ふくしまの海
2011年04月23日
海~j~
2011年4月23日
なんでもない日を
わたしは
信号待ちの
交差点で数えた
生後44日
わたしたちの
生んだ
ベビー
かわいい
名前も
付けもせず
あやすことも出来ず
打ち捨てて
逃げ去っても
海
空
大地へ
おおきくなって
追いかけて来る
ベビー
モンスター
抱いてやれないのに
数えている
生まれた日から
数えている
月と海と波と
わたしの吐息とで
2011年05月01日
海~k~
真夜中の
ソファーに
目覚めると
ブルーブラックの
インクの
なかにいた
深海魚がきて
おまえは沈没船
でも大丈夫
鯨に伝える
と
鯨は
潮を
吹いて
初夏の雲に伝えて
清らかな
秋になると
鰯雲に伝える
鰯雲は
最期に
山々に
降りて
驚かないで
沈没船の
おんなは
小さな
真珠を宿したよ・・・・・
エメラルドと
ダイヤモンドと
バロックと
どれがいい?
5月の
夢のなかで
神様に聞かれて
真珠と
言った
気がする
2011年05月04日
海~l~
遠くで
水葬が行われた
福島第一原発は
今日も泣き続けた
何処からが
誰のための
涙なのか
もう分らない
汚して
すまなかったね
小さな
白すみれ
小さな
蜘蛛の子
小さな
メヒカリの卵
殺されて
海へ還された
その男の
屍にも
謝る
花も獣も魚も
撃った男も
撃たれた男も
その妻たちも
その子供たちも
何時か
其処に逝く
ミーティングポイント
何時か
混じりあう
この星に一つだけの海
この星の
最期の瞬間の
遠い遠い遠い
遠い遠い
遠い
未来にも
謝る
汚して
すまなかったね
2011年05月05日
海~m~
あなたのやさしいお母さんは
昼はひとりで働いて
夜は孤独に耐え
いつもうつむいて歩いていた
そんなお母さんでも
あなたのやさしいお母さんは
声をふりしぼって
原発反対と
言わなければならなかった
東京に行った叔母さんが
お盆にはセンスの良い
靴を脱いで家に上がる時
東京の匂いがしても
その東京の匂いよりも
海の匂いが好きと
言わなければならなかった
あなたのやさしいお母さんは
言葉をみんなのみこんで
あなたの幸せだけを
望んでいたとしても
原発反対と
言わなければならなかった
40年が過ぎて
パペットのように
土下座して
頭を下げた男に
あなたのやさしいお母さんは
相変わらず何にも言わず
会おうともしない
あなたのやさしいお母さんは
壊れた原発のそばを離れず
黙って
静かに
今日も
ゆくえしれず
なのだ
はつなつの
かぜにきいても
どこにもいない