神様、お願い

              転校生

 

 その日の夕方、明菜が福岡市立H中学からの転校生、時仁(ときひと)を連れて遊びに来ることになった。時仁は、明菜の家の200メートルほど南側で、かつて住んでいたヒフミン家の北側寄りの隣に引っ越してきた。時仁は曽根に引っ越してきたちょっと変わった男子ということだった。午後2時過ぎに明菜と時仁がやってきた。明菜がインターホンを鳴らすと亜紀はスキップしながら玄関に向かった。「どうぞ」明菜は、ドアを開くと笑顔で挨拶した。「ハロ~~」亜紀も元気よくあいさつした。「ハロ~~、いらっしゃい。お友達は?」明菜が玄関内に入ると後から浅黒い顔の男子が入ってきた。「こんにちは。九条時仁(くじょうときひと)といいます。よろしく」亜紀もあいさつした。「初めまして、関亜紀です。よろしく。上がってください」

 

 亜紀は、二人をキッチンに案内した。二人がテーブルに着くと亜紀は、グラスをテーブルに並べ、ペットボトルのファンタオレンジをフレッジから取り出し、グラスに注いだ。「はいどうぞ」時仁は、笑顔でお礼を言った。「ありがとう。今年は、猛暑だよな。俺なんか、一日2回、シャワー浴びてるんだ。ここに来るまでに、シャツは、汗でびっしょりだ。全く、いやになるよ」亜紀も今年の猛暑には、うんざりしていた。「ほんと、暑いね。大雨の次は、猛暑。ここ数年、異常気象じゃない?最悪なことに、コロナパンデミックじゃない。マスクにフェイスシールドで、勉強しろっていうし。突然、一か月以上のコロナ休校でしょ、休み明けからは、授業の遅れを取り戻すために、毎日6時限の授業。やってられないよ。楽しみにしていた夏休みは、スズメの涙のような夏休み。ア~~ムカつく」時仁が、ワハハと大きな笑い声をあげた。「イヤ~~、まったく。亜紀さんは、見かけによらず、おもろいな~」

 

 明菜がうなずいた。「まったく、いやになっちゃう。早く、コロナ、消えてほしい」時仁が、話をつないだ。「まったく、もう、うんざりだ。毎日、毎日、ニュースで感染者の数を叫ぶし、いい加減にしろってんだ。気が変になる」明菜が、時仁に笑顔を向けて話し始めた。「時仁君。早く、ワクチンができるといいね」時仁は、即座に返事した。「ワクチンね~。十分な検証をしていないロシアのワクチンは、お断りだけどね」亜紀が話を補った。「そもそも、RNAウイルスのワクチンって、ほとんど、効果がないの。インフルのワクチンも、お守りみたいなもの。政府は、バカ騒ぎしてるけど、コロナって、風邪となじ。メディアが最悪のウイルスみたいに報道するのが間違。感染しても、通常の免疫力があれば、ほとんどの人は、重症にはならないんだから」

 

 亜紀は、一呼吸してさらに話を続けた。「自粛、自粛って、叫んだかと思えば、Go To キャンペーンでしょ。矛盾してない。政府って、頭おかしいおかしいんじゃない」明菜も大きくうなずいて応答じた。「そうよ、そうよ、政府って、絶対、頭おかしい。Go Toキャンペーンやって、感染者が増大したじゃない。何のために、自粛、頑張ったの。休校ばっかで、授業は遅れるし、受験生なんて、踏んだり蹴ったりじゃない。もっと、学生のことを考えてほしいよね」時仁が、大きくうなずいた。「そうだよ。最悪なことに、バイトができなくて、授業料や下宿代が払えず、退学した大学生がいるというじゃないか」

 

 亜紀が、目を吊り上げて応答いた。「何考えてるのよ、政府は。多くの中小企業が倒産し、そのうえ、将来を悲観して、自殺した経営者がいると聞くじゃない。コロナなんて、インフルと同じなんだから、医療体制をきちんとやってれば、こんなことになっていなかったのよ」明菜が、悲しげな表情で応答した。「ア~~、もう、日本人はダメかも。あとは、神様にお願いする以外ない。神様、お願いです、日本を助けてください」時仁も同感だった。「いまの政府じゃ、ダメだ。藤原氏の氏神、春日大明神にお願いしよう。それと、天皇制にして、藤原氏が政治をやれば、きっと、日本は復興する」亜紀が、怪訝な表情で応答した。「え、天皇制は、わかるけど、藤原氏って何よ。藤原氏って、平安時代の話じゃない」

 

 時仁は、マジな顔つきで返事した。「いやいや、藤原氏は、今も、健在さ。五摂家に任せていれば、こんな無様な政治になっていないさ。でも、今のところ、五摂家の権力は、今一つだからな。情けないよ。俺が、頑張る以外ない。きっと、かつての五摂家の隆盛を取り戻してやる。よし、頑張るぞ」明菜が、尋ねた。「時仁君は、五摂家なの?」ドヤ顔の時仁は、返事した。「もちろんさ、近衛家、九条家、二条家、一条家、鷹司家(たかつかさけ)、これが五摂家さ。俺は、九条家。きっと、摂政になってやる。頑張るぞ~~」亜紀が、ケラケラ笑い声を上げた。「ちょっと、今時、摂政はないでしょ。目指すんなら、総理大臣でしょ。時仁君って、平安時代の人みたい」明菜が、ちょっと変わっているといっていた意味がようやくつかめた。

 

 亜紀は芸能活動ができない明菜を励ますことにした。。「明菜ちゃん、せっかくアイドルになれたのにライブができなくなって残念ね。こうなったら、アイドルユーチューバーになれば?」明菜が返事した。「そうなのよね。ついてないのよ。このままじゃ、旬が過ぎて、アイドル人生終わりかも?ユーチューバーね~、うまくいくかな~。やってみるか?」時仁は、励ました。「明菜は、チョ~カワイ~。登録者100万人突破、間違いなし。チャレンジあるのみ」亜紀も励ました。「明菜ちゃんだったら、きっと、世界的アイドルになれると思う。やりなさいよ。ガンバ」明菜は、ユーチューバーをやってみることにした。「よし、やってみる。応援してね」亜紀と時仁は、大きな声でエールを送った。「ファイト、アキナ~~!」

 

 亜紀は、ちょっと風変わりな時仁に興味がわいてきた。「時仁君、部活は?」時仁は、目を輝かせて返事した。「野球部。それと、歴史部。どちらかというと、歴史部が好きなんだ。今、神宝がどこにあるか、調べてるんだ。きっと、日本のどこかにあるはずなんだ」亜紀は、尋ねた。「神宝って、三種の神器のこと?」時仁は、即座に返事した。「日本の今ある三種の神器は、全部形代さ。第10代崇神(すじん)天皇が形代を山ほど作ったんだ。本物のありかは、だれも知らない。俺は、三種の神器には興味がない。俺が調査しているのは、ソロモンの秘宝なんだ。南ユダ王国がバビロニアに攻撃される前に、ユダ王族とレビ人がタルシン船に乗って、日の出国の日本に運んできた可能性があるんだ。俺が探し当てたいのは、ソロモンの秘宝の一つ”アロンの杖”なんだ。この杖は、奇跡を起こすことができるんだ。きっと探し出して、俺は、天下を取る」

 

 時仁は、ちょっと変わっているとは思ったが、話を聞けば聞くほど、かなり変わってるように思えてきた。「それで、何か手掛かりがつかめたの?」時仁は、首をかしげて返事した。「いや、今のところ、手掛かりなし。でも、きっと、日本のどこかにあるはずなんだ。ちょっと、気にかかっているところは、剣山(つるぎさん)、高野山(こうやさん)、六甲山(ろっこうさん)、なんだ。あくまでも、直感なんなんだけどね。あまりにも、漠然としているから、一生かかっても、見つからないかもな。でも、俺のロマンってやつさ」確かに夢物語のように思えたが、生き生きとした表情を見せる時仁が、亜紀にはかっこよく見えた。「男のロマンね、いいじゃない。好きよ、そうゆうの」明菜も草食系の男子と違った情熱的な時仁をかっこよく感じていた。

 

 

 亜紀は、話が盛り上がり喉が乾いてきた。「スイカ、食べる?」時仁は、大きな声で返事した。「ヤッター、俺、スイカ、大好きなんだ」亜紀は、フレッジから4分の1に切られたスイカを取り出してきた。「これ、切るわね」亜紀は、まな板と包丁を持ってきた。次に、小皿とスプーンを食器棚から取り出した。ゆっくりと丁寧にスイカを切ると扇形のスイカを一個ずつ小皿に乗せた。「はいどうぞ」時仁は、満面の笑みで応答した。「いただきま~~す」小皿には、スプーンを付けてあったが、時仁は大きな口を開けて、かぶりついた。豪快に食べる時仁の姿を見ていた亜紀と明菜は、男のたくましさに圧倒された。明菜が、心配して声をかけた。「種は、出したほうがいいんじゃない」時仁は、うなずきながら、笑顔で返事した。「あ~、でも、種を食ったぐらいじゃ、人間は、死なないさ。あ~~、うまいな~~」

 

 時仁は、一切れをあっという間にたいらげた。亜紀は、もう一切れ時仁に勧めた。「もう一つ、食べる?」時仁は、恐縮した表情を見せたが、元気よく返事した。「かたじけない。いただきます」亜紀は、時仁の小皿に扇形の一切れを載せた。笑顔を見せた時仁は、またしても、勢いよくかぶりついた。「そう、お母さんが言ってんだけど、スイカには、シトルリンがたくさん入っていて、血行が良くなるんだって。だから、美容にいい、って言ってた」その話を聞いた明菜は、マジな顔つきになって、食べ始めた。時仁は、食べ終わると亜紀の家族のことを尋ねた。「僕たち以外、だれもいないみたいだけど、亜紀さんのご家族は?」亜紀が、返事した。「ママと弟は、買い物に出かけた。犬と猫は、自分の部屋で寝てるみたい」犬と聞いた時仁は、犬の話題に切り替えた。「どんな犬?俺んちも飼ってる。ミニチュアダックスフンド。ママが、飼ってるんだけど」

 

 亜紀が、笑顔で返事した。「うちの犬は、シェルティー。名前は、スパイダー。コリー犬の小型って感じ。猫は、名前は、ピンク。猫種は、脚がすっごく短いマンチカン。スパイダーは、ピンクのお父さんみたいで、とってもピンクをかわいがってくれるの。時仁くんちの犬の名前は?」時仁は、即座に返事した。「ママが、つけたんだけど、ゴローっていうんだ。なぜ、ゴローと名付けたかというと、ママが言うには、スマップの稲垣吾郎のゴローなんだって。ママは、稲垣吾郎のファンなんだ」亜紀もスパイダーの名前の由来を話すことにした。「スパイダーは、みんなを守ってくれる正義の味方スパイダーマンのスパイダー。ピンクは、昭和のアイドル、ピンクレディーのピンク。明菜ちゃんちにも、ピンクのお友達のかわいい猫がいるのよ」明菜は、笑顔で返事した。「うちのは、イチゴ。猫種は、サバトラ。名前の由来は、イチゴって、かわいいって感じがするから」

 

春日信彦
作家:春日信彦
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