女子会

 安田が旅館でバイトしているときは、監視できて気分が落ち着いていたが、大学に行っているときは、デートしているんじゃないかと疑心暗鬼になっていた。信じてあげなさい、と校長に言われてみると、自分の嫉妬深さが嫌になってしまった。でも、純白のウエディングドレスを着た自分の姿が頭に思い浮かぶとほんの少し気分が楽になった。「そうですね。リノって、嫉妬深いんですね。わかりました。信じてみます。2年後には、結婚するんだし。もう少しの辛抱」

 

 結婚と聞いた、ゆう子は、ひらめきを口にした。「婚約したんだし、2年後といわず、来月にでも、結婚したらいいじゃない。善は急げって言うでしょ。絶対、すぐに結婚すべきよ。そうすれば、浮気の心配もしなくていいし。最近、結婚してる学生多いんだから」突然結婚といわれても、リノには心の準備がなかった。しかも、自分がしたいと言っても、相手がOKしなければ実現しないことだと思った。

 

 「え、来月、結婚。結婚はしたいけど。まだ、学生よ。あいつ、なんていうか?それは、無理じゃない」校長は、飛躍した話にストップをかけた。「ちょっと、ゆう子、結婚って、そんな簡単なことじゃないの。本人だけじゃなく、家族の同意も必要なのよ。まずは、リノと彼氏で、しっかり話し合うことね。そういう、ゆう子は、どうなの?彼氏は、できたの?過去を引きずっていても、前進しないわよ」

 

 ゆう子は、自分のことになると黙り込んでしまった。リノが、ここぞとばかりブサイクの話を始めた。「あいつがいるじゃない。校長、知らないんですか。顔はいまいちだけど。え~~と名前は何と言ったっけ、ゆう子。ほら、あいつよ、ウ~~、ブサイクなやつ。ゆう子のストーカーみたいなやつ」ゆう子は、鳥羽のことを言っているとわかっていたが、自分のファンをブサイクといわれるとむかついた。「鳥羽君でしょ。彼は、ストーカーじゃなくて、ちゃんとしたファンの一人よ」

 

 鳥羽と聞いて寅次郎のようなブサイクな四角い顔をはっきりと思いだした。「そう、鳥羽君ね。ハル君の写真部の後輩なのよ。医学部っていうじゃない。将来は、お医者様か。有望株じゃない。ゆう子、一度付き合ってあげたらいいのに。男子は、顔じゃないかも。意外と相性があったりして」鳥羽は、やさしくて嫌いじゃなかったが、やはり、付き合う相手じゃないように思えた。「鳥羽君は、単なるファン。私は、当分彼氏はいらないの。今は、生徒たちに英語を教えるのが楽しくって。校長に感謝してます」

 

 校長は、糸島中学でゆう子に英語の教育実習をさせていた。「ゆう子は、糸中で教育実習をしてるの。結構、生徒には、人気があるのよ。もう、糸中のアイドルになったみたい。将来は、英語の教師をさせるつもり。ゆう子、頑張るのよ。そして、日本一の糸島中学にしてちょうだい」あまりにもはっぱをかけられたゆう子は、緊張のあまり甲高い声で返事した。「はい、やれるだけのことは、頑張ります。まだ、ひよっこだから、そう、はっぱかけないでください」

 

 校長は、笑顔を作り、北原の近況を聞いた。「北原さんは、医学部だから、毎日、勉強でしょ。将来は、研究者になるの?」北原は、将来のことはまだ考えてなかったが、ニューロンとグリア細胞についての研究をやってみたいと思い始めていた。「まだ、医学のイロハって感じなんです。まだまだ、長い道のりの第一歩を踏み出したって感じです。覚えることが多くて、医学部がこんなに大変なところだとは思いませんでした。バイトしたくても、今のところ、全く時間がないんです」

 

