素顔の告白

 

永井さんとの交流が絶えたまま、永井さんは自衛隊に体験入隊したり、青年を数名集めて小軍隊のような、なんとかの会というものを結成。自衛隊駐屯地にて、私にはよく分からない演説をした後に割腹自殺した。

 

かつて書生であった私の元に記者が来た時、私は「なぜこんな事をしたのです、自分がつまらない人間だと思ったなら、素直に認めてしまえば良かったのに。」と発言したが、それは正に私自身への叫びであった。こんな、相手が故人となった時ですら私は自分の事しか見えないらしい。

 

そして、まだまだ頭のおかしかった私は、永井さんが死を選んだのは私が永井さんとの事を、名前を変えたとはいえ小説に書いたせいだと、長い間思い込んでいた。

いや、そう思いたかったのだとも思う。永井さんにそれだけ強い影響を持っていたのだと。

何も無いからっぽの私は、文学でも認められる事が無かった。

一度「タオル」という小説で芥川賞の候補にノミネートされた事がある。所謂ホンモノにしか分からぬような性描写を描き、その作品がノミネートされた事で私の性癖は周知のものとなったが、これは一つの賭けであった。性癖を暴露し、社会的地位を失うか、芥川賞を受賞してそれを覆い隠すほどの社会的地位を得るか。

しかし結局、「タオル」はノミネートされ、冷やかされただけに終わり、受賞には至らなかった。

やけになった私は、ならばせめて永井橋という天才に愛された男として、世間に名を知らしめたかった。そこで、「告白~永井橋」という暴露本を出版したのである。

事実をそのまま書けば、私が愛されている感じが無いため、願望でかなり変えてある。

自分をつまらない人間と確信しても、なぜそれを素直に認められよう?

 

しかし、永井さんが「次郎」という名で書いた卑しい男を、私の事を書いていると感じた事だけは、今でも当たっている気がしている。

永井さんの死後、私は永井さんからの手紙を全て売り、金に換えた。私の卑しさを見抜き、悪意無く参考にしたのかもしれない。

 

 

 

永井さんについての暴露本を出してから数年後、弟の太郎が死んだ。路上で野垂れ死んでいるのを警察に発見され、身内の私が確認のために呼ばれたのだ。

 

太郎はただの男色家ではなく、女装愛好家でもあった。この頃は老年にさしかかっており、その姿はまるで化け物である。

太郎はあるノンケのホストに入れ込んでおり、貢まくっていた。傍から見れば騙されているのが一目瞭然であったが、恋は盲目なのか太郎は最後まで、都合よく踊らされていた。

太郎の死に、私は何も感じなかった。強いて言えば、自分ならこいつよりはマシな死に方ができそうだ、と暗い優越感を感じてすらいた。そして、そんな自分を恥じたので、弟について書いた小説には、太郎が死んで悲しかったと書いておいた。

 

弟のように、無邪気に人を愛し、あからさまに夢中になれば、付け込まれて利用されるだけだ。そう考え、私は太郎の二の舞にはなるまいと考えていた。

 

しかしこの歳になって思う。私の方が比べものにならないほど惨めであったと。

 

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書記はここで終わっている。

 

麺平良
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