女子会

 安田は、両手で両ひざをポンとたたいて返事した。「メンバーの中に、一人でもネコ嫌いがいたら、この作戦はオジャンだってことだ。この作戦は、全員、ネコ好きでなければ成功しない。夕食は、7時からといっていた。それから、2時間ぐらい、飲んで歌ってバカ騒ぎする。それから、マリリンの出番だ」鳥羽は、真剣なまなざしでうなずいていた。「それじゃ、拒絶されないことを祈って、9時ごろになったら、先輩が、マリリンを部屋に運ぶってことですね」

 

 安田は、大きくうなずいた。「そうだ。9時ごろになったら、バカ騒ぎもひと段落つくはずだ。そこで、マリリンがさみしがっているといって、マリリンを部屋に持っていく。みんなが猫好きならば、キャ~~カワイ~~と言ってマリリンを歓迎するはず。こう、うまく事が運べばいいのだが」鳥羽にも安田の懸念がよく伝わってきた。「みんなが、ネコ好きであることを祈る以外ないってわけですね。マリリンはカワイ~からうまくいきますよ」

 

 鳥羽はメンバーのことが気にかかっていた。「先輩、横山さんは、H大学でしょ。校長が、わざわざ、この密会のためにアメリカから呼び寄せたんでしょうか?北原と峰岸は、三人より一つ下の後輩でしょ。そう、小島って誰ですかね。変わった、取り合わせですね。いったい、どんな女子会なんでしょうか?校長は、何か目的があって、招集したことは確かだと思いますが」

 

 安田は、さっぱり見当がつかなかったが、単なる親睦を深めるような密会ではないと考えていた。「思うに、校長は、6人に、何かをさせようとしてるように思うんだ。校長にとっては、とても大切のことを。リノから、詳しいことは聞き出せなかったが、宿泊費は、校長が支払うことになっているそうだ。リノも初めてのことで、全く訳わからん、と言っていた」鳥羽は、眠りに入っていたマリリンを抱っこしてご機嫌を取っていた。

 

 

 左腕のデジタル腕時計を見た安田は、腹ごしらえをすることにした。「7時を回った。俺たちも飯にしよう」安田は、二人分のまかない弁当を作っていた。「おい、豪華な弁当だぞ。まかないといっても、高級料理のあまりだ。ちらしずし、特上握り、ズワイガニ、クルマエビ、アワビ、サザエ、ウニ、糸島豚のとんかつ、佐賀牛のローストビーフ、こんなの食ったことないだろ~~」最近、鳥羽は金欠病で、ごちそうといえばコンビニの幕ノ内弁当ぐらいだった。「マジ、すごいっすね。ただ働きどころか、日当1万円もらった気分です」

 

 鳥羽は、特上握りのトロをポンと口に放り込み、ニコッと笑顔を作った。「先輩は、いつもこんな贅沢してるんですか。うらやましいな~。やっぱ、若旦那ですね」安田は、いつもはこのような贅沢はしていなかったが、大量に仕入れるため、時々、高級品を食べることができた。「バカ、これは、お客に食わせるんだ。今日は、鳥羽のために特別だ。リノがいいっていうから。リノにお礼を言うんだな」

 

 校長主催の会食は、リビングで7時に開始された。テーブルには南側に校長、東側にリノとゆう子と小島、西側に横山と北原と峰岸が腰掛けていた。校長は、6人の顔をゆっくり見渡し早速、話好きの校長は挨拶を始めた。「今日は、集まってくれて、ありがとう。久しぶりに、みんなの元気な顔が見られて、安心したわ。お互い、話したいことがあるでしょ。ワイワイ楽しくやりましょう。集まってもらったのは、私から、ちょっとお願いがあったからなの。そのことは、後で話します。それより、今日は、バカ騒ぎしましょう。そう、まずは、乾杯ね」

 

 校長は、右手のカルピスのグラスを高々と持ち上げた。みんなもジュースのグラスを高々と持ち上げた。「みんなの成功と日本の未来にカンパ~~イ」カチ~~ン、カチ~~ンとグラスの音が部屋いっぱいに響き渡り、拍手が起きた。校長は、今後の作戦のため近況の情報を収集をすることにした。「みんな、ガンガン食べてよ。それと、食べる合間でいいから、みんなの近況を知りたいわ。リノは、若女将だから、毎日戦争ね」

