神様、お願い

 さやかも顔をしかめてつぶやいた。「英語じゃないことは確かね。亜紀ちゃん、読める?」亜紀もしかめっ面になって返事した。「わかんない。こんな文字初めて見る。なんとなく、アラビア文字に似てるような」さやかは、しばらく文字を見つめた。「アラビア文字のような、サンスクリット文字のような、ヘブライ文字のような、そんな感じね」アンナが、がっかりしたようなため息交じりの言葉をつぶやいた。「詰まんないの。拓也ったら、バッカじゃない。こんな、訳の分からないものを小筒に入れておくなんて。てっきり、ダイヤの指輪だと思ったのに。ア~~ア、ついてないの」さやかは、書いてある内容に興味がわいてきた。「拓也のことだから、全く、無意味なものじゃないわよ。きっと、何か重要なことが書いてあると思うよ。どんなことが書いてあるんだろう。誰か、読める人はいないかしら?」

 

 アンナが、吐き捨てるように言った。「誰も読めっこないわよ。こんなへんてこりんな文字。まあ、考古学者だったら読めるかもね?でも、そんな知り合いいないし~~」亜紀も何が書いてあるか興味がわいてきた。「誰か、読める人いないかな~~。AIティーチャーなら、読めるかも?」さやかが、笑顔で返事した。「それは、名案ね。早速、読んでもらいなさい」アンナが、即座に、口をはさんだ。「それは、ダメよ。二人とも、バッカじゃないの?シェルターの隅っこに隠してあったのよ。ということは、超極秘ということじゃない。我々だけの秘密ってことよ。AIなんか知られたら、宝を横取りされるわよ。とにかく、我々だけで解読するのよ」亜紀は、首をかしげて返事した。「でも、ママ。この文字は、何語の文字かもわからないし、果たして解読できるかどうか?」さやかも同感だった。「私たちだけでは、ムリよ。誰かに解読してもらわないと」

 

 アンナは、二人の意見を聞いて、解読する気持ちがなえてしまった。「そうね。こんな文字、解読できるはずないか。いったい、どうすりゃいいの?拓也のヤツ、とんでもなもの残しやがって。ア~~いやになっちゃう」三人は、途方に暮れていたが、亜紀が、ポンと両手を打った。「もしかしたら、お兄ちゃんだったら、解読できるかも。パパと同じ、数学の天才なんだから」アンナが目を丸くして応答した。「あのブサイク。まあ、そうね~、ブサイクを仲間いれるってことか。それも悪くないか。今のところ、私たちだけでは、どうにもならないし。さやかは、どう思う?」さやかは、笑顔で返事した。「それは、名案じゃない。鳥羽君だったら、いろいろと調べてくれそうじゃない。きっと、解読できると思う。鳥羽君を仲間に入れようよ」三人は、顔を見合わせて、うなずいた。

 

 

              転校生

 

 その日の夕方、明菜が福岡市立H中学からの転校生、時仁(ときひと)を連れて遊びに来ることになった。時仁は、明菜の家の200メートルほど南側で、かつて住んでいたヒフミン家の北側寄りの隣に引っ越してきた。時仁は曽根に引っ越してきたちょっと変わった男子ということだった。午後2時過ぎに明菜と時仁がやってきた。明菜がインターホンを鳴らすと亜紀はスキップしながら玄関に向かった。「どうぞ」明菜は、ドアを開くと笑顔で挨拶した。「ハロ~~」亜紀も元気よくあいさつした。「ハロ~~、いらっしゃい。お友達は?」明菜が玄関内に入ると後から浅黒い顔の男子が入ってきた。「こんにちは。九条時仁(くじょうときひと)といいます。よろしく」亜紀もあいさつした。「初めまして、関亜紀です。よろしく。上がってください」

 

 亜紀は、二人をキッチンに案内した。二人がテーブルに着くと亜紀は、グラスをテーブルに並べ、ペットボトルのファンタオレンジをフレッジから取り出し、グラスに注いだ。「はいどうぞ」時仁は、笑顔でお礼を言った。「ありがとう。今年は、猛暑だよな。俺なんか、一日2回、シャワー浴びてるんだ。ここに来るまでに、シャツは、汗でびっしょりだ。全く、いやになるよ」亜紀も今年の猛暑には、うんざりしていた。「ほんと、暑いね。大雨の次は、猛暑。ここ数年、異常気象じゃない?最悪なことに、コロナパンデミックじゃない。マスクにフェイスシールドで、勉強しろっていうし。突然、一か月以上のコロナ休校でしょ、休み明けからは、授業の遅れを取り戻すために、毎日6時限の授業。やってられないよ。楽しみにしていた夏休みは、スズメの涙のような夏休み。ア~~ムカつく」時仁が、ワハハと大きな笑い声をあげた。「イヤ~~、まったく。亜紀さんは、見かけによらず、おもろいな~」

 

 明菜がうなずいた。「まったく、いやになっちゃう。早く、コロナ、消えてほしい」時仁が、話をつないだ。「まったく、もう、うんざりだ。毎日、毎日、ニュースで感染者の数を叫ぶし、いい加減にしろってんだ。気が変になる」明菜が、時仁に笑顔を向けて話し始めた。「時仁君。早く、ワクチンができるといいね」時仁は、即座に返事した。「ワクチンね~。十分な検証をしていないロシアのワクチンは、お断りだけどね」亜紀が話を補った。「そもそも、RNAウイルスのワクチンって、ほとんど、効果がないの。インフルのワクチンも、お守りみたいなもの。政府は、バカ騒ぎしてるけど、コロナって、風邪となじ。メディアが最悪のウイルスみたいに報道するのが間違。感染しても、通常の免疫力があれば、ほとんどの人は、重症にはならないんだから」

