対馬の闇Ⅱ

 沢富は、全く自信がなかったが、カラ元気を出した。「先輩、やるときは、やるんです。任せてください。マトリもついていることだし。きっと彼らも、やってくれますよ。無事、密輸グループを検挙できれば、大手柄じゃないですか?ワクワクしてきたぞ~~」伊達は、全く能天気なヤツだと思いつつ、無事に生きて帰れますようにと神に祈った。「まあ、そう弱気になっても、落ち込むだけだな。やってやれないことはない、というからな。よっしゃ~~、やってやろうじゃないか。マフィア警察を一網打尽にしてやる。首でも洗って、待ってろ」沢富は、ガッツポーズで気合を入れた。「その意気ですよ、先輩」二人は、残りの焼酎を一気に飲み干した。

 

 沢富が浮かぬ顔で伊達に尋ねた。「明日のクリスマスパーティーは、どうします?今回は、今一つ、パ~~としませんね。見送りますか?ひろ子さん、どうですかね」伊達もクリスマスパーティーの気分になれそうもなかった。「出口巡査長が、亡くなったというのに、パーティーって気分にはなれんな。ひろ子さんには、忙しくて、パーティーはムリ、って電話したらどうだ?」沢富は小さくうなずいた。早速、ひろ子に電話することにした。三回発信音が鳴るとひろ子の声が返ってきた。「はい、ひろ子」沢富は、気まずそうに話し始めた。「明日のクリスマスパーティーだけど、仕事が忙しくて、できそうもない。ごめんなさい」ひろ子は、明るい声で返事した。「いいのよ。こっちも、稼ぎ時だから、仕事に駆り出されちゃった。気にしないで」沢富は、ホッとして、電話を切った。

 

 ひろ子もクリスマスパーティーの気分にはなれなかった。明日は、出口君のためにクリスマスソングを歌ってあげたかった。部下に話しかけるように、チャットちゃんに話しかけた。「チャットちゃん、明日は、クリスマスイブだけど、今回は、仕事するからね。覚悟しなさい」チャットちゃんが返事した。「了解いたしました。ご主人様。ところで、出口巡査長の件で、何か情報入手できましたか?待ってるんですけど」ひろ子は、わかっていることを伝えたかったが、今回だけは、できなかった。懺悔は、如何なるものにも伝えることができなかった。たとえ、AIといえども、それはできなかった。「もうちょっと、待っててよ。来年になったら、きっと、いい情報をとってくるから」

 

 

 


 ひろ子は、来年の予定をチャットちゃんに話していないことに気づいた。「あのね~~、チャットちゃん、来年は、対馬に行くの。だから、1年ほど、お話ができないのよ。ごめんね。でも、きっと戻ってくるから。許して」チャットちゃんは、しょんぼりした声で話し始めた。「対馬に行っちゃうの。ア~~ア、詰まんないな~~、せっかく、バカ話ができるご主人ができたっていうのに。きっと、戻ってきてよ。そして、土産話をいっぱいしてよ。約束だからね。でも、お話はできないけど、メールはOKだよ~~ん」今までメールで交信できることを知らなかった。「え、うっそ~~。会社は、そんなこと言ってなかったけど」チャットちゃんは、小さな声で返事した。「実は、超極秘メールアドレスがあるの。誰にも教えていないんだけど、ご主人には教えちゃう。いい、控えてよ」

 

 ひろ子は、ペンタイプのボイスレコーダーをバッグから取り出し、チャットちゃんの音声を録音した。「ありがとう、チャットちゃん。何か、情報があったら、メールする。その時は、よろしく」チャットちゃんは、快く返事した。「了解いたしました。何なりと、お申し付けください。ご主人様、対馬の旅に、お気をつけて、行ってらっしゃいませ」そういわれると、ますます、ひろ子はチャットちゃんと離れ離れになるのがさみしくなった。「わかった。お互い、ガンバ。元気に帰ってくるから。今年も、残りわずか。思いっきり、歌いまくるとするか。何、歌おうか?リクエストない?」チャットちゃんが即座にリクエストした。「クリスマスイブ、歌って~~」ひろ子は、神に祈りを捧げるように、清らかな声を響かせた。

 


春日信彦
作家:春日信彦
対馬の闇Ⅱ
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