それから数日後、霧河はいつものように仕事へ向かう。今日は、12月6日(月)だ。
会社でも、「クリスマスプレゼントは〇〇が
・・・」などという声が何人もの人から聞こえてきた。
その中には、霧河と同じように、幼い頃、サンタクロースを信じていた者、
子供がいて、その子供にクリスマスプレゼントを渡す者もいる。
霧河は、(へ~。やっぱり、大人でも、クリスマスが好きな人が多いんだな)と思った。
ある女性社員が霧河に
「霧河君、サンタさんって、本当にいると思う?」と尋ねてきた。
それに対し霧河は、
「あ~、昔は信じてたよ」と答えた。女性社員は、「そっか。私と同じね」と言う。
霧河は、
「え?」と言った。
女性社員は、「だって、
そもそも、良く考えたら、遠い国から空飛ぶソリで色んな国に行って、たくさんの家の子供達にたった一日でプレゼントを渡すなんて、出来るワケないし、疲れるじゃん(笑)。
しかも、おじいさんがよ(笑)」と言った。
「確かにそうだね(笑)」
「でも、あたし、何であの頃は本気で信じてたんだろ?」
「・・・・・・」
その時、霧河は、自分と彼女が重なった。
(そうだよな~・・・俺も昔は本気でいると思ってたんだよな~・・・)と思った。
彼女は、「でも、毎年、自分が寝てる間に
枕元にプレゼントを置いてくれてたのはお母さんだって知った時はショックを受けたわよ。
〝サンタさんはいなかったのか〟って。でも、
プレゼントをもらえるなら、別にサンタさんがいない事には困らないのに。何でだろうね?(笑)」と言った。
それを聞いて霧河は、
(確かに。言われてみれば、そんな事考えた事なかったな。そういや何で、クリスマスにプレゼントをもらう時は、サンタさんにもらいたいんだろ?別の人からもらっても、欲しいモノは手に入るのに)と思った。
それは、霧河が今まで抱いた事のない疑問だった。
やがてその日も夜になり、仕事が終わった。
伸びをして、「ん~!疲れた~!今日も仕事が終わったな~!!」と言った。
そして、
帰る途中、この前も行った「喫茶窓際族」に
立ち寄った。そう、前に来た時に、店の雰囲気も良くて、店長がとても良い人だったから、霧河は、この店がとても気に入ったのだ。
〝カランコロン〟
「いらっしゃい」
「すいません。今日はブラックコーヒーでお願いします」
「かしこまりました」
〝コト〟
店長はまた、霧河に話しかける。
「久しぶり!お!今日はコーヒーかい?」
「はい」
「コーヒーも好きなんだね」
「まぁ」
「この前はコーンスープだったけど、今日は
コーヒー。大人らしい飲み物も飲むんだな」
「はい」
〝ジュー〟
そこで店長も、霧河にクリスマスの話をした。
「そういや、もうすぐまたクリスマスがやって来るね。お客さん、何が欲しいんだい?」
「え?クリスマスって、大人がプレゼントを
もらうモノじゃないでしょ?」
「そうだけどさ、何か欲しいとは思わない?」
「ん~・・・大人になってからは、考えた事がないですね」
「そうか。で、子供の頃は、サンタクロースを信じてたかい?」
店長のおじさんもそんな事を聞いてきた。
「はい。信じてましたよ」
「そうか。俺も昔は信じてた」
「え?店長さんも?」
「ああ。でも、いつから信じなくなったっけな~。でも、サンタクロースって魔法使いなのに、何で子供の頃はあんなに素直に信じちゃうんだろうな。不思議だな」
「そうですね。なぜか信じちゃいますよね」
「うん(笑)。でも、子供の頃を思い出すと、何か懐かしくなるな」
「はい」
「そういえば、サンタクロースの好物って何だろう?」
「え?」
そういえば、霧河は、そんな事を考えた事は
なかった。
「サンタクロースもオッサンだから、やっぱ
酒とか煙草とか?クリスマスは、深夜に活動するから、ブラックコーヒーも飲むのかな?
まぁ、本当はいねぇから、考えても仕方ねぇけど(笑)」
「そうですね(笑)」
「ブラックコーヒーか。そういえば、昔は俺も、飲めなかったな~。それが大人になると
こうやって好きになるから、人の味覚の変化って不思議だな」と霧河は思った。そして、
霧河は、コーヒーを飲み干し、
喫茶店を出て行った。
〝カランコロン〟
「ありがとうございました」
帰った後、霧河は店長との会話を思い出した。
「久しぶりにあの店長さんと交わした会話、
楽しかったな~。しかし、なかなか普通なら
考えない事を考えてるんだな。面白い」
そして、布団に入った。
(サンタクロースの好物・・・か~。そういや、絵本とかにも、そんな事は書いてなかったな。サンタクロースは、色んな子供達に
色んなモノをあげてるけど、サンタクロース自身は何が好きなんだろ?もし、店長さんの言う通り、酒や煙草が好きなら俺と真逆だな)そうして、霧河は眠りについた。
そして、4日経ち、今日もまた出勤する。今日は、2010年12月10日(金)。今日も会社で、クリスマスの話をたくさん聞いた。もう、社内の風景も、クリスマス風の飾りつけがなされ、オシャレになっている。
時間が経ち、18時30分。
「あぁ~!今日も仕事が終わった~!!」
霧河は伸びをしてそう言った。
「クリスマスが少しずつ近づいてきてるな」
しみじみ思った。
クリスマスは霧河にとって、
1年の中で1番好きなイベントだ。だから、
今年も、とてもワクワクしているのだ。
「ジングルベ~ルジングルベ~ル、鈴が鳴る~!!♪」
無意識のうちにそんな歌まで口ずさんでいた。
そして、帰る前はまた、あちこちで盗み聞きによるプレゼントの調査。今夜もまた、
あちこちから「今欲しいのは〇〇」という、
クリスマスを待っている子供達の、楽しそうな声が聞こえてくる。「俺も楽しみだな!♪」
と霧河は言った。
それで、たまにある平日の
仕事の休みの日には、数週間前のように、
学校のそばなどでも子供達のほしがっているモノを聞いたりした。
で、時間のある時に、
調査して、メモ帳に書いた、子供達の欲しがっているモノを少しずつ買い、そんな事を
繰り返し、時間は流れて、クリスマス・イヴが来た。
2010年12月24日(金)。
もちろん、会社でも、
「今日は子供に〇〇をあげるの」や
「家族と一緒にクリスマスケーキを食べたり
フライドチキンを食べたりしてクリスマスパーティをするんだ」などという声がたくさん
聞こえてきて、霧河は、
(良いな~!良いな~!賑わってるな~!
クリスマス最高!!♪)と思った。
そして、霧河は家に帰り、サンタクロースの衣装を着て、子供達が欲しがっているモノを袋に詰めて、ちょうど日付が12月25日(土)
(クリスマス)に変わった時、出かけた。
本来、サンタクロースというのは、赤い服を着て空飛ぶソリに乗って、それをトナカイに引っ張ってもらって移動するものだが、
彼は、全く違う。
地に足を踏みつけて移動する。自転車に乗って移動し、金属の棒を使ってサムターン回しなどの
ピッキングで扉を開ける事によって入り、
色んな家にプレゼントを届けている。
夜空の下や真っ暗な家の中でも目立たなくするため、黒い服を着て、黒い帽子を被り、
黒い手袋をつけている。
移動手段に自転車を使っているのは、
大きな音を立てないようにして、警察や周りの人達に出来るだけ
バレにくくするためで、手袋は、ドアや色んなモノに
指紋を付けないため。もちろん、自転車も真っ黒、
手袋も真っ黒。
子供達に渡すプレゼントももちろん、全て手袋をしている状態でしか触れた事がないので、
指紋は一切付けていない。