは、腕を組み、ウ~~と唸り声を上げた。「小さくて、ちょっと硬くて、拓也の思いが込められたものよね。拓也だから、凡人がするプレゼントじゃないわね。一般人が、高価と思うものじゃなくて、私たちにとって、貴重なものとはなにか?遺言みたいなものか?手紙だったら、ちっちゃくないだろうし。拓也が大切にしていたものかも。いや、シェルターにあったわけだから、緊急避難と関係あるもの?あ、戦争と関係あるものかも?イヤ~、やっぱ違う。あ、極秘のマイクロフィルムかも。何か、重要なことが写っているフィルム。そう、マイクロフィルム」意見を述べ終えた三人は、顔を見合わせた。アンナが、つぶやいた。「誰が当たっているかは、開けてのお楽しみ。さやか、開けなよ」さやかは、開けると白い煙が舞い上がってくるんじゃないかとビビってしまった。

 

 さやかは、両手を握りしめ、じっと見つめるばかりで、手に取ろうとしなかった。「さやか、何やってるのよ。さあ、開けなよ」さやかは、目じりを下げて、つぶやいた。「アンナに任せる。アンナ、開けて」臆病者のさやかにあきれたアンナは、小筒を手に取った。「それじゃ、開けるわよ。いい」アンナは、小筒の上蓋を引っ張り上げるとポンという音が鳴った。亜紀は、即座に、覗き込んだ。亜紀の目は、点になり、顔を持ち上げた。「なにこれ?」さやかも覗き込んだ。さやかも怪訝な顔でアンナに声をかけた。「なんだろね~。小さな巻物みたいだけど」アンナは、親指と人差し指で3センチほどの長さの巻物をつまみ上げた。そして、しばらく見入ってしまった。「確かに、巻物ね。忍術の虎の巻かも?」さやかは、クスッと笑い声をあげた。さやかは、巻物に目を近づけた。「まさか、でも、何の巻物だろう?とにかく見てみましょう」

 

 アンナは、指先が器用な亜紀に開けさせることにした。アンナは亜紀に声をかけた。「亜紀、手を出して」亜紀は、右手の掌を上に向けて差し出した。アンナは、時限爆弾を置くかのようにそっと亜紀の掌の中央に置いた。「亜紀、そっと紐をほどいてみて。破らないようにね」亜紀は、左手の親指と人差し指で、紐の一方をつかみ上げた。次に、右手の指先でもう一方の紐の先をつまみ、紐を左右に引っ張った。紐は、切れずに解けた。さらに、紐をゆっくり緩め、完全に紐を巻物から取り去った。アンナが、声をかけた。「上手じゃない。何が書いてあるか?楽しみね。広げてみて」亜紀は、小さな巻物をテーブルの上において、巻物の紙が破れないようにゆっくりと転がしながら開いていった。すると、奇妙な文字が現れた。アンナは、へんてこりんな文字を見て顔をしかめた。「なによ、この文字」

 

 

 

 さやかも顔をしかめてつぶやいた。「英語じゃないことは確かね。亜紀ちゃん、読める?」亜紀もしかめっ面になって返事した。「わかんない。こんな文字初めて見る。なんとなく、アラビア文字に似てるような」さやかは、しばらく文字を見つめた。「アラビア文字のような、サンスクリット文字のような、ヘブライ文字のような、そんな感じね」アンナが、がっかりしたようなため息交じりの言葉をつぶやいた。「詰まんないの。拓也ったら、バッカじゃない。こんな、訳の分からないものを小筒に入れておくなんて。てっきり、ダイヤの指輪だと思ったのに。ア~~ア、ついてないの」さやかは、書いてある内容に興味がわいてきた。「拓也のことだから、全く、無意味なものじゃないわよ。きっと、何か重要なことが書いてあると思うよ。どんなことが書いてあるんだろう。誰か、読める人はいないかしら?」

 

 アンナが、吐き捨てるように言った。「誰も読めっこないわよ。こんなへんてこりんな文字。まあ、考古学者だったら読めるかもね?でも、そんな知り合いいないし~~」亜紀も何が書いてあるか興味がわいてきた。「誰か、読める人いないかな~~。AIティーチャーなら、読めるかも?」さやかが、笑顔で返事した。「それは、名案ね。早速、読んでもらいなさい」アンナが、即座に、口をはさんだ。「それは、ダメよ。二人とも、バッカじゃないの?シェルターの隅っこに隠してあったのよ。ということは、超極秘ということじゃない。我々だけの秘密ってことよ。AIなんか知られたら、宝を横取りされるわよ。とにかく、我々だけで解読するのよ」亜紀は、首をかしげて返事した。「でも、ママ。この文字は、何語の文字かもわからないし、果たして解読できるかどうか?」さやかも同感だった。「私たちだけでは、ムリよ。誰かに解読してもらわないと」

