そして、
帰る途中、この前も行った「喫茶窓際族」に
立ち寄った。そう、前に来た時に、店の雰囲気も良くて、店長がとても良い人だったから、霧河は、この店がとても気に入ったのだ。
〝カランコロン〟
「いらっしゃい」
「すいません。今日はブラックコーヒーでお願いします」
「かしこまりました」
〝コト〟
店長はまた、霧河に話しかける。
「久しぶり!お!今日はコーヒーかい?」
「はい」
「コーヒーも好きなんだね」
「まぁ」
「この前はコーンスープだったけど、今日は
コーヒー。大人らしい飲み物も飲むんだな」
「はい」
〝ジュー〟
そこで店長も、霧河にクリスマスの話をした。
「そういや、もうすぐまたクリスマスがやって来るね。お客さん、何が欲しいんだい?」
「え?クリスマスって、大人がプレゼントを
もらうモノじゃないでしょ?」
「そうだけどさ、何か欲しいとは思わない?」
「ん~・・・大人になってからは、考えた事がないですね」
「そうか。で、子供の頃は、サンタクロースを信じてたかい?」
店長のおじさんもそんな事を聞いてきた。
「はい。信じてましたよ」
「そうか。俺も昔は信じてた」
「え?店長さんも?」
「ああ。でも、いつから信じなくなったっけな~。でも、サンタクロースって魔法使いなのに、何で子供の頃はあんなに素直に信じちゃうんだろうな。不思議だな」
「そうですね。なぜか信じちゃいますよね」
「うん(笑)。でも、子供の頃を思い出すと、何か懐かしくなるな」
「はい」
「そういえば、サンタクロースの好物って何だろう?」
「え?」
そういえば、霧河は、そんな事を考えた事は
なかった。
「サンタクロースもオッサンだから、やっぱ
酒とか煙草とか?クリスマスは、深夜に活動するから、ブラックコーヒーも飲むのかな?
まぁ、本当はいねぇから、考えても仕方ねぇけど(笑)」
「そうですね(笑)」
「ブラックコーヒーか。そういえば、昔は俺も、飲めなかったな~。それが大人になると
こうやって好きになるから、人の味覚の変化って不思議だな」と霧河は思った。そして、
霧河は、コーヒーを飲み干し、
喫茶店を出て行った。
〝カランコロン〟
「ありがとうございました」
帰った後、霧河は店長との会話を思い出した。
「久しぶりにあの店長さんと交わした会話、
楽しかったな~。しかし、なかなか普通なら
考えない事を考えてるんだな。面白い」
そして、布団に入った。
(サンタクロースの好物・・・か~。そういや、絵本とかにも、そんな事は書いてなかったな。サンタクロースは、色んな子供達に
色んなモノをあげてるけど、サンタクロース自身は何が好きなんだろ?もし、店長さんの言う通り、酒や煙草が好きなら俺と真逆だな)そうして、霧河は眠りについた。
そして、4日経ち、今日もまた出勤する。今日は、2010年12月10日(金)。今日も会社で、クリスマスの話をたくさん聞いた。もう、社内の風景も、クリスマス風の飾りつけがなされ、オシャレになっている。
時間が経ち、18時30分。
「あぁ~!今日も仕事が終わった~!!」
霧河は伸びをしてそう言った。
「クリスマスが少しずつ近づいてきてるな」
しみじみ思った。
クリスマスは霧河にとって、
1年の中で1番好きなイベントだ。だから、
今年も、とてもワクワクしているのだ。
「ジングルベ~ルジングルベ~ル、鈴が鳴る~!!♪」
無意識のうちにそんな歌まで口ずさんでいた。
そして、帰る前はまた、あちこちで盗み聞きによるプレゼントの調査。今夜もまた、
あちこちから「今欲しいのは〇〇」という、
クリスマスを待っている子供達の、楽しそうな声が聞こえてくる。「俺も楽しみだな!♪」
と霧河は言った。
それで、たまにある平日の
仕事の休みの日には、数週間前のように、
学校のそばなどでも子供達のほしがっているモノを聞いたりした。
で、時間のある時に、
調査して、メモ帳に書いた、子供達の欲しがっているモノを少しずつ買い、そんな事を
繰り返し、時間は流れて、クリスマス・イヴが来た。
2010年12月24日(金)。
もちろん、会社でも、
「今日は子供に〇〇をあげるの」や
「家族と一緒にクリスマスケーキを食べたり
フライドチキンを食べたりしてクリスマスパーティをするんだ」などという声がたくさん
聞こえてきて、霧河は、
(良いな~!良いな~!賑わってるな~!
クリスマス最高!!♪)と思った。
そして、霧河は家に帰り、サンタクロースの衣装を着て、子供達が欲しがっているモノを袋に詰めて、ちょうど日付が12月25日(土)
(クリスマス)に変わった時、出かけた。
本来、サンタクロースというのは、赤い服を着て空飛ぶソリに乗って、それをトナカイに引っ張ってもらって移動するものだが、
彼は、全く違う。
地に足を踏みつけて移動する。自転車に乗って移動し、金属の棒を使ってサムターン回しなどの
ピッキングで扉を開ける事によって入り、
色んな家にプレゼントを届けている。
夜空の下や真っ暗な家の中でも目立たなくするため、黒い服を着て、黒い帽子を被り、
黒い手袋をつけている。
移動手段に自転車を使っているのは、
大きな音を立てないようにして、警察や周りの人達に出来るだけ
バレにくくするためで、手袋は、ドアや色んなモノに
指紋を付けないため。もちろん、自転車も真っ黒、
手袋も真っ黒。
子供達に渡すプレゼントももちろん、全て手袋をしている状態でしか触れた事がないので、
指紋は一切付けていない。
霧河は、家を出て、まず最初に、「犬の人形が欲しい」と
言っていた女の子の家へ向かった。
そして、金属の棒を使ってカギを回し、ドアを開けた。
〝ガチャ〟
念のため、霧河が他人の家に入っているその間にも、泥棒などが
入ってこないようにするため、いつも、入ったらすぐ、内側から
手袋をつけた手でドアのカギをかけている。
〝ガチャ〟
「なるほど。こういう家か~」と思いながら霧河は、出来るだけ
足音を立てないように気をつけながら、
ペンライトを使って歩きながら、女の子の部屋を探し、
その部屋に入った。
〝キー〟
そこには女の子が寝ていた。女の子らしく、
可愛いモノやオシャレなモノでいっぱいだった。
「へ~。女の子らしい部屋だな~!」と霧河は思った。そして、
枕元に犬の人形をそっと置く。
そうすると次の瞬間、女の子はたまたま目を覚ました。
目をこすり、
「トイレ~・・・」と言った。
霧河は慌て、
「あっ!マズい!!」と壁に頭をぶつけた。
女の子が
「え?誰かいるの!?」と言って、電気を点けた。すると、霧河の姿が見えた。
女の子は「キャ~!!!」と叫んだ。