 

 亜紀は、一呼吸してさらに話を続けた。「自粛、自粛って、叫んだかと思えば、Go To キャンペーンでしょ。矛盾してない。政府って、頭おかしいおかしいんじゃない」明菜も大きくうなずいて応答じた。「そうよ、そうよ、政府って、絶対、頭おかしい。Go Toキャンペーンやって、感染者が増大したじゃない。何のために、自粛、頑張ったの。休校ばっかで、授業は遅れるし、受験生なんて、踏んだり蹴ったりじゃない。もっと、学生のことを考えてほしいよね」時仁が、大きくうなずいた。「そうだよ。最悪なことに、バイトができなくて、授業料や下宿代が払えず、退学した大学生がいるというじゃないか」

 

 亜紀が、目を吊り上げて応答いた。「何考えてるのよ、政府は。多くの中小企業が倒産し、そのうえ、将来を悲観して、自殺した経営者がいると聞くじゃない。コロナなんて、インフルと同じなんだから、医療体制をきちんとやってれば、こんなことになっていなかったのよ」明菜が、悲しげな表情で応答した。「ア~~、もう、日本人はダメかも。あとは、神様にお願いする以外ない。神様、お願いです、日本を助けてください」時仁も同感だった。「いまの政府じゃ、ダメだ。藤原氏の氏神、春日大明神にお願いしよう。それと、天皇制にして、藤原氏が政治をやれば、きっと、日本は復興する」亜紀が、怪訝な表情で応答した。「え、天皇制は、わかるけど、藤原氏って何よ。藤原氏って、平安時代の話じゃない」

 

 時仁は、マジな顔つきで返事した。「いやいや、藤原氏は、今も、健在さ。五摂家に任せていれば、こんな無様な政治になっていないさ。でも、今のところ、五摂家の権力は、今一つだからな。情けないよ。俺が、頑張る以外ない。きっと、かつての五摂家の隆盛を取り戻してやる。よし、頑張るぞ」明菜が、尋ねた。「時仁君は、五摂家なの?」ドヤ顔の時仁は、返事した。「もちろんさ、近衛家、九条家、二条家、一条家、鷹司家(たかつかさけ)、これが五摂家さ。俺は、九条家。きっと、摂政になってやる。頑張るぞ~~」亜紀が、ケラケラ笑い声を上げた。「ちょっと、今時、摂政はないでしょ。目指すんなら、総理大臣でしょ。時仁君って、平安時代の人みたい」明菜が、ちょっと変わっているといっていた意味がようやくつかめた。

 

 亜紀は芸能活動ができない明菜を励ますことにした。。「明菜ちゃん、せっかくアイドルになれたのにライブができなくなって残念ね。こうなったら、アイドルユーチューバーになれば?」明菜が返事した。「そうなのよね。ついてないのよ。このままじゃ、旬が過ぎて、アイドル人生終わりかも?ユーチューバーね~、うまくいくかな~。やってみるか?」時仁は、励ました。「明菜は、チョ~カワイ~。登録者100万人突破、間違いなし。チャレンジあるのみ」亜紀も励ました。「明菜ちゃんだったら、きっと、世界的アイドルになれると思う。やりなさいよ。ガンバ」明菜は、ユーチューバーをやってみることにした。「よし、やってみる。応援してね」亜紀と時仁は、大きな声でエールを送った。「ファイト、アキナ~~!」

 

 亜紀は、ちょっと風変わりな時仁に興味がわいてきた。「時仁君、部活は?」時仁は、目を輝かせて返事した。「野球部。それと、歴史部。どちらかというと、歴史部が好きなんだ。今、神宝がどこにあるか、調べてるんだ。きっと、日本のどこかにあるはずなんだ」亜紀は、尋ねた。「神宝って、三種の神器のこと?」時仁は、即座に返事した。「日本の今ある三種の神器は、全部形代さ。第10代崇神(すじん)天皇が形代を山ほど作ったんだ。本物のありかは、だれも知らない。俺は、三種の神器には興味がない。俺が調査しているのは、ソロモンの秘宝なんだ。南ユダ王国がバビロニアに攻撃される前に、ユダ王族とレビ人がタルシン船に乗って、日の出国の日本に運んできた可能性があるんだ。俺が探し当てたいのは、ソロモンの秘宝の一つ”アロンの杖”なんだ。この杖は、奇跡を起こすことができるんだ。きっと探し出して、俺は、天下を取る」

 

 時仁は、ちょっと変わっているとは思ったが、話を聞けば聞くほど、かなり変わってるように思えてきた。「それで、何か手掛かりがつかめたの?」時仁は、首をかしげて返事した。「いや、今のところ、手掛かりなし。でも、きっと、日本のどこかにあるはずなんだ。ちょっと、気にかかっているところは、剣山(つるぎさん)、高野山(こうやさん)、六甲山(ろっこうさん)、なんだ。あくまでも、直感なんなんだけどね。あまりにも、漠然としているから、一生かかっても、見つからないかもな。でも、俺のロマンってやつさ」確かに夢物語のように思えたが、生き生きとした表情を見せる時仁が、亜紀にはかっこよく見えた。「男のロマンね、いいじゃない。好きよ、そうゆうの」明菜も草食系の男子と違った情熱的な時仁をかっこよく感じていた。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
神様、お願い
0
  • 0円
  • ダウンロード

9 / 27

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント