ほどなく、救急車が到着した。救急隊員の一人が部屋の中へ入ってきた。
「手を握ってごらん」
僕は救急隊員の手を精一杯の力で握った。
「力はあるみたいだね」
彼は少し安心した様子だった。
救急車は近くの病院へ向かった。道のりがやけに長く感じられた。救急車が病院へ到着し、僕は診察室に運ばれた。そこには医師と看護師が待機していた。「早く何らかの手を打ってほしい」。僕の切なる願いだった。しかし、医師は急ぐ様子もなく、事もなげに言った。
「これは心臓そのものが悪いわけではないな」
その言葉は当たっていた。のちに何度か心電図検査を受けたが、異常はなかった。
「でも、もしかしたら○○になってしまったかもしれない」
医師が言った○○が聞き取れなかった。20年たった今も不明である。
そうこうしているうちに、僕の症状は落ち着くどころか、さらに苦しみが増していった。このままでは死ぬかもしれない。率直な気持ちだった。
それでも医師は何の手も打たない。僕はあまりの苦しさに、もう死んでいいから、この辛さから解放されたいと思った。そのわずかな開き直りからか、少しずつ症状は和らいでいった。
病院からはタクシーで自宅へ帰った。すでに時刻は午前4時である。18歳の僕は体と、そして心の中ではっきりと感じた。「この病気は治らない」と。