危険なビキニ

  三島は特になかったが、安田は、結婚のことを確認しておくことにした。「国外の仕事はないということで、ホッとしているんだが、俺は、卒業後、すぐに結婚する予定だ。そのことに関しては、問題ないのか?」ヤコブは、即座に返事した。「結婚に関する条件はない。だが、たとえ結婚相手であっても、モサドに関する情報は、一切話してはならない。そのことは、了解してると思うが」安田は、一瞬はっとした。すでに、リノにはモサドに関する話をしてしまった。このことを話しておくべきか悩んだが、後になって責められるより、今、話しておくべきだと勇気を振り絞った。「ヤコブ、実を言うと、婚約者にモサドになるということを話してしまった。もう、俺は失格か?」

 

 一瞬ヤコブの顔がゆがんだが、笑顔で返事した。「いや、モサドに関する情報を流したわけでない。今後は、たとえ婚約者でも、モサドについては話さないように」安田はほっとした。そして、今後のことを確認した。「俺たちは、モサドの決意を固めた。卒業までに、英語会話のほかに何かやるべきことはあるか?」ヤコブは、満足そうな笑顔で答えた。「二人の決意を聞かせてもらっただけで我々は大きな収穫を得た。モサドの特訓は、正式な契約が交わされた後に行われる。大切なことは、健康管理と使命感だ。日本とイスラエルのために身をささげる心だ。二人なら、必ず使命を遂行できる。同志、力を合わせて、戦おうじゃないか。今後、何か質問があれば、いつでも尋ねてくれ」

 

 安田は、三島に振り向きうなずいた。三島は、安田から聞いていた報酬のことが気になっていた。「ヤコブ、まだモサドになっていないのに、聞くのはおこがましいようだが、報酬の件を聞かせてほしい」三島には報酬の件は話していないことに気づき改めて話すことにした。「当然の質問だ。安田には話したと思うが、報酬は年俸10万ドルだ。年4回に分けて日本円で支払われる。当然、モサドの報酬は、表に出すことができない。だから、現金手渡しとなる。表向きはベンチャー企業の従業員ということになるから、各自の口座には給料分しか振り込まれない。本部命令の業務遂行における諸経費は、別途、請求次第支払われる」

 

 

 

 

 

 


 三島は、安田から報酬の件は聞いていたが、ヤコブから直接聞いて、キツネにつままれたような気分になった。「報酬は、日本円で約1000万円。そのほかに諸経費もいただけるわけですか。信じられないエリート待遇ですね。我々にそれだけの価値があるんですか?」ニコッと笑顔を作ったヤコブは返事した。「ありますとも。将来、二人が実績を残していけば、報酬も上がります。先ほども言ったように、モサドは、世界一のエリートエージェントなのです。ほかには?」三島は、信じられないような報酬額に頭がぼんやりとしていた。

 

 三島の間抜け顔を見たヤコブは、三島は手のひらに乗ったと確信し、安田に話しかけた。「安田、何か、質問は?」安田の不安は、完全に払しょくされたわけではなかったが、日本のために死ぬ覚悟は変わらなかった。「俺は、ヤマト民族だ。日本のために死ぬのだったら、本望だ。ヤコブ、よろしく頼む。俺たちにできることは、全力で遂行する」ヤコブは、大きくうなずき、右手を差し伸べた。安田も右手を差し出し決意を表した。続いて、三島も分厚く大きな手でしっかりと握手した。ヤコブを真の同志と思った安田は、旅館に宿泊することを進めた。「ヤコブ、今日は、旅館に泊まっていかないか。糸島の温泉につかって、疲れを癒してくれ。俺からのサービスだ。どうだ?」

 

  二人は完全に手のひらに乗ったと確信したヤコブは、笑顔で返事した。「いや、気持ちだけで十分だ。5時に約束があるんだ」話し終えたヤコブは、すっと立ち上がり玄関に向かった。駐車場に止めていたベンツに乗り込むと一瞬にして消え去った。安田は、間抜け顔の三島に声をかけた。「おい、頭は大丈夫か?」夢のような報酬額に三島の頭はしびれていた。「は~~、大丈夫です。それにしても、1000万ですよ。夢のような話じゃないですか。嘘じゃないですよね。信じていいんですよね」安田は、何と言っていいか返事に困ったが、野となれ山となれの気分だった。「ヤコブを信じようじゃないか。俺たちはヤマト民族だ。死んで屍(しかばね)拾うものなし。腹をくくろう」

 

 

 


             危険なビキニ 

 