 医学部はハンパない勉強量と知っていたから、北原の毎日が想像できた。「そうでしょう。医学部だもの。弱音をはいちゃダメ。横山に続く糸中の秀才として、ノーベル賞を目指してちょうだい。糸中からノーベル賞受賞者が出たら、鼻高々だわ。期待してるわよ」校長は、相変わらず自分が有名になることしか考えていなかったが、結果を出す校長ということで父母からは、絶大なる信頼を得ていた。

 

 校長は、右隣の横山に視線を移した。「横山には、迷惑かけたわね。無理だったら、断ってもよかったのに。本当に、帰国して問題なかったの」横山は、笑顔で返事した。「H大学は、研究目的がはっきりしていれば、意外と海外短期留学が可能なんです。成績さえよければ、特に、許可が早いんです。研究テーマは、「日米安保条約と日本国憲法改憲の是非について」なんですが、T大に1か月間の短期留学許可をもらったんです。みんなにも会いたかったし、校長の招待に感謝しています」

 

 校長は、横山の成長を感じた。「何か、すごく大人になったみたい。欧米人の彼氏でもできたのかしら。日本人は、欧米人にもてるというじゃい。まさか、教授と不倫てことはないわよね。横山は、度肝を抜くことをやるから。冗談はさておき、将来は、何になるつもり?」不倫のことを言われ、心臓が止まる思いだった。だが、平静を保ち返事した。「大学からは、国防省を勧められているんです。でも、国連で働きたいとも思っています。迷っているんですが、H大学では、優秀な学生は、3年次で就職を決めるんです。ちょっと、焦っています」

 

 アメリカでは、政府関係の機関やトップ企業が、トップランクの大学の優秀な学生を青田刈りするのが通例になっている。特に優秀な学生は、2年次で就職先が決まってしまう。国防省、DIACIAは、学生にターゲットを絞ったヘッドハンターなるものを使い、特別なルートで内定させているという噂がある。優秀な日本人として、横山に、国防省が目を付けたと思われた。

 

 校長は、できれば日本の大学に就職してほしかった。というのも、校長の手足として働かせたかったからだ。「自分の決めた道を進むのが一番。でも、日本の将来のために、日本の大学で教鞭をとるのも悪くないと思うんだけど。もし、希望する大学があれば、言ってちょうだい」校長は、参議院議員で大学の顧問もやっている父親に頼めば、どの大学にでも就職させることができた。

 

 当初、日本の裁判官を目指していたが、H大学で学ぶようになってからは、日本の司法制度に疑問を抱くようになっていた。今では、日本の大学で教鞭をとりながら、日本の司法の改革に取り組みたいと思うようにもなっていた。「ありがとうございます。3年次には、決定したいと思っています。その時は、よろしくお願いします」校長の策略は、なんとなく感じ取っていたが、校長の政治力を利用したいとも思った。

 

 現在婦人警官でバリバリやっている峰岸に校長は目を移した。「峰岸、昨年は、全日本で準優勝だったじゃない。やるわね。峰岸の活躍で、剣道部員が毎年増えているし、成績もうなぎのぼり。峰岸様様だわ。」峰岸は5歳のころから剣道一筋でやってきた。九州では、敵なしであった。「母校のためにも頑張ります。今年こそ、優勝して見せます」

 

 校長は、峰岸が女子の部長だった時の男子部長をしていた三島の活躍について話し始めた。「ほら、峰岸のライバルだった三島君。全日本学生で優勝したんだってよ。峰岸の彼氏でしょ。今でも、付き合ってるの?彼なら間違いないわ。男の中の男よ。今時いない、武士のような男子ね」峰岸は、時々、三島と練習をしていた。「彼氏っていうほどじゃないんですが、時々練習相手をやってもらっています。ここまで強くなれたのは、三島のおかげなんです」

 

 校長は、峰岸の気持ちがよくわかっていた。「あらあら、お熱いこと。剣道でデートってことでしょ。好きはものの上手なれ、っていうけど、ほんと好きになると上達するってことかしら。とにかく、以前は、鬼校長といわれていたけど、二人のおかげで、文武両道の校長と言われるようになって、感謝してるのよ」冷やかされた峰岸は、顔を真っ赤にして顔をキョロキョロさせた。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
女子会
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