 

 アンナは、二人の意見を聞いて、解読する気持ちがなえてしまった。「そうね。こんな文字、解読できるはずないか。いったい、どうすりゃいいの?拓也のヤツ、とんでもなもの残しやがって。ア~~いやになっちゃう」三人は、途方に暮れていたが、亜紀が、ポンと両手を打った。「もしかしたら、お兄ちゃんだったら、解読できるかも。パパと同じ、数学の天才なんだから」アンナが目を丸くして応答した。「あのブサイク。まあ、そうね~、ブサイクを仲間いれるってことか。それも悪くないか。今のところ、私たちだけでは、どうにもならないし。さやかは、どう思う?」さやかは、笑顔で返事した。「それは、名案じゃない。鳥羽君だったら、いろいろと調べてくれそうじゃない。きっと、解読できると思う。鳥羽君を仲間に入れようよ」三人は、顔を見合わせて、うなずいた。

 

 

              転校生

 

 その日の夕方、明菜が福岡市立H中学からの転校生、時仁(ときひと)を連れて遊びに来ることになった。時仁は、明菜の家の200メートルほど南側で、かつて住んでいたヒフミン家の北側寄りの隣に引っ越してきた。時仁は曽根に引っ越してきたちょっと変わった男子ということだった。午後2時過ぎに明菜と時仁がやってきた。明菜がインターホンを鳴らすと亜紀はスキップしながら玄関に向かった。「どうぞ」明菜は、ドアを開くと笑顔で挨拶した。「ハロ~~」亜紀も元気よくあいさつした。「ハロ~~、いらっしゃい。お友達は?」明菜が玄関内に入ると後から浅黒い顔の男子が入ってきた。「こんにちは。九条時仁(くじょうときひと)といいます。よろしく」亜紀もあいさつした。「初めまして、関亜紀です。よろしく。上がってください」

 

 亜紀は、二人をキッチンに案内した。二人がテーブルに着くと亜紀は、グラスをテーブルに並べ、ペットボトルのファンタオレンジをフレッジから取り出し、グラスに注いだ。「はいどうぞ」時仁は、笑顔でお礼を言った。「ありがとう。今年は、猛暑だよな。俺なんか、一日2回、シャワー浴びてるんだ。ここに来るまでに、シャツは、汗でびっしょりだ。全く、いやになるよ」亜紀も今年の猛暑には、うんざりしていた。「ほんと、暑いね。大雨の次は、猛暑。ここ数年、異常気象じゃない?最悪なことに、コロナパンデミックじゃない。マスクにフェイスシールドで、勉強しろっていうし。突然、一か月以上のコロナ休校でしょ、休み明けからは、授業の遅れを取り戻すために、毎日6時限の授業。やってられないよ。楽しみにしていた夏休みは、スズメの涙のような夏休み。ア~~ムカつく」時仁が、ワハハと大きな笑い声をあげた。「イヤ~~、まったく。亜紀さんは、見かけによらず、おもろいな~」

 

 明菜がうなずいた。「まったく、いやになっちゃう。早く、コロナ、消えてほしい」時仁が、話をつないだ。「まったく、もう、うんざりだ。毎日、毎日、ニュースで感染者の数を叫ぶし、いい加減にしろってんだ。気が変になる」明菜が、時仁に笑顔を向けて話し始めた。「時仁君。早く、ワクチンができるといいね」時仁は、即座に返事した。「ワクチンね~。十分な検証をしていないロシアのワクチンは、お断りだけどね」亜紀が話を補った。「そもそも、RNAウイルスのワクチンって、ほとんど、効果がないの。インフルのワクチンも、お守りみたいなもの。政府は、バカ騒ぎしてるけど、コロナって、風邪となじ。メディアが最悪のウイルスみたいに報道するのが間違。感染しても、通常の免疫力があれば、ほとんどの人は、重症にはならないんだから」

 

春日信彦
作家:春日信彦
神様、お願い
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