永井さんについての暴露本を出してから数年後、弟の太郎が死んだ。路上で野垂れ死んでいるのを警察に発見され、身内の私が確認のために呼ばれたのだ。
太郎はただの男色家ではなく、女装愛好家でもあった。この頃は老年にさしかかっており、その姿はまるで化け物である。
太郎はあるノンケのホストに入れ込んでおり、貢まくっていた。傍から見れば騙されているのが一目瞭然であったが、恋は盲目なのか太郎は最後まで、都合よく踊らされていた。
太郎の死に、私は何も感じなかった。強いて言えば、自分ならこいつよりはマシな死に方ができそうだ、と暗い優越感を感じてすらいた。そして、そんな自分を恥じたので、弟について書いた小説には、太郎が死んで悲しかったと書いておいた。
弟のように、無邪気に人を愛し、あからさまに夢中になれば、付け込まれて利用されるだけだ。そう考え、私は太郎の二の舞にはなるまいと考えていた。
しかしこの歳になって思う。私の方が比べものにならないほど惨めであったと。
書記はここで終わっている。