 その日の午後3時を少し過ぎたころ、安田はリノに誘われティールームにやってきた。安田は、特に文句を言われることはやっていないと確信していたが、なぜか不安が込み上げてきた。対面して腰掛けるとリノがにらみつけてきた。これはヤバイと思った安田は、先制攻撃に出た。「おい、何だよ。俺が何をしたっていうんだ。俺は、神に誓って浮気はしていません。信じてくれよ~」突然の弁解にリノは噴出した。「バ~~カ、何言ってんの。そんなことじゃないの。ゆう子のことよ。ほら、8月のデートのこと。思い出してよ。ゆう子のビキニ」安田は、1回生の大家とのデートを誰かにチクられたのではないかとビクビクしていた。そのことではないことがわかり、ホッとした。

 

 「ゆう子のビキニがどうかしたのか?でも、ゆう子も結構大胆だよな~~。イサクのヤツ、よだれをたらして股間をジロジロ見てたぞ。さぞかし目の保養になったんじゃないか」リノは、目を吊り上げて安田をにらみつけた。「何言ってんの。そのビキニがいけないんじゃない。何よあの三角ビキニ。あれが、学生が着るビキニなの。熟女じゃあるまいし。みっともないったらありゃしない。いったい何を考えてるのやら」安田は、リノが言っている意味がよくわからなかった。「俺は、いいともうがな~~。チョ~~セクシーだったぞ。似合ってたと思うがな。ゆう子は、今はやりのビキニって言ってた。いいんじゃないか?あれって、へんか?」

 

 リノは呆れた顔で安田を見つめた。何かリノを怒らせるようなことを言ったのではないかと思い安田は身を引いた。男子は根っからのスケベと思ったリノはあきれてしまった。「まったく、男子ってのは、スケベなんだから。あのね~~そのセクシーってのがいけないっていうの。ちょっと考えればわかるじゃない。あんなセクシーな三角ビキニを見せられたら、イサクはどう思う?俺に気があるんだな、セックスOKってことだな、って思うはずよ。そうでしょ。そうじゃない?」安田は、自分が思っていたことをリノが発言したことに驚きを隠せなかった。「リノもそう思うか。俺もだ。だから、必死になって、デートを阻止したんだが、ゆう子のヤツ」

 

 


 腕組みをしたリノの顔は夜叉となっていた。「全く、どういうつもりなの。あんなんじゃ、次のデートでやられるな。まったく、能天気なんだから。ヤマト撫子も、地に落ちたもんだわ。バシッと、お仕置きをせねば」別にお仕置きってこともないと思い、なだめるように声をかけた。「いやま~~、そう、いきり立つこともないだろう。ゆう子は、軽い女子じゃないし。セックスは、バシッと断るんじゃないか?」何言ってんのという顔付きで安田をにらみつけた。「バカね~~。女子はイケメンに弱いんだから。甘い言葉を信じて、きっとやられる。イケメンの秀才よ。とにかく、何らかの策を練らないと。もうそろそろ、やって来ると思うんだけど」リノは、窓から南側の広い駐車場を見つめた。

 

 安田は、これ以上何を言っていいかわからなくなった。こんなに怒り狂ったリノを見たことがなかった。5分ほど沈黙が続くとリノが声を上げた。「あ、やっと来た。ほら、見て、スウィッシュ」安田は、駐車場に目をやると玄関正面にある駐車場から歩いてくるジーパン姿のゆう子が見えた。「ゆう子じゃないか。噂をすればなんとやら」リノがすぐに返事した。「何言ってんの。お仕置きするために、呼びつけたのよ。ガッツリ、お灸をすえてやるから、覚悟しなよ」リノは立ち上がり、玄関にかけていった。お仕置きが待っていることを知らないゆう子は、無邪気な笑顔で手を振っていた。ゆう子を迎えたリノは、笑顔でティールームに案内した。嵐の前の静けさを思わせていた。

 

 ゆう子がテーブルに着くと安田は、なるべく場を和らげようと明るい声で話しかけた。「スウィッシュ、どう調子?乗りやすいか?」リノの右横に腰掛けたゆう子は、笑顔で返事した。「とっても、乗りやすい。お母さんも買い物には最適って言ってた。女子でも取り回しできる重量で、バランスもナイス。思い切って買ってよかった。安田に、感謝」スズキ・スウィッシュはスズキ特約店の安田自動車が勧めたスクーターだった。「そうか。そうほめてもらうとうれしいよ。とにかく、安全運転で頼むな。事故でも起こされたら、俺の責任になるからな。まあ、ゆう子だったら、大丈夫だろ~」怒りを抑えたリノの気持ちを和らげようとワハハ~~と安田は大きな笑い声をあげた。だが、リノの表情には笑顔は起きなかった。

 

 


サーファーヒカル
作家:春日信彦
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