 

 

 

リノは女子会をさしはら温泉旅館で開催してくれたことに感謝していた。「はい、でも、自分の仕事に誇りが持てるようになりました。まともに高校も行きませんでしたが、今は、自分なりにやってけそうです。今回は、女子会を当旅館で開催していただき、ありがとうございます。久しぶりに、みんなとも会えて、本当に、うれしいです」校長は、さらに質問した。「そう、リノさんには、将来結婚する彼氏がいたんだったわね。楽しみね」

 

 リノは、目じりを下げて話し始めた。「それが、それがですね、彼って、浮気しているみたいなんです。思い過ごしかもしれないんですが、男子って、浮気するものでしょうか?結婚相手が目の前にいるっていうのに。校長、浮気してるでしょうか?」突然の浮気質問に面食らってしまった。ちょっと困り果てた表情の校長は、首をかしげて返事した。「浮気してるかって聞かれても困るわね。確かに男は、よく浮気するけど、リノの彼氏が浮気しているかどうかは、わからないわよ。何か、証拠でもあるの?」

 

 リノは、この際みんなに浮気の相談をすることにした。「あるんです。時々、香水のにおいがするんです。女子とデートしたっていう証拠でしょ、校長」香水だけでデートしたとは、断定できないと判断した。電車に乗っても隣の女性の香水の香りが移ることがある。「ちょっと、それだけじゃ、浮気したとは言えないんじゃない。彼は、女子とたびたび話をすることがあるんじゃないかしら。対面して話をしていても、香水の香りが移ることもあるのよ」

 

 さらに疑い深い表情を作ったリノは、話を続けた。「でも、ハル君って、意外とモテルんです。執行部の女子と打ち合わせをやっているといってるんですが、その女子って、かわいいに決まってます。気になって、しょうがないんです。最近は、夜も眠られないくらい、気になるんです。リノって、嫉妬深いんですか?」校長は、かなりリノは嫉妬深いと思ったが、結婚を約束していれば、嫉妬深くなるのはやむを得ないと思えた。「そうね~、でも、一番大切なことは、信じることじゃないかしら。信じてあげなさいよ、彼を」

 

 

 安田が旅館でバイトしているときは、監視できて気分が落ち着いていたが、大学に行っているときは、デートしているんじゃないかと疑心暗鬼になっていた。信じてあげなさい、と校長に言われてみると、自分の嫉妬深さが嫌になってしまった。でも、純白のウエディングドレスを着た自分の姿が頭に思い浮かぶとほんの少し気分が楽になった。「そうですね。リノって、嫉妬深いんですね。わかりました。信じてみます。2年後には、結婚するんだし。もう少しの辛抱」

 

 結婚と聞いた、ゆう子は、ひらめきを口にした。「婚約したんだし、2年後といわず、来月にでも、結婚したらいいじゃない。善は急げって言うでしょ。絶対、すぐに結婚すべきよ。そうすれば、浮気の心配もしなくていいし。最近、結婚してる学生多いんだから」突然結婚といわれても、リノには心の準備がなかった。しかも、自分がしたいと言っても、相手がOKしなければ実現しないことだと思った。

 

 「え、来月、結婚。結婚はしたいけど。まだ、学生よ。あいつ、なんていうか?それは、無理じゃない」校長は、飛躍した話にストップをかけた。「ちょっと、ゆう子、結婚って、そんな簡単なことじゃないの。本人だけじゃなく、家族の同意も必要なのよ。まずは、リノと彼氏で、しっかり話し合うことね。そういう、ゆう子は、どうなの?彼氏は、できたの?過去を引きずっていても、前進しないわよ」

 

 ゆう子は、自分のことになると黙り込んでしまった。リノが、ここぞとばかりブサイクの話を始めた。「あいつがいるじゃない。校長、知らないんですか。顔はいまいちだけど。え~~と名前は何と言ったっけ、ゆう子。ほら、あいつよ、ウ~~、ブサイクなやつ。ゆう子のストーカーみたいなやつ」ゆう子は、鳥羽のことを言っているとわかっていたが、自分のファンをブサイクといわれるとむかついた。「鳥羽君でしょ。彼は、ストーカーじゃなくて、ちゃんとしたファンの一人よ」

 

春日信彦
作家:春日信彦
女子会
0
  • 0円
  • ダウンロード

15 / 29

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント