神様、お願い

 コンペーは、本当に発狂したのか?冷静に考えれば、戦争できる国内情勢でない。約6億人は、貧困に陥っており、しかも、空前絶後の食糧危機に直面している。長江氾濫、干ばつ、バッタ、これらで農産物生産は半減する。こうなれば、江戸時代のような百姓一揆が起こりかねない。万が一、三峡ダムが決壊すれば、約4億人の被災者が出る。こんな現状で、戦争などできるはずがない。いや、逆に、世界に救済を呼びかけなければならない。「ほら、バッタが大量発生して、穀物が食い荒らされてるじゃない。風来坊、偵察し来てよ。身軽なんでしょ」

 

 風来坊は、あきれた顔で返事した。「おい、俺は、召使じゃないぞ。そんなことわ言われなくとも、中国の偵察は、コロナに感染しないように、3月からやっている。吉林省を偵察していた時、バッタに襲われて、危機一髪だった。今の中国は、国体をなしていない。野蛮人の集まりだ。山賊と同じだ。亜紀ちゃんも知ってるだろうが、中共のウイグル人への極悪非道は、人道的に絶対許されることではない。ウイグル人を奴隷のように働かせて、体調が悪くなれば、強制的に入院させ、治療と言って内臓を切り裂き、死亡させている。そして、あたかも、ブタの内臓を取り出すかのように、死体から内臓を取り出し、中国マフィアに売りさばいている。中共は、政府でも、何でもない。マフィアの親分みたいなものだ。中共は、人類のガンと言っていい。一刻も早く、壊滅せねばならん」

 

 中共は、発狂した悪魔のような宗教団体と同然。これ以上、世界が、悪魔中共を野放しにしておけば、台湾も日本も攻撃され、いずれ、ウイグル人のように中共の奴隷にされてしまう。「風来坊。中共は、悪魔なのよ。アメリカは、どんな政策をとるつもり。やはり、経済制裁が最も効果があると思うけど」風来坊は、うなずいた。「今、南沙諸島に空母を派遣しているが、今すぐ、戦争するつもりはない。というのも、中共幹部の欧米資産凍結をやったところ、彼らは、悲鳴を上げているらしい。そして、コンペーの政策に反感を持ち始めているそうだ。さらに、中共のドル取引をストップさせたから、食糧危機の現状において、食糧物資の輸入もできなくなっている。このままだと、国民の半数は、餓死することになる。コンペーは、国民を見殺しにする気だろう」

 

 

 もはや、発狂したコンペーは、人間ではない。中共幹部が、少しでも人間の心を持っているなら、きっと、国民の命を救うために、クーデターを起こすはず。最悪の場合、コンペーは、暗殺されるかも。亜紀は、トランプについて尋ねた。「トランプは、中共に対して、強行策をとっているけど、再選しそうかしら。今のところ、若干、バイデンが有利みたいね。バイデンは、中共の回し者なんでしょ」風来坊は、首を傾げて返事した。「いや~、何とも言えない状況だ。バイデンが、中共の回し者かどうかは、よくわからんが、中共に甘いことは確かだ。民主党は、副大統領に、黒人女性のハリスを担ぎ上げてきた。これが、吉と出るか?凶と出るか?何とも言えない。ただ、中共に対する強硬策が、トランプ支持率を上げていることも事実だ。このまま、中共に対する経済制裁が成功し、中共がアメリカに譲歩するようになれば、トランプの再選が濃厚になる」

 

 亜紀は、コンペーは、トランプに屈服するか、暗殺されるか、のいずれかと確信した。食糧危機を乗り切るには、世界からの食糧援助は不可欠。万が一、この現状で、世界を相手に戦争するなどと国民に公言すれば、必ず、暗殺される。コンペーも、そこまでアホじゃないはず。「ところで、日本は、どうすればいいの?日本は、中共の肩を持つってことはないよね」風来坊が、即座に返事した。「それはない。確かに、中共と手を組んでる企業はあるが、アメリカを敵に回すような愚かなことはしない。きっと、アメリカの子分として、経済制裁にも、戦闘にも、しっぽを振って参戦するはずだ」

 

 亜紀は、ちょっと不安になった。大企業は、中国に依存している。中国が崩壊したら、大企業は、どうなるのだろう?「中国が崩壊すれば、日本の大企業は、どうなるの?大きな痛手をこうむるわね」風来坊は、うなずいた。「確かに、中国の労働力はグローバル企業に利益をもたらした。でも、中国の労働力は、ウイグル人の奴隷労働だ。このような人権に反した労働は、壊滅すべきなんだ。今、多くのグローバル企業は、中共に支配されている中国から、アメリカに支援を受けているインドに拠点を移行している。スズキは、30年以上も前から、インドの価値を見出し、インド市場を拡大してきた。今後、ますます、グローバル企業にとって、インド市場は不可欠な市場となる。今、やるべきことは、自由主義諸国家が一致団結して、中共独裁国家を徹底的に、叩き潰すことだ。そのためには、自衛隊も、米軍を支援すべきだ」

 

 やはり、すべてのカギを握るのは、国家主席のコンペー。今のままでは、任期は死ぬまで延期される。これは、ガンを放置して、死を待つのと同じ。「風来坊。カラスの大群でコンペーを攻撃できないの。中国のカラスに指令を出せないの?」呆れた表情の風来坊は、甲高い声で返事した。「いや、まあ、できないこともないが、肝心のコンペーの所在がわからない。きっと、暗殺を警戒して、身を隠しているんだな。しかも、金正恩のように何人ものダミーがいる。これじゃ、カラスもお手上げだ」亜紀は、がっかりしてしまった。やはり、悪党というのは、ずるがしこい。発狂したコンペーを一刻も早く抹殺しないと核ミサイルのボタンを押してしまう。これだけは、許してはならない。残された望みの綱は、北戴河(ほくたいが)会議における長老たちの意見。李克強(りこっきょう)の抵抗。中共の内部分裂。人民解放軍のクーデター。貧困層の打ちこわし。

 

 ふと、三峡ダムのことが気になった。「そういえば、三峡ダムは、まだ、大丈夫なの?崩壊し始めているそうだけど。三峡ダムが決壊すれば、中国人だけでなく、世界中から派遣されている職員も、被災するじゃない。戦争より、こっちのほうが心配じゃない?」風来坊は、天を仰いで返事した。「こればかりは、神に祈る以外ない。コンペーが、台湾の攻撃など考えずに、三峡ダム決壊の心配をすればいいが、このままだと、ダム決壊は、時間の問題だ。俺たちは、空を飛べるから、山奥に避難できるが、人間たちは、洪水に飲まれて、水死する。約4億人の被災者が出るかもしれん。恐ろしいことだ」

 

 大洪水に飲まれもがき苦しむ人々の様子が脳裏に思い浮かぶと顔から血の気が引いた。「今の中国は、世界に助けを求めるべきなのよ。このままじゃ、食糧不足と三峡ダム決壊で、多くの死者が出る。中共は、崩壊してほしいけど、国民は、助けてあげたいわ。何か、いい方法はないの?」風来坊は、首を左右に振った。「人間は、全く、愚かだ。多くの中国国民が、かわいそうだ。悪魔の中共のために、何の罪もない人々が、犬死をする。ダム決壊による洪水を避けるには、ダムを段階的に爆破する以外ない。果たして、コンペーにできるか?俺は、人間に生まれなくてよかった。亜紀ちゃんも、今度生まれてくるときは、カラスに生まれてくるといい。ちょっと言い過ぎたかな。カラスも、やれるだけのことはやる。今から、重慶の視察に行く。風来坊に、任せときな。きっと、うまくやってみせる。さらばじゃ」風来坊は、パタパタと羽ばたくと真っ青な天空に飛び立った。

 

              お願い

 

 亜紀は、風来坊が完全に消え去るまでしばらくぼんやりと青空を眺めていた。うなだれてしまった亜紀は、重たい脚を引きずりながら自宅に帰った。キッチンでは、さやかとアンナが、スイカを食べながら笑っていた。「ママたち、楽しそうね。いいことでもあったの?」アンナが、返事した。「いやね、免疫力を高めるには、笑うことが一番、ってさやかが言うから、サンドウィッチマンの漫才を思い出して、バカ笑いしてたのよ」亜紀は、三峡ダムの決壊を考えるとバカ笑いする気になれなかった。「亜紀は、悲しくて、笑う気になんか、全く、ならない。ア~~ア、どうして、大人って、バカなんだろう。大人になんか、なりたくないな~~」さやかが、声をかけた。「そう、嘆かずに、お話でもしましょう。落ち込んでばかりいると、免疫力が低下するんだから」

 

 亜紀は、椅子に腰掛け、頬杖をついた。アンナは、思春期の悩みと思い、尋ねた。「何か、悩みでもあるの?失恋でもしたの?」亜紀は、恋をしたことがなかったから、失恋といわれても、ピンとこなかった。「そんなんじゃないよ。三峡ダムのことを考えてたの。もう、手遅れよ。このままじゃ、数億人が犠牲になる。人間って、どうして、こんなに、愚かなんだろう」アンナが、尋ねた。「三峡ダムって、何よ。ダムが、どうしたっていうのよ」さやかが、応答した。「中国の河北省にある世界一の発電を誇るダムよ。今、問題になってるのよ。もしかしたら、決壊するんじゃないかって」アンナは、中国のダムと聞いて、安心した。「中国のダムなの。だったら安心じゃない。だだっ広い中国だもの、ダムの一つや二つ、決壊しても、どおってことは、ないんじゃない」

 

 さやかが、顔を左右に振った。「確かに中国はだだっ広いわよ。このだだっ広い中国でさえ、甚大な被害が起きると予測されているのよ。なんと、ダム湖の広さは、琵琶湖の1.4倍もあるのよ。この巨大な貯水湖の水が、一気に下流に流れ出したら、長江沿いの武漢(ぶかん)、南京(なんきん)、上海(しゃんはい)、などは、洪水で全滅するのよ。被災者は、約4億人に及ぶと予測されているの。いったい、どうする気なのかしら」アンナが、あきれた顔で応答した。「そもそも、そんなバカでかいダムをつくらなければ、よかったんじゃない。中国人って、アホなんじゃない」さやかは、大きくうなずいた。「まったくその通り。当時の全国人民代表大会では、約3割の人が反対したみたいなんだけど、結局は、賛成多数で、建設されたのよ」

 

春日信彦
作家:春日信彦
神様、お願い
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